第10話 明かされる裏側

「じい!これは一体どういうことなのだ。」


 いつもは教えてもらう立場だ。敬語で話すところだが、何かを隠され勝手に行動されたのだ。このくらいの意趣返しくらいしたくなる。


 そんな事を考えていると、じいの好好爺の雰囲気がすっと消え別人のように感じる。人というのはここまで一瞬で雰囲気を変えるものなのかと思わずにはいられない。


 そこにいるのは、冷たく、重く、鋭い眼光を持った今まであったことのない何かだ。その目はそのまま、私を射殺してしまうと錯覚してしまうほど重く私を貫いた。私の途端にじいの姿が大きく見える。膝を屈してしまうようなそんな圧を感じる。


 今よく見ると、体に傷も多い。初老にもかかわらず、広い肩と厚い胸板、そして鍛え抜かれた筋肉がそこにはあり、その佇まいだけで周囲を圧倒するようなまるで武人のように見える。


「ライル様、儂はルードリッヒ臣下の一人、シュバルツ男爵と申します。ルードリッヒ第三師団団長を拝命しているものです。以後お見知りおきを。」


 それを聞くと、冷や汗がでるようなそんな思いだった。それは決してあり得るようなことではないのだ。


「じい、いやシュバルツ男爵殿、今、ま、まさか、第三師団団長と申したか、、」


「ええ、間違いありませんとも。」


 シュバルツ男爵への畏怖とあり得ない状況に頭が回らない。あり得るはずが無いのだ。我が領土の軍は第1から第3までに分かれる。それぞれが5000人で構成される。中には民兵もおり全てが常備兵というわけではない。

 常備兵はそれぞれの師団ごとに合わせて3000程度である。我が領土の人口が30万人程度であるから妥当なところであろう。

 

 戦争状態以外の他領への守りとして最低限の守りを残して、父上とともに隣の領であるアルシュード侯爵領と戦争状態であったはずなのだ。


 戦争はもう7ヶ月と続いているが、始まって一ヶ月後には私の講師として領都にこのシュバルツ男爵を戻していたということになる。戦争中にもかかわらず、一軍の将軍を遊ばせて置くなど正気の沙汰ではないことがよくわかる。


「ち、父上はこのことは御存であるのでしょうか。」


 まだ、落ち着かない。情報量が多すぎて落ち着けるわけがない。だが、落ち着かなくてはならない。


「ええ、もちろんご存知ですとも。質問はそろそろよろしいですかな。なにせルードリッヒ領の危機なのです。すぐにでもここを立たなくてはなりませぬ。」


 待ってくれ!!!状況が変わってしまった。今、領内に軍を率いるに足る将はいないと思っていた。だから、俺を神輿にして戦術の先生に軍を率いてもらおうと思っていたのだ。

 それが、団長という存在で俺という神輿が必要ではなくなってしまったのだ。だからといって、ここで諦めるわけには行かない。何としても、ついていかなくてはならないだろう。

 よくわからないが、父はあえてそんな将を領都に配したのかもしれない。だが、それを考えるのはあとだ!


「シュバルツ男爵!どうか!どうか、私も連れて行っていただきたい!!この我が故郷の危機に立ち上がらずして何が嫡男か!!何が貴族か!!どうか私を末席にお加えください。私にも守りたいものがあるのです!」


 我ながら、舌が回るものだなと感心する。1年もいない故郷に愛着など湧くはずもないのだ。しかし、守りたいものがあるというのは本当だ。もちろん、この自分の命ほしさに手柄が欲しいのもある。


 しかし、短い時間しか一緒にいないとはいえ、周りの人を守りたいとも思ってしまっている自分がいるのだ。利己的に助けただけかもしれないが記憶を失った私に母は多くを授けてくれた。そして、トールとルイスとは一緒にいる時間が長く愛着はどうしたって湧いてしまうものだ。それに、いつも陰ながら支えてくれる使用人たちだ。


 私が軍に加わることを進言したその瞬間にシュバルツ男爵からの圧が倍増した。あまりの圧と恐怖に体が震える。怒らせてしまっただろうか。シュバルツ男爵の顔が紅潮し、髪が逆だっているのがよく分かった。


「ライル様、いや、小僧ライルよ。その発言の意味がよく分かっているのか??権力や栄光を得るために、ましてや、自分のプライドを守るためにに行くのではない。私たちはこれから、この領土を!そして民を!守りに行くのだ!もう一度聞く。本当にその発言の意味をよくわかっているのか??」


 やばい。どう返すのが正解かよくわからない。私はなにかシュバルツ男爵の心に触るようなことを言ってしまったのだろうか。それとも、私を試しているのだろうか。

 これは間違えてはいけない回答だ。相手に心地よい回答をすればよいのではない。もしも、そんなことをすれば覚悟のないやつだと思われ戦場にこんな子供を連れて行ってもらえることはないだろう。もはや、自分の心をぶつけるしかない。あまりに迷えば、それもまた覚悟を疑われる。


「わ、私には守りたいものがあるのです。母やトール先生、ルイス先生、使用人のみんなを守りたいのです。どうか、私にもその機会をお与えください。」


 相変わらず圧はすごいが、その圧は私を今にも潰してしまうようなものではなくなった。どうにか、シュバルツ男爵への回答としては及第点がもらえたということだろうか。


「その動機では嫡男としては失格だ!だが、共に戦う理由としては十分である。だが、連れて行くかどうかはまた別の話だ。」


 どうやら、先程のいかにも建前ぜんとした理由が気に食わなかったようだ。今回は及第点ということか。てか、連れて行ってくれるわけじゃないのか。


「そんな!連れて言ってもらえるわけではないのですか!だったらさっきの問答は一体なんだったとというのですか!」


「まあ、落ち着け。連れて行かないとは言ってない。もし、連れて行くとしても儂はライルお前を1兵士として扱う。だが、最低限度というものがある。使えない兵士なんぞ、邪魔でしかない。もし、儂の一撃に耐えれたら連れて行こう。もし無理ならそれまでだ。ただで済まないかもしれないがやるか??」


 シュバルツ男爵の目は私の覚悟を問うようなそんな目をしていた。私だって訓練はしてきたのだ。やってやろうじゃないか!いや!やってやる!!


「もちろんです!どうか!ぜひやらせてください!」

 

「良かろう。おい!!儂の武器を!!」


「はっ!!!」


 シュバルツ男爵に隣に控える兵士が矛を差し出した。またもや、身が縮こまるような思いだ。この世界だと魔力がリーチの短く剣の方が通しやすく、リーチの長い槍などは先の刃に魔力を纏わせるのは至難の業なのだ。つまり、槍を使うということはそれだけで強者であるということを表している。


「では、剣を抜け!構えろ!!一発だ!死んでくれるなよ!!」


 矛を構えるシュバルツ男爵の妙に楽しそうに、そして今にも殺さんばかりの圧に若干の後悔の念を抱かずにはいられない。死ぬかもしれない。


 やっぱり、お留守番するんだったかもしれない。道理で兄のベルゲンも行くのを拒むわけだ。たぶん、原因こいつだ。あいつ、こいつの存在を知ってやがったな!


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