第10話
目を醒ますと、佐川は自宅のベッドにいた。
ゆっくりと起き上がる。時刻は朝9時、カレンダーは土曜日の休日だった。
「夢なのか。そうだよな、ハハハ、リアルな夢だ。
え...、これは......」
佐川は違和感を覚える。
服装が夢と同じ黒のジャージ、それにポケットの中に何かがある。
そっと手をポケットの中に入れる。夢と同じ、四つ折りの紙が出てきた。額から汗が流れる。
「…(まさかな、こんな紙なんてよくあるし)」
唾を飲み込み、ゆっくりと紙を開く。
「…(体育祭のお知らせ)」
あぁ、そうだった。
この格好も体育祭の合同練習で着用したものだ。恐らく、金曜日の放課後練習で寝落ちしたんだな。
体もなんだが汗臭い。
「シャワーでも浴びるか」
シャワーを浴びた後、部屋に戻りTシャツと半ズボンに着替えた。
母親は夜勤帰りでまだ寝ている。1階のリビングには妹の
涼とは顔は似ておらず、母親似の美人だ。俺は父親似で平凡な顔立ちだが、兄妹仲は良い方だ。
「お兄、昨日お風呂入らなかったの」
たわいのない会話、文句の言い合いは日常茶飯事だ。
「そういえば、お兄は体育祭近いんだよね。体育祭終わりのフォークダンスをペアで踊る相手は誰なの?」
フォークダンスは、高校生の要望で実現した。主に男子の賛成多数で決まったようなものだ。
「昨日も同じ会話したよな。話を聞いてなかったな、恵だよ」
花鈴は「ハッ」と考え込む顔をした。
「え、恵さんってどこの恵さん」
「何かの冗談だろう」と思った、幼いときから家族同然で付き合っている。「どうせ、兄のリアクションを伺っている」のだろう。
「おいおい、何言ってるんだよ、お隣の恵。篠原 恵だよ」
花鈴は驚いた表情をする。
「お兄、篠原 恵って誰?それに隣に家なんかないよ」
花鈴は困惑した表情で、戸惑いの顔をした。涼は「何かの冗談だ」と信じることができず、恵の家が見える方角のカーテンを開けた。
そこには篠原家はなく、空き地しかなかった。
涼は玄関から家を出て、走り出した。後ろで花鈴の声が聞こえたが、気にせず走るスピードを上げる。
缶詰工場の廃墟、隅田川付近を見て回るが、恵の姿はどこにもない。「何が起きているのか、わからない」
必死に昨日の出来事を思い出そうとした。頭がキリキリとしたが「構うものか」と記憶を辿った。ふと断片的な記憶が蘇る。
「昨日俺は、穴掘り調査をしていた」
依頼人の顔は浮かんでこないが、徐々に薄っすらと思い出してくる。
確か、「田中」と名乗っていた。その人は、日給アルバイト募集の雇い主だった。仕事内容は浅草の家で、穴を5m掘るだけの仕事。
思えば、「あの時に何かあったような」気がする。
「記憶がはっきりしない」が、この不思議な出来事の発端と疑った。とりあえず、「現地に行けば何か思い出せるかもしれない」足早に現地に向かった。
現地に着いたが、そこには田中の家はなかった。
涼はその場に膝を付き、拳を地面につけた。
「俺が覚えているのに、なぜ皆の記憶から消えるんだ。意味がわからない」
見覚えのある四つ折りの紙が涼の右手に握られていた。紙を開き、読んでみる。
ようこそ、ニーグリへ
あなたの成績は、以下のとおり。
・戦闘結果
◯勝者生存、×敗者死亡
◯佐川 涼VS ×タール
◯サーザス VS ×篠原 恵
・戦利品
漆黒のマント、恵からの譲渡品
タールのクロスボウ、タールの戦利品
・記録書のルール
1.この紙の使用期限は1年
2.1回の戦闘時間は最長5時間
3.バトルロイヤル
4.この世界で死亡した者は、現実の世界から抹消される
5.対戦相手はランダムに設定される
6.各プレイヤーはポイントを集める
7.ポイント上位者は半年に1回開かれるトーナメントに招集される。
8.優勝者は、特典が与えられる
・優勝者の特典履歴
第一回優勝者 過去に戻る
第二回優勝者 異能強化
どうやら、知らず知らずのうちに異空間へ引き込まれてしまったらしい。
佐川は目を閉じて、恵との最後の言葉を思い出す。
「これあげるね、何のことかわからないと思うけど。次の召集があった時はこのマントで身を隠してね。今は私に任せなさい、悪い人はみんな私が倒すよ、約束だよ」
恵には、助けられてお礼も言えていない。挙句にサーザスとか得体の知れない奴もいる。
しかし、はっきりとした事実はある。
恵とその家族がいなくなった原因は、サーザスと影達によるものだ。許せる訳がなかった。
「あぁ、勝手だが約束するよ、お前が勝ってなかった悪い奴は皆んな俺がこの手で制裁を与える。
そしてこんなふざけたゲームは俺が終わらせてやる」
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