第23話 帰還

 帰途は行きと打って変わって、ゆっくりとしたものだった。そのため、物思いにふける余裕があった。


 私の体の魔力が転生前に比べて倍に増加していたこと、魔力の性質が混ざったものになっていたことは、転生が大きく関係しているのではないかと思う。そして、何よりも転生前に比べて性格も変わっているのを感じた。転生前の私はもっと小心者で、砦の戦いなど耐えられなかったのではないだろうか。

 そして、向上心というべきか、野心というべきか、このままで終わりたくない、もっと上に行きたいという気持ちが大きくなった気がする。転生前のライルは大の負けず嫌いで、貴族の証である魔法が使えないことに不貞腐れただけだったのかもしれないとふとおもった。

 

 魂は前世の私になっても、体に以前のライルの心が残っているのかもしれない。何よりも、前世の私からしたら他人でしかない母のミレイに親愛の念を抱いているのは、実に不可解な話だ。


 正解のでないことをあれやこれやと考えていると、時間がたつのは早かった。日が少し出る前からたち、日が沈みかける頃に領都にやっと帰還することが出来た。


 領主邸までくると、本当に帰ってきたのだと実感する。ドアを開けはいるとそこに待っていたのは母のミレイだった。


「おかえりなさい。」


「ただいま。」


 すると、母は私に抱きついてきて、恒例のかなりきつめの抱擁をしてきた。母親とはいえ、もう少し抑えめであれば、美人のハグは大歓迎なのだが。


「ご飯にしましょう。一緒にどうですか。」


「もちろんです。」


 抱擁をやめ、両手を私の顔に添えて私をご飯に誘ってきた。久しぶりに息子に会えたのが嬉しいのかとても笑顔だ。


 母とは食事中に砦であったことを話した。オークやオーガ、ミノタウロスを倒したことを多少脚色を加えてだが、話をした。というか、リアルだと死にそうな場面もあったから話せない。


 母は嬉しそうにニコニコしながらわたしの話を聞いていた。息子の冗談だとでも思っているのかもしれない。まあ、まだ子どもの私が倒したなどとは思えないだろうし。でも、仮にも跡目争いの最中なのだからそのくらいの情報収集はしていてほしいのだが。どうにも抜けてるんだよな。


「母様、私は部屋で体を休めたいと思います。」


「そうね。あと、伝えたいこともあったんだけど、まあ、明日で良いでしょう。おやすみなさい。」


「はい、おやすみなさい。」


 私はそのまま食堂を後にした。そして、浴室で体を素早く洗い、部屋に戻ろうとしたところで、見知らぬ男に廊下で出会った。年は私に近く15程度といったどころか、金髪双眼の顔の整った少年だ。優しい顔をしているようだが、眼光は鋭く威圧感を感じる妙な少年だ。後ろに館の中にも関わらず、剣を携えた男と女が2人後ろに控えているあたり身分も高いのかもしれない。


 誰か気になったので、尋ねるか迷ったが、今日は慣れ親しんだべッドではやく寝たい気分だ。そのまま、その横を通り立ち去ろうとしたが、相手はそうではなかった。


「ライル!?ライルか??」


 金髪の男が私にそう問いかけてきた。が、当然ながら私に全くといって身に覚えはない。首をかしげずにはいられなかった。


「ああ、記憶喪失といったか。私はカイン。そうだな〜。ライル、君の友だった者だよ。」


 前のライルに友達か。こいつの冗談か、それともほんとにいたのか。


「カインさん。私がライルで間違いありません。覚えておらず大変申し訳ありません。」


 中身は違うがライルで間違いない。そう言うとカインは目を大きくあけ白黒させていた。


「ははは。記憶を失うと性格も変わるのか。こいつぁすごいな。2人もそう思わないか。ローラ。キース。」


「カイン様。ライル様に失礼です。申し訳ありません。ライル様。」


 ローラとキースは後ろの護衛の名前だろうか。カイルの発言に少しむっとしたが、即座に女の護衛に謝られた。だが、もはや慣れっこである。前のライルが傲慢だったために本人かどうか確認されたのは一度や二度ではないのだ。


 それにしても、仮にも侯爵の子息である私にこの物言い。前のライルの言動で私を下に見ている馬鹿か、同格の貴族か、それともはたまた格上か。


「慣れっこですから気にしておりません。」


「だってさ。そういえば砦の防衛でさぞ活躍したそうじゃないか。」


「ええ、なんとか。ギリギリ生きながらえる事が出来ました。」


「ふぅ~ん。そうなんだ。疲れているところ引き止めて悪かったね。じゃあね。」


 なんともふざけた自由なやつだ。これなら前のライルとも気があったのかもしれないな。だが、去る前に教えてほしいことがあるんだ。


「お待ちください。カインさん。あなたが何者か教えてください。」


「ん?本当に覚えてないんだね。いいよ。教えてあげる。そうだね~。ライルの父親が担ぎ上げている人かな。」


 固まる私を置いて、言い終えると、カインは背を向け去っていった。また、護衛の2人も私に一礼をして去っていった。


「あの驚いた顔みた??ライルってあんな顔するんだね。ははは。」


 驚いた顔?するに決まっているだろう!!現侯爵である父親が担ぎ上げる人物。つまりはそういうことだ。

 母様の伝えたいことってこれだったのか。これは言ってくれよーーー!!!


◆◆◆◆◆◆◆◆


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 次回こそほんとに父親登場です。

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