戦いの後に

第31話

「誰だ? 頭を叩くのは。ごふぅ」


 涼は口から黒い血を吐いた。内臓はグチャグチャでかなり痛い。なぜか外傷はなく、綺麗なのかと気にする余裕はない。頭はかろうじで少し動かせた。相手の顔を見ようと伏せていた顔を上げた。「透明な壁? なんだこりゃ」


「おい、破廉恥偽名ヤロー。お目覚めか、お嬢様に汚い血をかけるなよ」


 隆とミカは壁越しで涼に話しかけている。「汚い」って言われても困るんだがな。


「お前は、吉田 隆だっけ…隣にいるのはミカだったか……」


「はーい、涼さん初めまして。私、ミカ=セラローズ 佐々木と言います。涼さんだからりっくんだね。宜しくね、りっくん」


「……(おい、おい、いきなりあだ名かよ。随分馴れ馴れしいな。あぁ、腹いてぇー)」


「お前、今馴れ馴れしいと思っていないか? お嬢様に失礼だろう、今度こそこの場でとどめを刺してやろう」


「……(コイツは、人の顔色で何を考えてるか読まないでくれるかな。頭回らないし腹いてぇーよ)」


「さて、りっくん。自己紹介も済んだことだし、聞きたいことがあるんだ」


 涼の左頬から汗が流れ、何を聞かれるか少し緊張した面持ち。


「次のコスプレ衣装なんだけど、私は何が似合うかな。私としては、バーのマスターか白の幽霊衣装だと思うんだよ。ねぇ、どう思う?」


「今聞くこと、それ」


「おい、貴様は聞かれたことだけ答えろ。いいな」


「バーのマスターかな」


「そうか、わかった。たっくん決まったよ。次はバーのマスターでいくよ。次回に着るから準備よろしくね」


「はい、かしこまりました」


「このやり取りは何だ?」涼は拍子抜けした顔でミカと隆を見た。


「うん、うん、それで本題だけど。さっきの影さんとあの霊魂は何なの、教えてくれる?」


「影のことが知りたいのか」


「前置きはいらん、お嬢様から聞かれたことだけ簡潔に答えろ」


「影達は俺の命を狙っている。霊魂は敵の影だった奴らしい」


「そうなんだ。何で狙われてるの?」


「理由は知らない、影の親玉であるサーザスに聞いてほしいくらいだ」


「サーザス? そんな人がいるんだね。なるほど、ある程度はりっくんが抱える事情がわかった気がするよ。ありがとね」


 ミカの輝かしい笑顔と金髪の髪は、天女かと想像するような美しさだった。隆はジト目で、涼を睨みつけていた。


「目付きがやらしいな、その緩んだような顔をお嬢様に見せるな」


「俺がどんな顔をしようが、関係ないと思うがな。とりあえず、助かったよミカさん、それにたっくん」


「お前はダメだ。その名で呼ぶことを許可した覚えはない。今すぐ呼ぶのを止めるか死ぬか、選ばせてやろうか」


「冗談だよ」


「何だか、2人とも息ぴったりだよ。りっくん、たっくんも仲良さそうで良かったよ」


 隆と涼はお互いに「仲良くなんてならない」と口を揃えて発言した。その2人の様子を見て、ミカは大声で笑っていた。


「あぁ、楽しかった。そろそろ終了の鐘がなるかな。あー、そうだ、りっくん最後に1つ聞いていい?」


「何だよ」


「篠原 恵って女の子知ってる?」

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