第19話

 グーンの強靭な太ももの筋肉は、カエルのような伸縮性なバネ要素もある。


 その動きは、まるで筋肉の塊のロケットだ。そこに左右の手の動きが加わると、ミキサーのような鋭さを持つ。


「さぁ、避けてみせな」


 涼はその場に伏せた。グーンが涼を通り過ぎ、木を薙ぎ払っていく。その姿はチェーンソーが付いた掘削機のようだ。


「この攻撃は急に止まれねぇんだよな。俺はグルメ担当だからな、ミキサー担当イリのようにはいかねぇーか」


 グーンは、涼から離れた所から同じ攻撃を繰り返した。ダチョウの無尽蔵なスタミナで迫られ、ヒクイドリのキック攻撃をされているようだった。


「…(くそ、避けるだけで疲れる。イライラする)」


 鼻呼吸から口呼吸に変わる、疲れが見えてきた。油断した訳ではないが、あまりの攻撃に如意棒の先端が折れてしまう。


「まだ諦めない」


 涼は意識を強く持ち、如意棒の修復を試みた。光が小さく治りが悪い。急に気持ち悪くなり、黒い血を吐いた。もはや、如意棒の修復は不可能だった。


「もう限界か、さっくと終わらせてやるよ」


 涼は逃げ足UPの異能を使って、グーンの方向に走り出した。グーンは驚いたが、途中で止まることができなかった。涼は木を縫うように奥深くに消えていた。


 ある程度グーンと距離が開いた。太い大木を見つけ、縄梯子の異能で登る。木の枝まで、辿り着くとその場に寄り掛かるように休憩した。


「どこだー、佐川、俺から逃げんのか。出てこいー」


 グーンの声が響くが、涼は無視して仮眠し体力回復に努めた。5分休憩したとき、木が小刻みに揺れ始めた。グーンとの「距離が近づいた」と察した。


「…(来たか、あまり休めなかったが、やるしかない)」


 涼は目を覚まし、縄梯子を出した。木の下に降りると前方を確認し、大木の後ろに回り込んだ。背中を木にピッタリと付けて寄り掛かった。


 グーンと渡り合うためにも、残り使える異能を改めて確認した。


《武器》

 ガントレット    修復可能

 如意棒       修復不可能

 タールのクロスボウ 複数回使用可


 《スキル》

 マント 機能回復時間を待ってくれる訳もない

 モークル、逃げ足UP、縄梯子、イヤホン 武器にならん


「…(くそ、異能は10個満タンで持っていけない不便な設定だ)」


 相手の異能を取得するためには、空きがなければ異能を獲得できない。ポイント稼ぎが仇になってしまった。


「…(修復する武器は決まってるだろ)」


 涼の左手が光り始めて、ガントレットを装着した。精神を集中し、修復作業を頭の中でイメージした。壊れた破片が1枚1枚貼り付き、新品に近い状態へ修復されるのがわかる。


「そこか、佐川。今度こそ、息の根を止めてやるぜ」


 ワンパターンで突進してくるグーンに対し、涼が真正面から向かい打つ。

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