第17話 黒きもの
オークの首へと振るった剣は、首を両断した。未だ闘志のみなぎる目をしたオークの首はずり落ち、その意思を無くした巨躯も静かに、後ろへと倒れた。
そのまま、少しバランスを崩しながら着地すると同時に、気がつくと私は心から叫んでいた。それが、勝利への雄たけびであったのか、それともこのような死線が続くことへの恐怖を紛らわす雄たけびであったのかは自分でもよくはわからない。
でも、自分がどこまで昇れるのか、この人生を懸けて挑戦してみたいと思った。そして、私は今、その階段を確実に一段上ったであろう。
「坊主!!いや!!ライル様が一体やったぞ!!お前らもいつまでそのへっぴり腰でいるつもりだ!!」
お??今頃、ライル様呼びか??右側の壁の指揮官らしき男が全体に檄を飛ばしたのだろう。シュバルツ団長といい皆、私をだしに使うのが好きだな!!っと!!
考え事をしているところに、新手のオーガが襲ってきた。咄嗟によけたので何ともなかったが。オーガの棍棒は私には当たらずに、地面にたたきつけていた。
今の一振りをみて気づいたのだが、オークとオーガを同列に考えていたが、微妙に異なるように感じた。個体差はあるかもしれないが、オーガの方が速く打撃が軽いと感じた。
オーガはすぐさま、体勢を整えて迫ってきた。だが、オークで慣れたためか同格のオーガへの恐怖心はもはやない。
最低限の動きで半身になることで避けて、その懐に飛び込んだ。つまり、トールがオークを倒した斬撃の真似だ。私は目の前のオーガの腹めがけて、剣をふるった。
仕留めた!!と内心思ったが、その心とは裏腹に目の前にあったのはこちらに向かってくるオーガの右脚であった。つまり、私めがけてオーガの蹴りが飛んできたのだ。
私は咄嗟に剣の腹で蹴りを受けた。されど、衝撃は押し殺すことは出来ず、肺の中の空気は押し出され、後方へと吹き飛ばされてしまった。
すぐさま、復活することはできず、しばらく呼吸することは出来なかった。やっと、一息吸えたかと思うと、何度もせき込んでしまい、それが苦しさに拍車をかけた。まさに、危機一髪のできごとであったが息をつく暇はなく、戦闘に備えるために顔を上げた。しかし、そこにあったのは血や臓物を垂れ流して倒れるオーガであった。
オーガに与えた一撃は即、戦闘不能になるものではなかったが、最後の力を振り絞って一撃を与えようとしたというところであろう。ここまでの数少ない戦闘経験でも、ゴブリンと比べると、オークといい、オーガといい、その強さもその闘志も別格であることを認識せざるを得なかった。
◇◇◇◇◇◇◇
それ以降の戦いはオークやオーガとの度重なる連戦であった。しかし、夜明け前のゴブリン・スケルトン戦とはわけが違う。一戦、一戦が命のやり取りをしていると考えさせられる戦いであったからだ。
少しずつ少しずつ、ゴリゴリとガリガリと、精神がすり減らされる。交代で休息を取らせてももらったが、そんなもの焼け石に水だ。目の前の戦いに集中できない。思考がぼーっとする。でも、あと数時間で日没だ。少し耐えれば、一息つける。
『あとちょっと。。。あとちょっと。。。』と思いながら剣をふるう私を、いや、兵士皆の心を見透かすように、非常な報告が入ったのはそんなときであった。
「急報!!ミノタウロス襲来!!各自備えよ!!繰り返す!!ミノタウロス襲来!!」
待っていたのだ。砦に杭を打ち込みオークやオーガを突入させ、兵士の体力を削り、日があるうちに砦を落とせるこの時間を。
『ヴモォーーーーーー!!!』
『ドン!』という音とともに、黒い表皮のミノタウロスは砦の城壁の上まで駆け上がり瞬く間に城壁の上に現れた。一瞬止まり、膝を曲げ体を縮めるような動きをすると、猛烈な勢いでまっすぐと斧を振り回しながら突撃をはじめた。よりにもよって、私の方向へ。
溜まりにたまった疲れと、ミノタウロスのあまりの勢いに反応が遅れた。前にいた兵士も咄嗟に剣を構えるもあまりの勢いに対応出来ずに一刀両断される。すぐに、足に力を籠め逃げようとするが、もはや目と鼻の先。死の危険を感じるとスローモーションに感じるという描写が良くあるが本当かもしれない。ゆっくりとゆっくりと私に迫ってきた。まるで、死の宣告をする死神のように。
しかし、スローモーションに見えようが動けなければ意味はない。もはや、逃げることをあきらめて咄嗟に剣を構える。剣で勢いを殺し、シュバルツ団長と対峙したようにその衝撃も逃せば、命だけは助かるかもしれない。だが、判断が遅れたせいで体勢が万全でない。
死ぬ。死ぬのかここで。いや、一縷の望みに懸けて剣をふるおう。
しかし、剣をふるう前に、引っ張られるように気が付くと体が浮いていた。なんで。まだ、剣を交えていないのに。
その時、視界に入ったのは私のいた場所で剣を構えるトール先生であった。私を守るために、このようなことをしたのだろう。されど、私同様に体勢が乱れているのが分かる。
それでも、トール先生なら何とかなるのではないかと思った。しかし、現実とは非常なものであった。トール先生の剣は、ミノタウロスの横から振るわれた斧を受け止めきれなかった。
ミノタウロスの斧の勢いを吸収することも出来ずに、その方向にいた兵士たちを巻き添えにしながら吹き飛ばされた。何度も、何度も土埃に汚れ、己の血肉に汚れながら転がっていった。
「トッーー!ルゥッーー!!!」
トール先生は私を助けようとしたのだろう。助けようとしなければこんなことにはならなかっただろう。あなたが右壁の最高戦力だというのに。だれがミノタウロスに対処できるというのだ。
しかし、ミノタウロスは、私に感傷に浸る時間もトール先生の生存を確認する時間を与えてはくれなかった。逃した獲物を逃さんと思ったのか、突如止まり私へとその体の向きを変えて、その殺意を私へと向けたからだ。
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