第6話
佐川は「ここぞ」とばかり、タールを追いかける。1階の工場に窓ガラスはないため、工場入口まで走る。
入口は鎖で封鎖されていたが「この力なら破壊」できる。入口が見えてきた。
右手に力を込め、左手で勢いをつけ右拳を飛ばした。
タールは空を見ていた。
「…(空は青いな)」
「空を見上げている」場合ではない。
起き上がろうとするも脳震盪を起こしたかのようにフラフラしている。口からは黒い血を吐いた。
「…(あの小僧め、よくもやったな)」
怒りで目の前に黒い影がタールを取り囲む。
「屈辱だ、怒髪天だ」
高らかに雄叫びを上げると、影の力が右手へ集約されていく。
直後、工場入口が吹き飛ばされた。佐川が姿を現した。タールの右腕2本は、1本の巨大な矢へ姿を変えていた。
「力の使い方を知らない、小僧よ。ここで、息の根を止めてやる」
サーザスの指令は自分を食べるのが目的ではないのかというツッコミを我慢し飲み込んた。
佐川も左頬を叩き、気を引き締めた。
タールは巨大な矢を左手2本で支える。地面に亀裂が入る重さだ。右腕2本はなくなり、影が漂っている。
尖矢は推定縦横40cm。矢というよりも釘のような形状をしている。
タールは大きく息を吐き、ゆっくりと佐川を見た。
「ククク、今度こそ終わりだ。そして、私こそが最強だ」
余程強さに固執しているように思える。
「お前はなぜ、1番に拘る。
影の中にも序列があるのか。
影同士で争ってでもいるのか」
タールは興奮気味に答えた。
「影同士の争い、そんなものは私の勝ちで決まりだ。お前は当て馬ダ、ワタシの。ヒャハハハ、オマエはアテ馬、ヒャハハハ、ぐぬぬぅ、消えも、ガイは、ばあのしかいがら」
タールと会話が成立しない。
矢を巨大化させた反動なのか。どうやら技のリスクがあるようだ。タールは4本の足に力を入れた。
2本の左手で矢を掴み、投げる姿勢をとった。佐川も左手をポケットの中に入れ、何かを取り出した。
「…(これでケリをつける)」
取り出したのは、マッチ箱だった。
タールの左腕の筋肉が膨張する。佐川がマッチ箱からマッチを取り出す。タールが狙いを定める。
佐川がマッチに火を灯し、右手から左手へマッチを移動させる。タールが叫ぶ。
「終わりぃぃだぁ」
佐川は左手でタールへ向けて、マッチを投げる。タールは巨大な矢を投げ飛ばす。
最早、目で追える速度ではない。佐川はマッチを右の拳で殴る。
殴られたマッチは燃え尽き、大きな火の渦となり前方へ広がる。巨大な矢と炎が接触し、矢は燃え尽きた。
タールの見る景色はスローモーションになった。実際はスローモーションではないが、そのような感覚に襲われた。
炎の真横を佐川が走り抜けてくる。避けなければ、頭が理解しても体は動かない。
佐川は右手を握り締め、タールの腹部にアッパーを入れた。拳の波動がタールの腹部を貫通し、黒い血が銃弾のように飛び散る。
「ナゼダ。オマエのような‥」
タールは前方へ倒れこんだ。影が蜜蜂のように霧散していく。消えいくタールをぼんやりと見つめた。
「…(やはり、この力は拳を飛ばすのではなく、増幅機かもしれない)」
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