第16話 己の力

 私もシュバルツ兵の間に割って入り、オーク共との戦いに参戦した。大振りな振りの隙をついて攻撃をしようと遠くからみて思ったが、言うは易く行うは難しである。近づこうにも、一度まともに喰らえば致命傷になりうる攻撃になかなかに踏み込めない。


 そうこうしているうちに、目の前まで来たオーガが私に向けて手に持つ棍棒を振るってきた。私は素早く、距離をとりさける。とはいえ、永遠と避けるわけにもいかない。こうしている間にも後続が上ってくるのだ。


 今の私にできることはなんだろうか。シュバルツ団長という圧倒的な高みに触れて、ずっと考えていた。まだ、体が小さい故の身軽さ、真道流の持ち味である素早さ、そしてトールの真道流の高みというべき剣をこの6ヶ月受け続けて鍛えられた己の動体視力ではないだろうか。


 しかし、シュバルツ団長との打ち合いで、その身軽さ故の剣の軽さという弱点も思い知らされた。その弱点を補うを考えなくてはならない。


 もちろん、トール先生のように速さを活かして敵の懐に入り攻撃することも考えられるが、敵に致命傷を与えられなかった時に思わぬ反撃に遭う可能性がある。何より、まだ敵の懐に入ることへの恐怖が拭えない。


 何か、敵の隙を突くなにかを考えなくてはならない。ふと、視界の端に水刃流であろうか。オーガの棍棒を剣で受け流しているのが見えた。真道流に比べてその太刀筋はうねるように、まるで水が流れるように、その攻撃を受け流していた。そこから、そのまま流れるようにオーガに一撃を与えていた。


 それを見て思ったことは、真道流でもあれと似たようなことができないだろうかということだ。真道流の速さという持ち味と己の動体視力を活かして、敵の棍棒に剣を弾くように当てて大きく逸らす。


 つまり、私がやりたいのはゲームでも目にするような『』だ。敵を切り裂く隙がまだ小さいなら、パリィで無理やりでもその隙を大きくしてやろう。


 トール先生の斬撃は早すぎてそんなことできる気がしないが、オークやオーガの攻撃の遅さならまだ可能な気がした。また、敵の攻撃に対処できるすべが増えるだけで、敵の懐に入って攻撃することへの安心感が違う。


 細心の注意を払いつつ攻撃を避けていると、またオークの棍棒が右から迫ってきた。オークの左方向に振られる棍棒を上に弾くように、早くそして正確にあてるように合わせて剣をふるった。だが、わずかに棍棒が上に逸らせたが、軽く私自身も吹き飛ばされてしまった。


「あっぶね!!!ざっけんな!!」


 たしかに僅かに上に反らすことが出来たが、オークの棍棒は私の鼻をかすめるように横切った。棍棒の勢いで後ろへ吹き飛ばされていなければ、今頃あの世行きだっただろう。これでは敵の懐に入るのと危険度がそうは変わらないのではないだろうか。


 しかし、今、私の胸がひどく高鳴っていることを感じた。私は今、楽しいのだ。こんな命のやりとりをしているのにも関わらずにだ。

 

 私のやろうとしていることに、積み上げた技術と己の肉体が全力で応えようとしてくれている。己が成長しようとしていると感じるこの瞬間が私は堪らなく好きなのかもしれない。


 『』不思議と口角がわずかに上がるのを感じた。私は着地するとともに、素早くオークに向けて踏み込み駆け出した。


 なぜ、さっきはうまくいかなかったのだろうか。速さと正確さを求めるあまり打撃力に欠けたからかもしれない。剣がまともに棍棒に正面から当たりすぎたのかもしれない。もっと強く剣を振るい、角度調整して力の無駄が無いように弾こう。


 近づくにつれて、またオークが私に棍棒を振るってきた。なかなか仕留めきれない私に焦れているのか、イラついているのが伝わってくる。『ゥガー!!!』といういかにも苛ついた雄叫びとともに、先ほどよりも大ぶりな棍棒が振るわれて来た。


「この大馬鹿者めが!!!」


 大ぶりな棍棒には剣も合わせやすかった。速さではなく、打撃力を出すことに注力して魔力を体に流す。そして、私に迫ってきた棍棒に、力強く、されど力まずに落ち着いて剣を振るった。


 『カッァーン!!』と甲高い音を鳴らして、ついに棍棒は大きく上方向へそれた。それと一緒にオークの体も仰け反っていた。


 その大きく隙ができた瞬間を見逃さずに、地面を強く踏み、オークへと距離を詰め、首目掛けて飛び跳ねた。


 オークも棍棒を持たない左手で私を阻止するためにその拳を振るおうとするが、もはや遅い。真道流に速さで勝とうなど片腹痛いわ!!!


「そのまま死んでろ!!」


 一撃で仕留めるために、剣を引き身をよじり、力いっぱいにその首へと目掛けて剣を振るった。オークの首へと振るった剣は、若干の抵抗を覚えながらも刃がしっかりと通った。私はその勢いそのままに首を断ち切るように振り切った。

 

 首を切られてなお、闘志にみなぎる目をしたオークに若干の恐怖を覚えつつも、勝利を収めたことを確信した瞬間であった。

 

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ライル頑張れ!!と少しでも思って頂けたらぜひ☆よろしくお願いします。

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