第39話 中立派の過去①
注)本話はライルの父ルドルフ侯爵視点です。
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私はルードリッヒ侯爵として、中立派の筆頭貴族としてこの国を守るために最善を尽くしてきたつもりだ。なのにも関わらず、なぜ国はこうも荒れてしまったのか。すべては私の力不足に他ならない。なれば、この一命を賭してでも責任を取って、再興のために動かなければならないであろう。
「ルドルフ様、報告でございます。ルーペ子爵家にてまたしても盗賊被害の発生があったとのことです。いつも通り、すぐさま討伐隊と救援物資を送りました。」
「第2師団長キュアノス、報告ご苦労。それにしても、またなのか。今回も、盗賊たちは姿をくらませて捕まえることも出来ないか。」
「残念ながら、今回も難しいかと思われます。」
頻発する盗賊被害が一体どこの勢力の物なのか分からないのがまた、たちが悪い。
「貴族の派の連中か、王族派の連中か、はたまた、その両方か。ずいぶんと嫌われたものだ。」
今回のような盗賊被害は何も初めてではない。中立派が他派閥からつまはじきにされてから、頻発して起こっているのだ。それもルードリッヒ侯爵家以外の中立派貴族でだ。なおさら、たちが悪い。
「経済的制裁に始まり、中立派貴族の盗賊被害。実に単純な攻撃だ。だが、だからこそ、実に効果的に、じわりじわりと効いてくる。彼らはこう言っているのだ。己の領地しか守れない侯爵家を見限り、中立派から離反しろ。さもなくば、いつまでも続けるとな。このやり方は貴族派のグルードあたりか。本当に嫌がる手を適確に打ってくれる。それで、今現在、離反者は出そうか。」
「ルードリッヒ侯爵様のお力で、未だに出ておりません。」
「やめろ。今となっていは皮肉にしかならんぞ。なにせ、ろくに守れない張りぼての権威なのだから。」
「いえ、そのようなつもりは!それに、決して張りぼてなどでは。」
「もうよい。それよりも例の計画はどうなっている。」
起死回生の一手だ。その賭けに敗れれば、私という貴族はいなくなる。それだけだ。最後の正気を保ってしまった貴族として、責務を果たそう。
「少々難航しておりました。さすがは王宮といったところでしょうか。警備も厳しく、ひそかに人を入れるのも困難でありました。ですが、やっと人を入れられる算段がついたところであります。ひそかに人を買収するのに時間がかかってしまいました。」
「であれば十分だ。急いで杜撰な結末になるよりよっぽどよい。焦らず着実に用意せよ。時間を稼ぐのは私の仕事だ。しかし、やはり父の代に、こちらの息のかかったものをまんまと貴族派の連中に締め出されてしまったのが痛かった。父は武に秀でてはいるがあまりそちらは得意ではないからな。報告ご苦労。もう仕事に戻ってよいぞ。」
「はっ!失礼いたしました。」
キュアノスが執務室から出ていくのを見届けると、腹の底から深く長いため息がこぼれ出た。
「こちらは上手くいっても、形成が傾くわけではない。やっと、勝負することが出来るようになるだけ。こちらの計画がさきか。あちらの計画がさきか。すでに賽は投げられた。もう誰にも止めれない。少なくとも、この私が死なない限りは。」
そこからは、連日、あちら側からの数々の離反工作に抗うことに四苦八苦させられる日々が続いた。だが、非情にも形成という名の天秤はあちらに傾いているようだと感じさせられた。
「報告!!コルベール男爵!!離反!!離反でございます!!」
「報告!!ルーペ子爵!!離反でございます!!」
そう始まった。中立派の貴族の離反が始まってしまったのだ。このような事態が生じないように数々の支援や工作をしてきたのに無意味であったか。
このまま、放置すれば間違いなく、一つの貴族が離反をすれば堰を切ったように、立派全体に離反の波が広がる。これは序章すぎず、私たちは敗北へと間違いなく進み始めている。
年甲斐もなく、歴戦の男たちが膝をつき泣き崩れている。無理もない。私たちの計画が間に合わないということが意味するの、は悔しくも敗北なのだから。強兵を誇る我領と言えど、孤立すれば四方八方から押しつぶされることなど目に見えている。
だが、まだ一つだけ手は残されている。中立派という集団を延命するのだ。
「いま、我々中立派の貴族たちは貴族派や王族派という恐怖に怯え、彼らに屈するという手段を今まさに選ぼうとしている。私は彼らを救うために出来得る限りの支援という名の慈悲を与えてきた。だが、悲しいが、人は慈悲よりも恐怖に従う生き物であることが今回、証明されてしまった。私は間違っていたのかもしれない。」
現状を確認するために、彼らに語りかけた。彼らが私を見るが、まだそこにあるのは諦めの目だ。当然だ、この私がその間違いを認めたのだから。
「だが、まだ間に合う!!それは彼らの恐怖を上塗りすることだ!!私たちは彼らに恐怖を与える!!それしか、道はない!!」
あまりに突拍子のない決断に、目を見開き驚くもの、真剣な目で私を見つめるもの、覚悟の決めたものなど、反応はさまざまである。だが、一つだけ共通しているのは諦める目ではなくなったことだ。
古来より、内部に恐怖を与えるために、絶大な効果を持つ手段がある。私は、ずっと悩んでいた。追い詰められたときに、この手段を取るか否かを。貴族派や王族派を批判し、ここまで追い込まれておきながら覚悟を決めかねていたとは恥ずかしい。だが、ここまで追い詰められれば、やるしかない。やるしか道はないのだ。
「覚悟を決めろ!!裏切りものたちを粛清する覚悟を!!裏切った者たちはその子供、女に限らず皆殺しとする!!もう、私たちを裏切るものが出ないようにそこに恐怖を刻んでやれ!!異論はないか!!」
私は彼らを説得するように見せかけて、己のことも説得しようとしていたのかもしれない。返事はないが、彼らの目が私に賛同し、決意を決めていることを告げていた。
「異論はないものと判断する。ルドルフ・ルードリッヒ侯爵の名のもとに命令する。全軍出撃し、我らにあだなす裏切りものたちを粛清せよ。これは虐殺などではない!!王国を正すための正義の行いである!」
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