第12話

 涼は現実の世界で目を覚ました。


 時計をみると7時だった。

 パジャマからワイシャツとズボンに着替えた。


 学校の時間は8時45分から16時まで。

 部活動は入っておらず、学校が終わるとアルバイトに勤しんでいた。


 メインは配送業。サブは日雇いの仕事をしていた。配送業は恵と同じ職場だったが、もう誰も「恵のことを覚えていない」


 アルバイトが終わった帰り、ふと恵とのやり取りを思い出した。


 ガッシャン。


 大きなガラスが破損した。馬鹿ヤローと大きな声が響く。涼は夜間の荷物収集で、お客様の荷物を破損してしまった。

 タコみたいに真っ赤にしたおじさんがプンプンしながら、事務所に駆け込む。


 涼は休憩を言い渡され、頭を冷やすためベンチへ向かった。


 すると、事務所の扉が開いた。中から恵がこちらを見つめていた。


「どうしたの〜涼ちゃん。悩みなら聞くよ」


 涼はあのおじさんとの無茶な荷運びの愚痴を話した。


 恵は手紙収集の仕事で、涼と同じアルバイト先を選んでいた。こんな些細なことをいつも聞いてくれていた。


 隅田川のジョギングコースにある石を川に向かい投げ込んだ。


「居なくなって、気がつくこともあるんだな」


 涼は自宅に向かい、家族と共に夕食を済ませた。お風呂に入り、学校の宿題を済ませる。

 ここまでは普通の高校生なのだが、ベッドで眠りに入るとニーグリの世界に召集される。


 髪型も現実とは異なり、少し髪が伸びている。前髪も少し目にかかる。


 足早に待機スペースの大型モニターへ行く。ここでは、ポイントランキングと各戦闘地域の参加者が表示されている。


 戦闘地域は選択式であり、今回は2を選んだ。この3ヶ月は漆黒のマントとタールのクロスボウを多用し相手に降参させる勝ち方を取っている。


 因みに漆黒のマントの能力は、「ほとんどチートだ」相手の認識を阻害する。この効果は相手に認識されると一時的に効力を失う。効力は1時間ごとにリセットされる。


「さて、そろそろ時間か」


 戦闘参加者の足元に影の塊が現れる。


 その瞬間勢いよく、落下した。まるで、「命綱なしのバンジージャンプのようだ」


 ある程度落下すると急に勢いが弱まり、ふんわりと地面に着地した。影が徐々に晴れ、街や山が見える。


 街の看板には、富士吉田と書かれた看板が見えた。


「富士山が綺麗だ。

さて、ポジションに着くか」


 涼は慣れた様子で、崖を登り始め高台を探していた。道中、小高い山から観える富士山の景色を楽しんだ。


 暫く、歩くと大きな木を見つける。周囲を見渡し、眺めよし。紙を左ポケットから取り出し、異能の言葉を呟く。


「高きを渡る。如何なる場所にも、制限なく。搭乗は、縄梯子を」


 木に左手を添えると上空から縄梯子が伸びてきた。格に左手と足を掛ける。


 ロープリフトのように静かに上昇していく。目的の木の枝に着くと縄梯子は消えた。


 この力はどんな場所でも「縄梯子を呼び出すことができる」草木が生い茂り「身を隠すにはうってつけの場所だ」後はひたすら待ち「タールのクロスボウを出現させる」だけだ。


 タールのクロスボウは、影の弓を自動装填される。30発まで打つことができるが、小型なので威力はあまり高くはない。


 飛距離は300mと中々使い勝手が良い。しかも影の矢は対象物に命中すると、霧散する。「そう、回収する必要がない」のだ。


 首にぶら下げた小型の望遠鏡で周囲を観察すると、鹿が群れを成していた。


 あれから2時間経つが誰もいない。


 足をぶらぶらさせながら、望遠鏡を回し遊ぶ。遠くから、大声で話す金髪の女性と茶髪の男が会話していた。


「カップルか」


 望遠鏡を覗くと、ごほんと咳払いした。


 そこには、ナース姿の金髪女性と茶髪執事の男性がいた。

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