第34話 自信
「おい!早く木剣を持ってこい!」
おやおや、てっきり真剣を抜くくらいのことをするのかと思ったのだが、そのくらいの理性はどうやら残っているらしい。
はてさて、他の指揮官連中はどうか。静観の構えといったところだろうか。こいつに同調するのでもなく、かといって私を庇うのでもない。このくらいの事態を収めることも出来ないのであれば、頭が取って代わるほうが良いということだろうか。
「勝負はどちらかが降参、又は戦闘不能になるまで。貴官もそれでよいな。」
「ああ、それでいいだろう。」
「開始の合図はそうだな。おい。そこのお前。」
精鋭兵の中で、手前にいた兵士に頼むこととした。
「わ、私でありますか。かしこまりました。開始の合図を務めさせていただきます。」
この兵士に頼んだ理由は、特にない。強いて言えば、ちょうどいい位置にいた。それだけだ。
「貴官もそれで構わないな。」
「ああ、いいとも。」
「そういえば、貴官の名前を聞いていなかったな。」
「これから、会うこともなくなるのに名乗る理由が??」
「それは、間違いない。なんせ、貴官はこれから我隊から去ることとなるのだから。」
我ながら、実に愚問であった。そんな無駄なことをしようとはな。
兵士から、訓練用の木剣を手渡される。まったくもって暴力で解決をしようとは我ながら本当に遺憾だ。だが、それがこの場を収める上で、一番効率的なのだからしょうがない。
わたしも、やつも剣をお互いに向けて、中段に構えた。
開始を宣言する兵士も、私たちの真ん中に位置するところまで移動をした。
「それでは、私が恐れながら開始の合図を務めさせていただきます。」
空気がぴりつく。私の勘が油断するなとそう告げている。やはり、腐っても精鋭兵か。
「では、はじめ!!」
手が振り降ろされながらの掛け声で開始が宣言された。
不幸なことに、剣の実力を考慮しないのであれば、相手にすでに優位に立たれている可能性がある。それは、私はこいつがどのような剣士か全く知らないが、私がどのような剣士か相手は知っている可能性があるということだ。
だからこそ、私は相手の自由にさせてはならない。こちらが主導権を掴まなければならないのだ。
開始の合図ととも、足に力を込め、相手との距離を詰める。されど、踏み込み過ぎないように。
これで仕留めなくてもいい。まずは、この初太刀で相手の出方を見る。
「はぁっっ!!」
左から右に私は相手に剣を振りぬいた。
だが、不可思議なことが起きた。右に振りぬいたはずの剣が、気がついたら、右上の方向にあったのだ。
やられた。 やられてしまったのだ。剣をすりあげられたのだ。
ふと、相手に目をやると、がら空きの横っ腹に、正に剣を振るおうとしていた。
(まずい!!)
もはや、まともに相手の剣を受ける余裕など私にはない。だが、ここまで、狙いが分かっていれば、まだ受けようがあるというものだ。
私はとっさに、やつの剣と己の腹の間に剣を入れた。
瞬間、剣を伝って、体に衝撃が走る。衝撃あまり、体の中の空気が一瞬にして押し出される。
「かはっぁ」
そして、その勢いのまま、横方向に吹き飛ばされてしまった。
だが、不幸中の幸いであったのは、無様に地に転がるようなことはなかったということだ。勢いを殺すために己の脚にてしっかりと、地を踏みしめることが出来た。
「きさまっ、黒陰流か。」
せき込み、やっとひねり出すようにではあったが、声を出すことができた。
「いかにも。だが、そのまま倒れればいいものを。情報通り、しぶとさだけはあるようだ。」
やはり、私の情報は事前につかまれていたか。先の一撃も、読まれていた可能性が高い。
しかし、黒陰流か。いやな相手に勝負を申し込んでしまった。この黒陰流は、不規則な動きをし、時には隙を作って攻撃をする剣術だ。トールには聞いていたが身をもって体感すると、やはりとにかくやりづらい。
黒陰流の本質としては、その動きの読めなさにあるのだ。真道流や水刃流が魔力器官からその魔力を送り出すのに、対して、黒陰流は体の節々に魔力溜まりを作るのだ。だからこそ、黒陰流はより早く魔力を引き出すことができる。ある意味、初動だけならば真道流を上回るであろう。短所は出力をそこまで、上げられないことだが、とにかくやりづらい相手であるのは間違いない。
「よく言う。絶好の機会にも関わらず、仕留めきれなかったというのに。」
確かに、危なかった。だが、最初から浅く踏み込み、仕留めるつもりで剣を振るわなかったからこそ、私は相手の剣を受ける余裕があったのだ。
「おまえこそよく言う。自信満々に勝負を申し込んできて、このざまとは片腹痛いわ。次こそは一撃で仕留めてやる。」
「もう次はない!!」
だが、今や、先ほどと明確に異なる点がある。私がこいつのことを知ったということだ。であれば、もはやこいつに負ける道理はない。
先の砦戦前であれば、私は負けていたかもしれない。だが、砦戦を経験して大きく飛躍した今ならば自信を持って言える。
並みのわが軍の精鋭兵などもはや、私の敵ではないのだと!
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