第38話 私の道
まあ、私が悪いのだが、そこからは後始末に追われることとなった。さすがに、千に近い倒れた兵士たちをそのままにして帰るわけにはいかなかったからだ。さすが、領都近郊というだけあって、モンスターの被害は聞かないが、もしもということがある。そのため、領都からきた治療師が気絶したような兵士たちの診断するのを見守ることとした。幸いにも1日目に死者が出るようなことも無くよかった。
だが、何よりも気がかりなのは、指導官の扇動があったとはいえ、一時的にでも隊全体での訓練放棄という失態を演じてしまったことだ。なんとか、場を収めたとはいえ、私もふと落ち着くと、どうなるか自信がなくなってきてしまった。訓練前に早馬でトールやアルキスに現状を報告させたが、あちらの状況がどうなっているかここからでは分からない。
「ライル隊長、診断は無事終わりました。しかし、今回の訓練もお話は事前に聞いておりましたが、なかなかに無理をなさる。」
「マルク治療師長、世話をかけた。私がトールと訓練をしている時から世話をかけてばかりで申し訳ない。また明日も同様の訓練内容を行うつもりなので、大変申し訳ないが明日もよろしく頼む。」
彼には怪我をするたびに、治療してもらっていたので今では見知った仲だ。
「まったくです。無理をなさるのは相変わらずなようです。」
「いやはや、面目ない。」
彼は、優秀な治療師だ。あの、シュバルツ団長とともに戦場をかけてきたといえばわかるであろう。彼はあまたの経験により磨かれてきた治療師なのだ。シュバルツとは違い落ち着いているが、それなのにどうにもシュバルツ同様に頭が上がらない。
「ですが、彼らは限界を超えて無理をしているようなので、明日に目を覚ますかどうか。彼らはいまは眠りながらも、己の生命力を睡眠だけでなく、己の眠る魔力で補おうとしています。彼らは、己の潜在魔力を引き出そうと、眠りながらも戦っているのです。失礼を承知で忠言いたします。ライル隊長、いえ、ライル様、座して待つこと覚えなさいませ。」
座して待つか。きっとマルク治療師長が言いたいのは、今の私だけではない。トールとの訓練をしていた当時から今までのすべてだ。頭ではわかっているのだ。先に進むために、脚を止めることを嫌う自分がいることを。そして、それが時に、決して近道ではないこともあることを。そして、それらが見透かされているのだろう。
「。。。。。。。」
だが、頭で理解できるからといって、納得できるわけではない。たとえ、それがマルクの言葉であっても。
「まったく、あなたはルドルフ様にそっくりだ。」
「父上に??」
マルクの雰囲気が、どこか変わった気がした。全くもって言われたこともないし、噂で聞いたこともない。容姿だってどちらかといえば母上に似ている。
「己が信じる道だと思えば、己がどれだけ傷つこうと突き進むのです。それも周りのことなど、全く気にもせずです。付き合わされるこっちは、本当にいい迷惑ですよ。だけど、だからこそ彼には人が集まるのです。誰よりも恐れというものに、果敢と立ち向かっていく様は皆に勇気を与え、その背中についていきたいと思わせる。彼の道ならば、不思議と、例え茨の道だろうと、ともに進みたいと思わせる何かがあるのです。まあ、ライル様はそこまで、いまは立派ではありませんがな。はっはは!」
「熱く語ってもらったところ悪いが、似ているとは思えんな。第一、私は利己的な人間だ。」
「ですかな。少なくとも、砦の戦いでの話に私はその片鱗を見ましたぞ。」
だから、なんだというのだ。
「別に父上になりたいわけではない。」
「わかっておりますとも。ですが、ルドルフ様であれば進むためであれば、苦しくても耐えてみせますぞということを言いたかっただけであります。」
「ああ、分かった。すぐには実行できないかもしれないが努力しよう。進むためならば、私だってそのくらいのことしてみせるさ。」
このように、忠言してくれる存在がいることを私は感謝せねばならないな。
「ライル様、私がこのような話をしたのは、もう一つ理由があるのです。ルドルフ様とて一人の人間。完璧などではないのです。ですから、少なくとも家族の中でライル様くらいには、本当のルドルフ様を知ってほしかったのです。何も、望んであんなことをしたのではないのだということを。」
「あんなこと??」
「そうでした。記憶を失ってそのあたりも、忘れていらしたのですか。」
ルドルフという男、家族から畏れられるのに、マルクにはこの慕われようだ。いや、マルクの話だと他の部下にも慕われているのか。なにか、ちぐはぐな印象を受けるのだ。
「ライル様はこちらに脚を踏み込み、しかもご嫡男である身。すべてを知る資格があるでしょう。お話します。なぜ、ルドルフ様が蛮行ともよばれる行為をせねばならなかったか。どうしてその家族にまで畏れられるまでに至ったのか。すべて。」
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次話はライルの父ルドルフ侯爵視点で、過去の話です。ご注意ください。
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