初陣

第29話 ある一室

 魔道具に照らされた薄暗い部屋。ブルシュミット領の地図、ルードリッヒ領の地図が机の上に広がり、兵士に見立てた駒がその上に散乱していた。その空間にいた3人の内、2人が控えるようにその部屋にはいた。その部屋の主は兵士に見立てた駒をクルクルと回し地図を眺めながら、その従者たちに問いかけた。


「ねえ、ガレス、アルミラは、ライルは大成すると思う?」


「従来の定説では難しいかと。」

「私もそう思います。」


「まあ、そうなるよね。」

 

 過去にも歴史的にも数少ないが2属性持ちはいないわけではなかった。まあ、今では知る人もいないほどだけどね。でも、残念ながら彼らを使いこなすことは出来なかった。だからこそ、定説も彼らを否定するものになっていったんだよね。


「では、カイン様は大成されるとお思いなのですか?」


「ははは!アルミラ、それは難しいかもしれないね。」


「では、なぜ千もの兵士を与えて、侵攻する軍に加わる機会も与えたのですか?」


「千を与えたのは、手柄を挙げれば報いるという象徴になるからっていうのがまずあるかな。でも、一番は藁にもすがる思いで、彼に賭けてみたいと思ったからかな。」


 あんなものにも期待しないといけないとは情けないが、それが我陣営の状況だ。というか、アルミラは理解できないといった具合かな。こういう人のいつもの違う顔ってなんでこんなに面白いんだろうか。つい、口元がにやける。


「理解できません。」


 ほらきた。アルミラはほんとに期待を裏切らないな。


「だって、彼はなにかをしてくれそうな気がしてこない?砦の話みたいにさ、負けそうになっても、あきらめないで最後まで噛みついていく。そして、最後にはみんなに希望を与えるんだ。それって物語の英雄みたいじゃん。」


「ますます、理解できません。」


「ははは!それは残念だなぁ。まあ、彼はもしかしたらこれから化けるかもなって思ったんだよ。」


 ライル、君は知っているかい。君のミノタウロスとの戦いがどれだけ砦の兵士に希望を与えたかを。トールという右壁の支柱を失った兵たちは絶望し、士気が下がったと聞く。その中で、君だけがミノタウロスに対峙した。


 その戦いは他のものが、入り込めないほどの激戦だったみたいだね。そして、まだ未熟だからか、ミノタウロスを倒した後に、君も倒れてしまったみたいだけどね。でも、トールと明確に違うことがあった。それは希望だよ。ライルの戦いは希望を残った兵士たちに残したんだ。私は思うんだよ。心を動かせるというのは立派な才能の一つだと。


 それだけで、この劣勢状況では君に期待する十分な理由になる。だが、ライル、私の脚を引っ張るということだけはしてくれるなよ。この乱世、お荷物を抱えたまま乗り切れるほど甘いものではないのだから。ふと、手元からぱきりという音が聞こえた。


 その音は手に持った駒が割れる音だった。また、三人しかいない部屋にはやけに響いた。すぐにガレスがそれを受け取ってくれた。


「カイン様、ルドルフ侯爵には気を付けたほうがよろしいかと。」


 ルドルフ侯爵か。奴は私から見ても異質の一言に限る。まるで、どこか壊れてしまっているかのような印象を受けるのだ。


「ああ、分かっている。」


 とはいえ、ルドルフ侯爵を始め、3師団長とは国への反逆をすることで力を合わせることを誓った同士だ。平定した後の方針に関しても、4人で事前に議論し同意を得ている。未だ、大枠しか考えることは出来ておらず、これから専門家に頼り詳細に詰めねばならないが。今日の軍議でも改めて同意は得ているのだ。


「しかし、ルドルフ侯爵がしたことは!」


「いうな!!!」


 ドンという音が部屋全体に響きわたるとともに、握りしめた拳に鈍痛は走った。と、同時に机の上の駒も床へと零れ落ちた。


「し、失礼いたしました。」


「それをどうこういう資格は私たちにはない。それを利用していまここにいるのだから。」


 確かに、ルドルフ侯爵のあの行動は軽率であったのかもしれない。もしかしたら他に手立てがあったのかもしれない。


 だが、それは中立派全体への引き締めへとつながったのも事実なのだ。確かに効果は大いにあった。あれがあったからこそ、中立派の離反が止まり、国の平定という夢も未だ夢見ることが出来ている。だが、問題はそれほどの大きな効果を及ぼすほど、残虐なものだったということだ。


「よく考えて見てほしい。悔しいが、あれがなければ今の中立派はないというのも紛れもない事実なんだ。それに、ルドルフ侯爵があそこまでするまで、動くことができなかった私にも責任がある。同罪だ。」


「そんな。カイン様の責任などでは!」


「すまないが、机の駒を並べなおしたい。手伝ってくれるか。」


 私がもう話を続けたくないという意思が伝わったのか何も言わずに2人は手伝ってくれた。


 だが、ルドルフ侯爵の才能は間違いなく私たちの陣営では必要不可欠なものだ。ルドルフ侯爵だって苦渋の決断であったはずだ。


 だが、私はそれをさせてしまった。己の力の無さを恥じよう。そして、より力をつけるのだ。次はあんなことが起きないように。


◆◆◆◆◆◆◆◆

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