第11話 将の重み

 私はシュバルツ男爵の矛に耐えれば、砦の戦いについていくことが許されることとなった。しかし、一軍を預かる歴戦の将であるシュバルツ男爵の矛が軽いわけがないのだ。


 それこそ、訓練を初めて6か月の私が勝とうなどとは不遜極まりない考えである。なにか、シュバルツ男爵の予想を超えなくてはならないであろう。


 だが、それが一体何なのかは全く分からない。シュバルツ男爵がどのような戦い方をするのか全く知らないのだから当然ではあるが。。


 「早く構えろ!!」


 そんな、シュバルツ男爵は私を急かすように語気を荒げていった。そんなシュバルツ男爵に圧倒され、怯えて何も考えることが出来ず、言われるがまま震える手で剣を抜き構えようとした。


「お持ちください。シュバルツ男爵。一言、ライル様によろしいでしょうか。」


 シュバルツ男爵に皆が圧倒され、声一つ、いや、物音ひとつ立てることができないと思わせる空間でただ一人、シュバルツ男爵に震え若干上ずった声で声をかけるものがいた。


「いいだろう、ただしすぐ済ませろ。」


 シュバルツ男爵は怒るのではなく、この空間で声を発したものに、感心した目を向けてそういった。


「ライル様、こっちを見てください。」


 そういわれて、私はその者の顔をその時に初めて見た。シュバルツ男爵に怯え、視線をそらさずにはいられなかったのだ。それは、私をまっすぐと見たトール先生であった。そして、トール先生はまるで私を落ち着かせるようにゆっくりと息をすい、ゆっくりと声をだした。


「ライル様、実力以上のことを出そうとしてはいけません。今までやってきたことに誇りを持ちなさい。毎回実力以上のことをやろうと努力するあなたを尊敬しますが、今のあなたのことを少しは信じてあげなさい。私は信じていますよ。」


 全く、先生にはかなわないと思ってしまった。半年も一緒に訓練するとそこまで見透かされるものだろうかと感心の念を抱かずにはいられない。


 前世ではいつもいつも、どれだけ頑張ろうが才能があるものが先に行ってしまっていた。やつらは、こちらの頑張りを見ようともせずに、先に行く。


 奴らは、時には「哀れな目」で、時には「蔑みの目」で、時には「努力を疑う目」で、時にはこちらを見ようともせずに先に行く。そうか、私はいつからかそんな自分の頑張りを認めてあげられなくなっていたのか。


 トール先生、あなたはそんな私を認めるというのか。あなたの背中は剣の腕だけでなく人としても遠いな。


「トールだけずるいのです!!私だって信じていますよ!!ライル様!!」


 感動に間を指すとは実にルイス先生らしい。クスリと笑わずにはいられない。そんな先生方のおかげで肩の荷がすこし降りたような気がした。


「ライルよ。もう、大丈夫みたいだな。」


「はい。お待たせしてすみません。」


 そう言い終わるとともに、私は方の力を抜きつつゆっくりと剣を構えた。それに答えるようにシュバルツ男爵は矛をゆっくりと振り上げた。


 シュバルツ男爵の圧は相も変わらず大きく、その体は実物以上に大きく山のように見えた。そのあまりの覇気は私の心臓を潰してしまうように、重く私にのしかかっていた。


 だが、もう先ほどの大きな怯えはない。あるのは、今の自分を信じ自分の全力をぶつけてみたいという好奇心だけである。


 シュバルツ男爵が矛降りぬくと同時に、私も剣を振りぬいた。今まで通り魔力を圧縮して最速で体に流した。まるで目前のシュバルツ男爵の実力に引っ張られたかのように不思議と、今までで最速の剣を私は振りぬくことが出来たと確信することが出来た。


 ついに、シュバルツ男爵の矛と私の激しく衝突した。その時の衝撃音は激しく、衝撃派が辺り一面に広がった。一瞬、膠着したかのように見えた。


 しかし、わずかにライル側に矛が動いたと思うと、瞬く間にその矛はライルを大きく吹き飛ばしたように見えた。


 そして、それが指し示すのはライルが強烈な矛に押し負ける結果で、刹那の剣戟は幕を閉じたということであった。


 また、それらは、瞬き一つを許すことは無いような一瞬の出来事であったのは言うまでもない。


◆◆◆◆◆

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 ちなみに、作者が好きなキャラはこれだけ出しておいて申し訳ないのですが、シュバルツではなく違うまだ出ていないキャラです。登場回が待ち遠しいです。

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