第13話

「あたしさぁ、思うんだよね。たっくんもコスプレするべきだよ」


 金髪の女性が指を差し、執事の男を見つめた。


「お嬢様、私のことはどうぞお気になさらず。

お気の済むままに」


 深々と一礼した男性は、顔立ちが凛々しく女性受けが良さそうだ。


「たっくん固いよ」


 金髪の女性は、青い目とプローポションも良く日本人離れしている。何とも「小柄で可愛らしい見た目」だ。なぜか、日本刀をぶら下げている。


 涼は望遠鏡で観察を続けると、前方にテンプレートのようなモブキャラAとBの2人組が現れた。


「ゲームのチュートリアルみたい」だ。そう思いつつ、相手の異能を知る良い機会としめた顔で望遠鏡の観察を続けた。


「君、魅力的だね。ほんと残念だよ、この世界じゃなきゃ確実に口説いてるのに」


「ちげぇねぇ」


 モブ2人は会話をしているが、執事の男性とナース姿の女性は無視しながらひたすら前を歩き、通り過ぎてしまった。


「おい無視するな」


 モブAが女性の肩に触れた。


「お触りは厳禁ですよ」


 執事の男性が、右ストレートでモブAを殴る。モブBが追撃を試みる。執事の男性がモブBに詰め寄る。


 モブBに対しローキックを腹部に入れ、相手との距離を取った。


「ふざけんなよ」


 眉をへの字にした怒り顔をしながら、モブ2人は異能の力を呼ぶ準備をした。


「遅いですよ」


 執事の男が地面を叩くと壁が出現した。


 モブ2人は驚いた顔をしていると、壁の中から土のオネェ騎士が現れた。騎士は男2人を抱えたまま、走り出した。そのまま森林の奥深くに消えていった。


「あらら、お早いお帰りで」


 金髪の女性は名残り惜しい演出をしてみせた。


 執事の男性と金髪の女性が会話している様子を見て、涼は異能の力を唱える。耳元が光出して、イヤホンとトランシーバーが発現した。これは視認した相手の話を聴くことができる代物だ。


「たっくん、良い働きでしたわ」


「いえいえ、ミカお嬢様も流石です。セラローズ家に恥じない仕草感服です」


 お辞儀も上品にスマートであった。


 涼は頭の中で状況を整理した。


 《ミカ》

 女性。

 身長155cm前後、金髪、青い目。

 ロングパーマの美女。

 スタイル抜群。

 服装は白のナース服を着ている。

 異能不明。


 《たっくん》

 男性。

 身長170cm前後、茶髪、黒目。

 前髪がギザギザし鬱陶しそう。

 服装は黒の執事服を着ている。

 異能は壁を作り、騎士を出現させる?


 やれやれとした顔をしながら、涼は観察を続けた。

 すると、先程のモブ2人の親玉と思われる男がミカとたっくんの前に立ちはだかった。


 1.5mのサスマタを片手に持ち、憤慨した様子だ。

 3人の会話を聴くべく、涼はイヤホンの音に集中した。


「あらあら、見事なサスマタですこと。今度はポリス服もいいかもしれませんわ」


 ミカはモブ親に拍手していた。


「ふざけるでねぇ、よくも可愛い部下2人をやってくれたな」


 モブ親はサスマタを構えた。たっくんがミカの前に立つが、手を掴み任せてとアイコンタクトを送る。


「何やってんだ、イチャイチャと。反省しろや」


 サスマタをミカに向けて、勢いよく突き立てる。ミカはサスマタに囚われてしまった。サスマタの先端は円を描き、ミカを拘束した。


「おやおや、拘束プレイですか。創作意欲が湧きますわ」


 ミカはクスクスと笑っている。


 モブ親はここだとばかりに、異能の力で斧を発現。ミカの頭目掛けて振り下ろした。


 次の瞬間、ミカが急に爆発した。


 火山の溶岩が噴き出るようだった。サスマタと斧は、瞬く間に溶けてしまった。溶岩の鎧を纏ったミカが笑っている。


「なんだ、この異能は」


 涼は驚愕した。


 この3ヶ月間、いろんな対戦者を見てきたが「明らかに反則」と思える異能だ。何故なら、自身の攻めと守りを同時に熟す異能は「限りなく貴重」だからだ。


「あなた、斧とサスマタ見事でしたわ。敬意を表して一撃で終わらせる」


 ミカは右手を前方に向け、高圧の水蒸気を放出。モブ親は逃げ出そうと背を向けたが、間に合わない。


 モブ親の全身が赤から黒に変色し、そのままモニュメントのような姿で絶命した。

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