第52話
涼は覚悟を決める。
涼の拳が光に包まれると、空間全体が震えるような気配を感じた。光と闇が交錯する幻想的な世界で、彼の意志が形となり、確かな力として具現化されていく。
「これが……俺の力か?」
拳を握ると、光が脈打つように拡がり、彼の体中にエネルギーが循環するのを感じた。かつての自分では到底想像できなかった感覚だ。しかし、迷っている暇はない。目の前にはサーザスの手下たち―――人の形をしてはいるが、その禍々しい雰囲気からは明らかにこの世界の住人ではない異質さを感じ取る。
「影達の声が聞こえる」
助けて、苦しい、もう終わりにしてくれ。冷笑を浮かべながら涼に向かって断末魔が飛び交う。その衝撃は空間さえ切り裂きそうな勢いだ。だが、涼は動じなかった。
「そんなもんじゃ俺を止められねえ!」
涼はガントレットの拳を掲げ、力を解き放つ。両拳がぶつかる瞬間、眩い影が辺りを包み込み、強烈な衝撃波が周囲を駆け抜けた。
――ガキンッ!
砕け散る音が響き渡る。影達もたじろぐ程の威圧が襲う。様々な叫びが木霊する。
「俺には仲間の力がある!」
涼の叫びが虚空に響く。その言葉と共に、彼の背後に田中さんと恵の面影が浮かぶ。田中さんは何度も涼を励まし続けてくれた、彼にとっての希望そのものだった。そして、耳元には恵の優しい声が今もなお聞こえる。
「佐川君、大丈夫。私たちはいつでもあなたの味方よ。」
その言葉を胸に、涼はさらに力を解き放つ。拳から放たれた影の波動は幻覚を薙ぎ払い、次々と消滅していく。その力は純粋で、どんな影も拒絶するような絶対的なものだった。
―――が、涼も限界だった。その場に黒い血を吐いて倒れた。
「まぁ、あんだけ無理するば倒れるわな」
「ちくしょう、動けねぇ」
タールの霊魂は涼の頭を飛び回る。
涼が苦しげに地面に伏したまま呟くと、頭上をクルクルと飛び回るタールの霊魂が嘲笑を混ぜたような声を上げた。
「お前はバカヤローだな?」
「…うるせぇ……けど、これ以上は無理かも……」
涼の拳は震えていた。限界を超えた力を解放したせいで、身体中が悲鳴を上げている。それでも、彼は立ち上がろうとする意思を見せる。だが、その動きは鈍く、今にも崩れそうだった。
タールの霊魂は一瞬黙り込んだが、やがてため息混じりに言葉を続けた。
「ったく、見てられねえなぁ。お前は根性だけは一級品だな。それは認めてやろう」
「根性しかねぇからだろ……」
「まぁ、いいさ。特別サービスしてやるよ、俺の力を少しだけ貸してやる」
そう言うと、タールの霊魂がふわりと涼の頭の上で止まり、徐々に暖かい気が漂う気配に変わった。涼の身体を包み込むように吸い込まれていき、その瞬間、彼の身体に鋭い激震が走った。
「ぐあっ……!」
涼は思わず声を上げるが、その直後、全身に満ちていた疲労感が嘘のように薄れていくのを感じた。身体の奥から力が湧き上がり、先ほどまでの限界が嘘のように消えていく。
「これは……何だ?」
「俺の力だ。お前の影と混ぜてやった。だが勘違いすんなよ、これは一時的なもんだ。長く使うと、お前の魂ごと燃え尽きちまうかもな」
「マジかよ…まぁ、今はそれでも十分だ」
涼は再び立ち上がった。その瞳には強い決意が宿り、拳には新たな力―――田中さんの制御の力、斉木さんの左手の力と混じり合った漆黒の波動が宿っていた。
「さてと…続きだな」
周囲に漂っていた幻覚の残滓が再び動き出す。彼らは先ほどの戦いで怯んでいたが、再び涼に向かって集まってきた。その数は、まるで涼を飲み込もうとするかのようだ。
「さぁ、お前の力がどれほどのもんか、試してみな」タールの霊魂が冷ややかに言うと、涼は拳を握りしめ、影に向かって走り出した。
「お前ら全員、ぶっ飛ばしてやる―――!」
涼の拳が振り下ろされると、それは漆黒の嵐となり、敵の群れを吹き飛ばしていく。その力はかつての涼の力と相反するようでありながら、不思議と彼自身の意志と調和している。
タールは満足げに笑う。
「ほぉ、悪くねぇじゃねえか。その調子だ」
涼は模擬戦の敵を次々に薙ぎ払いながらも、その奥にある気配を感じていた。これはただの前哨戦―――本当の敵は、アイツだけだ。
息を整えながら、涼は言葉を漏らす。
「サーザス…待ってろよ。お前を倒すために、俺は何度でも立ち上がる。絶対に、この手で制裁を与えてやる!」
新たな力を得た涼は、次の戦場へと歩みを進めた―――その拳に宿る、優しき女性達の想いを抱きしめながら。
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