第37話 誤算

  私が鎧という重しを着て走ると明言したのであるが、アルキスの元部下の兵士100名が魔力を持ったアドバンテージがあるのならば私たちもということで、同様の条件で行うこととなった。


 そして、教官連中であるが、私が参加するのであれば参加しないわけにいかず、実力的にも下の彼らが鎧をつけるのであればつけないわけにもいかなかった。そのため、私と同様に、魔力を持つ者は皆、鎧を着用するということになってしまった。


 とはいえ、千人が一斉に走って訓練するには手狭であったのでいくつかに分けての訓練をすることとなった。


 ただ、走るだけの地味な訓練であるが、何事も、限界までなにかをするというのは、想像を超えるほど苦しいものだ。


 だが、だからこそ、そこに意味があると思うのだ。皆が忌避しやらないようなことをやらねば、差など生まれようがないのだ。いや、半分は私の願望かもしれない。でなければ、今までの努力を否定することになってしまうのだから。

 

 されど、いざ、訓練を始めるといろいろな意味で予想に裏切られてしまった。

 

 魔力持ちでない兵士たちが思いのほか粘ったのだ。いくらか背中を押してやったとはいえ、途中で離反があることは、想定していたのだが、人の心とは本当に分からないものだ。


 きっと指揮官の変更を求めていたのも本心であったのであろう。ここまで粘るということは、戦う意思は間違いなくあってこの隊にきたのであろう。彼らが訓練をしていなかったのは、したくないのではなくあくまでも指揮官変更に異議を唱える手段であったのであろう。前世風に言うのであれば、ストライキが近いのかもしれない。彼らとて、指揮官の実力があるかもわからず、しかも子供では大いに不服であったのかもしれない。


 だが、だんだんと走り続けるうちに、なにか違和感のようなものを同時に覚えるのだ。そう、彼らは間違いなく異様なのだ。なにか、なにかがおかしいのだ。


 通常の精神であれば、きっと限界が来る前に止まるはずだ。当然、途中で止まろうとしたものもいた。だが、彼らの多くは走りながら突然と倒れるのだ。違和感を抱かないはずがない。


 走りながら、彼らに耳を澄ませると、「許さない」だの「殺す」だのとぶつぶつとつぶやいているが分かった。また、彼らからはなにか怨讐のような、肌を刺すような感情をピリピリと感じる。


 一瞬、このような訓練をさせる私に向けた感情かとも思ったが、どうにも腑に落ちない。そこまでの感情であれば、すぐにでも訓練をやめるなりすればよい。だが、誰もしない。であれば、私ではなく他に向けられたものなのかもしれない。つまり、彼らも彼らで、訳ありということであろうか。彼らの貴族派や王族派への恨みはそれほどであったということであろうか。


 最初はなんと何も力のない兵士を与えられてしまったと大いに嘆いたが、蓋を開けてみればこれだ。中途半端な実力をもつだけの兵士を与えられるよりも、将来性という面では今の兵士たちに大変に価値を感じる。ここまで、逃げない強い心というものは、いくら精鋭兵であろうと持っているとは限らない。間違いなく、我隊の武器となる。


 また、私とは色合いが違うが、濃厚でまとわりつくような執念を感じるのだ。いったい、彼らは何思いこの訓練に参加しているのだろうか。いったい何が彼らをここまで駆り立てるのだろうか。私は彼らのことを、知ったつもりで何も知らなかったのだ。


 いま思えば、自分のことで精一杯で、彼らと向き合うようなことをしてこなかった。到着すると同時に顔は見せたが、それだけだ。であれば、反感を抱くのも当たり前であったかもしれない。 勝手に使えないと決めつけ、行動した私の未熟さに恥を感じずにはいられない。将として兵士たちを知る必要性があったのだと強く思い知らされた。


「100名ずつ、順次、訓練に加わっていけ!」


 また、脱落者が出ると同時に回収させているが、訓練の効率化のために順次、訓練する兵士を追加させていった。アルキス兵及び、指導官たちは魔力が使えるため、おもりをつけているとはいえ長く走ることが予測されるため、私とともに最初から走っている。


 アルキス兵たちも新規の兵たちに触発されたのか、負けじと力尽きるまで走り抜けているようであった。また、さすがに精鋭兵ということで指導官たちは、多くのアルキス兵よりも健闘しているようであった。


 だが、一般兵や元アルキス兵の中には、いい意味での例外も幾人かいた。限界の中で適応しようと、急激に魔力運用の技量を上げたのか、粘るものがいた。そして、中には見知った顔もいたのである。ヒューゴである。砦の民たちが危うく暴動を起こしかけたときに、私を擁護した彼である。まさか、このような形で再会しようとは、あの時はお互いに思いもしなかったであろう。


 いまだ魔力運用に限るが、少なくとも才能の片鱗を見たのは明らかで、これからの成長に大いに期待してしまう。願わくは、この隊を支える兵士に成長してくれるといいのだが。


 また、私の嫌がらせに過ぎないのだが、止まりかけたり、気を失った指導官たちを引きずるように走り回った。指導官の一人に責任を負わせることで今回の件を収めたが、こいつらも静観していたのは事実であり同罪だ。さすがにこいつらも負い目があるのか反抗はしてこなかった。


 まあ、結果的に指導官たちにお灸をすえることとなったので良かった。これからの一か月、この人材不足の状況では彼らに頼らざるを得ない。されど、何もお咎めなしでは、同じように反意を持たれる可能性があった。だからこそ、今回は良い影響を与えたと思いたい。


 結局のところ、最初から走り始めた私が最後まで走り続ける結果で終わった。もう少し、おもりをつければよかったと若干後悔している。今思えば、皆よりも魔力が多いのだから当然の結果であったのかもしれない。


 このまま、気を失うまで走り続けてもいいのだが、トールやアルキスもいない状況では不用心かと思いここで切り上げることとした。また、トールやアルキスがいる時に挑戦しよう。

 

「一般の兵士たちなのだが、異様な執念のようなものを感じた。彼らは、普通の兵士とは何かが違う気がした。なにか知らないだろうか。」


 砦まで案内してくれた元アルキス兵から、タオルを受け取りつつ、そう彼に問うた。


「私も詳しくは知りませんが、彼らの多くは徴兵されたのではなく志願兵だと聞いております。もしかしたら、それが関係しているのかもしれません。」


 さすがにこの情報だけで、納得して終わることはできない。一度、共に戦う仲間としてやはりよく知る必要があるようだ。千以上の兵士たちが地面にピクリとも動かず転がり倒れているというかなり異様な光景を見渡しながら深くそう思うのであった。


 また、やはり私はまだまだ未熟なのだなと深く実感した。なにせ、何もかもが誤算だらけなのだから。まあ、いくら成長してもこの気持ちは抱くことになるのかもれしないが。


「だが、だからこそ面白いではないか。」


「申し訳ありません。今なんと?」


「気にするな。ただの独り言だ。」


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 色々と忙しすぎて、更新遅れました。ペース落とすか迷い中です。

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