第18話 限界にこそ本質がある
「大至急!!トールの応急処置を!!」
私の油断でトールは犠牲となり、ミノタウロスの抑えになる戦力は失われてしまった。そして、私も含めて兵士皆も疲れがたまって限界が近い。最後に、よりにもよって、そのミノタウロスは私に標的を定めてきやがった。状況は最悪だ。
中央、と左翼にもミノタウロスが同時に襲撃をかけた様子ですぐさまの援軍も期待できない。
「ライル様!!早く逃げるのです!!わたしが食い止めます!!」
ルイスがそう言い、ミノタウロスの足元を氷で凍てつかせて固定させた。しばらくは持つかもしれないが時間の問題だろう。
そうだ。この状況だ。逃げたっていいじゃないか。いや、シュバルツと逃げたら命を差し出す約束をしてしまっていた。いまこの約束を破り、たとえ見逃してもらえたとしても、声高々に宣言したことを破っては私の求心力は地に落ちもはや修復不可能なものとなるだろう。
「逃げぬ!!ここで逃げるわけにはいかないのだ!!」
かのナポレオンはいった「真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者のことである。」と。いまがその時だ。ここが私の乗り越える時だ。ここで私が皆の光となろう。
「今逃げれば右翼が崩れ、中央・左翼の戦いも無駄になるだろう。素晴らしい状況じゃないか!!逃げて屈辱的な思いをするくらいであれば、一刻でも長くここで生きながらえよう。さあ、殺しつくそう!!ミノタウロスよ!!その命もらうぞ!!」
これは、私自身の決意だ。己が恐怖で逃げ出さないようにするための枷である。だが、その私の声は声量か、それとも感情が載っていたためか、不思議と右壁全体へと響いた。
「ライル様が一刻生き延びるなら、1.5刻生き延びよう。」「俺は2刻だ!!」
兵士たちも乗り気なようだ。上等だ。だが、最後前生き残るのは私だ。この無謀な戦いに臨もうとは何とも私は大馬鹿ものだ。
「ライル様!!限界なのです!!ミノタウロスが拘束から逃れます!!」
ルイスがそう私へと告げてきた。確実にミノタウロスは格上だ。一人では荷が重い。
「ルイス!!援護だ!!」
「し、しかしライル様!!いえ、かしこまりました。援護いたします!」
ルイス。言いたいことはわかるよ。だが、わるいな。つきあってもらうよ。
そうこうしているうちに、ミノタウロスの拘束が完全に解かれた。ルイスに邪魔されたためか、フラストレーションがかなり溜まっていることが分かる。鼻息を荒くして、私に突っ込んできた。しかし、最初に比べてためも少なく、勢いも最初ほどではない。
「所詮は牛か。」
最初の突撃は不意を突くものであったので、まんまとやられたがもはやそうはいかない。最初に直線的に突っ込んできたと思ったが、今回も直線的に突っ込んできた。
そりゃそうだ。あそこまでの巨体では小回りなど聞かないであろう。しかし、その情報さえあれば突進などさほど脅威ではない。
両足に魔力を流し、瞬間的な加速力を生み出す。そして、十分にひき付けて真横に飛ぶ。
やはりというべきか。ミノタウロスは急な方向転換をすることが出来ずに横を通り過ぎていく。しかし、ミノタウロスは私に執着してかそのまま行かず、粉塵を巻き上げながら急停止し再度私に向き合った。
こいつもわかったのであろう。ただの突進ではもはや私を仕留めることは出来ぬということを。右手に斧をもって、私に突進ではなく、駆け足で一歩ずつ私へと近づいてきた。
だが、その速度ではルイスの格好の的である。案の定、ルイスはミノタウロスへ向けて魔法を放った。
「アイシクルランス!」
氷の槍はミノタウロスへと放たれた。されど、ミノタウロスは斧によりそれを振り払った。焦ることも無く余裕をもってである。やはり、今までのモンスターとは毛色がちがう。
「私が隙を作る!!」
今まで私はミノタウロスに対して、後手後手にまわってしまっていた。しかし、それでは敵にいいように動かれるのは自明の理である。ならば、私から動こう。私から攻めよう。
私は目の前のミノタウロスを真似るがごとく、正面からまっすぐに駆け出した。ミノタウロスは正面からやり合うと思ったのか、斧を構えその斧をふるった。されど、そのまま私は正面から切り合うと見せかけて、止まった。いや、急激に減速をしたという表現が正しいかもしれない。
ミノタウロスよ。悪く思わないでほしい。お前の武器が圧倒的な突進力と破壊力であるのならば、私の武器は身軽さとそれを活かした俊敏性なのだから。
私の目と鼻の先で空振りする斧を見届けて、再度地面を踏みしめて今度こそ本当に敵の懐へとはいり、無防備な腹へ向けて剣をふるった。
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