第19話 片鱗と決着
突進するかに見えた私に釣られたミノタウロスは斧を空振りし、その隙に私は飛び込んだ。たしかに、ミノタウロスの一撃は私に致命傷を与えるの必殺の一撃だ。だが、当たらなければ意味はない。
そして、その腹目掛けて剣を振るった。されど、臓物を切った感触はなかった。その斬撃は浅く、まるで斬撃が拒まれたようなそんな感覚を覚えた。
懐に入った私に一撃を加えるべく、ケリが飛んできた。
「それはもう知っているんだよ!!」
オーガで一度してやられた攻撃への対策はもう考えていた。すぐさま後ろに、飛び直撃を避けるべく飛んだ。
「ルイス!!」
「はい!!アイシクルランス!!」
ミノタウロスは追撃をかけるべく動こうとするが、ルイスの魔法がそれを許さなかった。ミノタウロスもすぐさま追撃をすることはできずに、斧で対処せざるを得なかった。
ミノタウロスを改めてよく見ると、斬撃が浅くしか入っていないことが見て取れた。ミノタウロスの筋骨隆々としたその体は飾りではないということか。
その巨大を支えるためには、尋常ならざる筋肉が必須であろうことは容易に想像がついた。それを見ると密度の高い筋肉が幾重にも重なりあっていることがよく分かる。
さらに、魔力が筋肉に通っているようにも見える。それが強度と出力を促進しているように感じた。つまり、ミノタウロスの肉体はもはや一つの鎧と化しており、半端な攻撃が通ることはないだろう。
ミノタウロスはルイスの魔法を捌くと私に肉薄してきた。私もそれに応えるようにミノタウロスへ向かう。
しかし、私にもはや恐れはない。6ヶ月という短い時間であったが少しずつ少しずつ積み重ねてきた。たしかに、それは実践形式のものではないが技術を着実に積み重ねてきた。されど、技術を実戦で使えるかと言われれば話は別だ。技術を使うどころか、私は今までそれに振り回されてきた。
だが、まだまだ、荒削りであるのは否定できないが、確実に今日という1日を通して実践に技術が適合してきたのを実感する。噛み合わず、軋んでうまくまわらなかった歯車が、少しずつお互いに形を変えて噛み合い、全体に油が回りスムーズに動きだした。
昨日までならばお前に勝ち目は万が一にもなかったであろう。だが、今の私ならばこの刃届くぞ。
ミノタウロスは私へとその斧を振り下ろしてきた。私はまともに受けることはせず、その斧の腹めがけて剣を振るう。やはりミノタウロスはオーガとは格が違うというべきか僅かに逸れるにとどまった。なんとかかろうじて、その斬撃を避けることはできるが、反撃ができるほどの隙は生まれなかった。
(重い。そして鋭い。)
ミノタウロスも己の攻撃をいなされたと気づいたのか鼻息を荒くし再度、何度も何度も切りかかって来た。私はどうにか剣でいなしつつ、反撃を伺うがなかなかに隙が見えない。むしろ、寸分違わぬ防御をしなければこちらの命が刈り取られるような紙一重の斬撃の応酬が続いた。
「ライル様!!距離をとってください。魔法を撃てないのです!」
(それができるならもうやってんだよ!!!)
ミノタウロスもおそらく気づいている。だから、私から距離を取らず常に肉薄して攻撃をしてきている。お互いに重ねて縦横無尽に動きながらの斬撃の応酬である。つまり、ルイスは魔法を私に誤射しかねないのだ。
「ヴォモッォーーー!!!!」
「ッ!!」
斬撃を正確にいなすことができなかった。僅かに、ミノタウロスの斧をまともに剣で受けてしまった。
ミノタウロスはその隙を見逃さず、更に肉薄しようとしてきた。ライルを引き裂かんとする斧を何とか、魔力運用に集中することで避けることができた。
殺す気で振るわれたその一撃は地面深く突き刺さり、城壁を震わせる。
何とか攻めに回ったつもりであったが、いつの間にか受けに回ってしまっていた。やつの斬撃を掻い潜り、攻撃しなければ勝機はない。
すぐさま、再度距離を詰めて来たミノタウロスと刃を交えた。だが、これでは今まででの繰り返し。
(早い思考を!!速い動きを!!無駄を減らせ。魔力を燃やせ。)
私はミノタウロスの斬撃を逸らし、より最小限の動きで避けようとする。
(足りない。)
私は斬撃を弾く時の、魔力出力を上げ、隙を大きくしようと試みる。
(足りない!足りない!!)
詰みだ。。。
たしかに、一時はミノタウロスに届くかに思えたが、それはミノタウロスの油断故であった。一撃をもらい、私に油断をしなくなった今のミノタウロスに私の刃が届くイメージがわかない。
だからって、このまま死ぬのか??それはNO!だ!
「はああああああああっ!!!!!」
最後まで足掻かせて貰う!!例え、負けようともだ!!!粘り強さだけが前世の持ち味だったんだ!!舐めんなよ!!!
この一時に全部をだしつくす。魔力も気力も体力も。己を信じろ。決めたらただ動く!!それだけだ!!
魔力を全力で体に押し流す。熱い。体が焼けるように熱くて痛い。そして針が体全体内側から刺すように鋭い痛みがはしる。
視界がより鮮明に。
思考と感覚が鋭敏に。
(短期決戦だ!!ここから本当の勝負だ!)
トール先生は言った。「真道流の真髄は他を圧倒するその速さにある」と。
私は速く鋭く、ミノタウロスへと駆ける。ミノタウロスの斧よりも早くその懐へと入るために。
先ほどの斬撃の応酬よりも、半歩。半歩だがより近づくことができた。だが、これで十分である。
ミノタウロスの斧を弾くのではなく、直撃を避けるために上段に構えた剣を滑らせる様に、斧を剣の刃の端から端までこすり当てた。剣が火花を上げ、『ギキッキーーー!!!』と甲高い音を上げ、悲鳴を上げているのが分かる。滑らせているだけなのに、重い。一歩間違えば、その斧は私を両断するであろう。
そのまま、私は深くミノタウロスの懐の奥深くへ入った。そして、流れるように早くその懐へ。
ミノタウロスの表皮は刃を拒む。それは最初の斬撃で学習済みだ。だから、狙うは最初の斬撃による『剣傷』。
焦りはない。だが、分かる。チャンスはこの一度きりだ。ミノタウロスの想像を超えたこの一度をだけだ。次はない。だから、危険を冒してでも最初よりも深くその懐へと入り込んだ。
既にある剣傷をなぞるように、正確に、強く、鋭く、剣を振るった。だが、強靭な筋肉の繊維が私の剣を拒む。
「はっあああああああっ!!!!」
(入れ!断ち切れその肉を!)
ぷつりぷつりと筋肉の繊維を断ち切るのを感じる。入った。筋肉という鎧を越えれば、中身はさほどの抵抗もなく刃が進むのを感じる。
私はそのまま断ち切るように剣を振り抜いた。そして、懐に入った勢いのまま、ミノタウロスの背後へと駆け抜ける。
だが、油断はない。勝利の瞬間にこそ最も大きな危険があるものだ。すぐさまミノタウロスへと振り向き剣を構える。
案の定、最後の悪あがきか振り向きざまにその斧を振るってきた。
「死人はそのまま死んでろ!」
その斧を力を振り絞って何とか弾くが、体制が万全ではなかったために、後ろへと吹き飛ばされ、ぶざまにも幾度も転がり土にまみれた。
私はなんとか顔を上げ、ミノタウロスが膝を屈し倒れるのを確認した。
それとと同時に、己の体の力がすっと抜けるのを感じる。勝った!!確実に格上の相手に勝利したのだ。
「は、ははははっ!!!ぅはっっ!!」
安堵からか、仰向けになり、笑いながら咳込むと、僅かであるが、血が混じっているようであった。
「ライル様!!!」
ルイスが駆け寄ってくるのを視界の端にぼんやりと収めるが、限界を迎えた私はもはや意識を保つことはできなかった。そのままその重い瞼を閉じるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
次回から伏線回収に入ります。
もしも、先が気になると思ってくだされば、ぜひ☆やフォローよろしくお願いします。
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