第21話

 グーンはフラフラしながら、その場に座りこんだ。


「ほぅ、やるな」


 涼は膝を着き、グーンを睨みつけた。「とっておきだ、受け取れ。渾身の一撃を喰らわせてやった」グーンの右手と胸部からは、黒い血が流れ出ていた。地面に突き刺さった影の矢は空中へ霧散していく。そのとき、いきなりグーンは大声で笑い出した。


「ハハハ、佐川さんよ、中々気合いの入った強い一撃だったぞ。危うく逝きかけたわ、ふふっ‥」


 ポツポツと小雨が降る。グーンは腹太鼓を鳴らし、起き上がる。


「ということでそろそろ本気だすかいな」


 グーンの出血が止まり、瘡蓋ができた。全身の皮膚がどんどん分厚くなっていく。体のいたる部位がブヨブヨと生き物が這っているように動き、硬い筋肉が形成される。その姿は、例えるなら岩石の鎧兵だ。その場で仁王立ちし、ゆっくりと口を開いた。


「さぁ、改めて自己紹介だ。俺は、グルメ担当グーン。サーザス様を如何なる脅威から守る盾だ」


 涼は驚愕する。「反則だ、真の力を隠していた」だと。「こんなのどうしろと、逃げるべきか。いや、倒すと決意した手前、この場を引く訳にはいかないんだ」身を屈め素早く前進し左拳を大きく振りかぶり、グーンに突きを当てた。パキーンと鈍い音が鳴る。


「ぐわぁぁぁぁ」


 涼の左拳から腕にかけて、粉砕骨折していた。グーンの皮膚は固く、氷山の壁を殴っているかのようだ。あまりの痛みに悶えて苦しむ。半泣きになりながら、後方へ距離を取った。


「さぁ、本気の闘い、死合いをはじめよう。出し惜しみはするなよ、後悔するぜ」


 ズシーン、足音が響く。メキメキ、地面が重みで陥没する。1歩1歩ゆっくりと確実にこちらに近づいてくる。ゆっくりと近づくあたり、どうやら全身の重みで早く走ることはできないようだ。


 グーンが1歩近くごとに怖いと感じる。その感情をきっかけに「無理だ、勝てない」と考え始める。冷静になれず負のスパイラルは続く。どんどんネガティブな考え方になっていく。考えがシャットダウンできない、止められない。


 そして涼の不安値メーターは、急加速で振り切った。涼は後ろを振り向き、逃げ足UPの異能で一目散に逃げ出した。


「逃げることはできんぞ、俺のもう1つの能力で追跡している。必ず、追いつくぞ。お前は絶対に逃がさん」


「そんなこと知るか、こんなところで死ぬ訳にはいかない。今は逃げることだけ考えろ」雨で足跡が残り、土が泥濘んで歩きにくい。つい余計なことを考えてしまう。


 天気は雨となり、雨音があたりに響いていた。

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