第30話

 涼はその場に倒れていた。タールの霊魂はその場に止まっていたが、グーンが消える様子を見届けるとまた姿を消してしまった。あたりは静寂に包まれていた。

 涼のいる場所から100m離れた場所に、その様子を観戦する2人組。男は執事服。女はスチュワーデス!?


「見事な戦いでした。たっくんの助言で留まって良かったよ。ここは戦闘外地域ですけど、良いものが見れましたわ」


「お嬢様、紅茶のおかわりは如何でしょうか?」


「ええ、いただくわ」


 ミカは椅子に座り、パチパチと拍手を送った。その横で隆は給仕をしていた。紅茶の茶葉はダージリン。爽快感のある香りが漂った。


「しかし、奴は名前を偽っていましたね。ササキ タケシではなく、サガワ リョウが本当の名とは」


「彼はサガワ リョウという名前だったの。ふーん、たっくんから見てあの子はレベル1に見えた?」


「いえ、前回戦ったときは確かに武器を振り回すだけのレベル1の異能者でした。それが今回は奇妙な影の技と異能の応用ができておりました。奴はレベル2相当かと。見立てを誤っておりました」

 

「謝る必要はないわ。レベル2か。少し挨拶しにいきますか」

 

 ミカは急に立ち上がった。隆は慌てた。

 

「あのような、下賤の輩に挨拶など不要です」


「何が下賤なの?」


「アイツはお嬢様の裸を見た男です。絶対に生かしておくことはできません。ここで仕留めるべき男です」


「ふふふ、私の裸キレイでしょうね」


「笑い事ではありません」


「尚更、会いたくなったわ。いきましょう」


 涼は黒い血を流し過ぎたのか、全く動けなかった。そこに近づいてくる2人組がいた。タールの霊魂は慌てた様子で姿を現した。


「まずいな。力の差があり過ぎる。あの2人から感じる異能は別物だな、この感じはイリの本気モードに近いか。おい、起きろ」


 2人組の1人は一瞬で距離を詰めてきた。


「あらあら、可愛らしい霊魂さん。こんにちわ、ご機嫌如何ですか?」


「おっと変な動きを見せるなよ」


「コラコラ、たっくん怖いよ。そんなこと言わなくていいよ」


「ですが、得体の知れないものです。どのような危険があるともわかりません。お嬢様はお手を触れぬように…って……お嬢様〜」


 ミカは、霊魂を興味深そうに手で触診していた。


「よく見ると可愛いいよ。今度は霊魂とセットで幽霊コスプレでもしてみようかしら」


「このヤロー、お嬢様から離れないか。霊魂とはいえ失礼だぞ。おい、なんとか言ったらどうなんだ」


 タールの声は涼と影達以外、聞こえないらしい。


「騒がしい連中だな」


 ミカは倒れている涼の元へ向かった。


「さて、たっくん治してあげて」


「はい、ねじ曲がった根性などを校正し、別人格に直します」


「いや、改造は不要だから。話をしたいから、治療してあげて」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

 隆は涼に向けて、手をかざす。涼の傷はみるみる塞がっていった。


「お嬢様、外傷のみ治しました。これで話だけはできるかと」

 

「たっくん、ありがと。さて、サガワ リョウくん聞こえますか?」

 

「おい、起きろ破廉恥ヤロー」


 隆は涼の頭をペチペチ叩いた。涼の右人差し指がピクっと動いた。

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