第21話 トールの思い

「いま、ライル様の魔力は実に不安定な状態であります。つまり、本来、共存しない性質の魔力が2つ混在しているのです。ここまでのご自覚はございますか。」


 いや、まったくといっていいほどにない。


「すまぬ。分からぬ。」


「私が敢えて隠しておりましたので、当然のことかと思います。まずはそこからご説明いたします。」


 重い雰囲気のなか意を決した顔で口を開いた。


「以前、3つの剣術が主に存在するという話をしたのを覚えていますでしょうか。」


「ああ、覚えている。」


 たしか、真道流、水刃流、黒陰流の3つだったか。


「その3つの大きな違いはその魔力運用にあるのです。真道流は直線的に動く魔力、水刃流は流動的に動く魔力、黒陰流は体の節々に魔力の溜めを作る変則的な魔力を用いるという点で異なるのです。つまり、3つの流派は3種類の魔力の主要な流派に過ぎないというわけであります。そして、この3つの魔力は本来は共存することはあり得ないのです。」


 なんとなくだが、察しはついた。これには頭を抱えるどころか掻きむしりたい気分になる。自然とため息も大きく出るのもやむを得ない。


「はあぁぁ。もうよい。結論を教えてくれ。」


「か、かしこまりました。いま、ライル様の中には直線的な魔力、流動的に動く魔力が混在しているというわけであります。」


 だから!だから、混ざりものか!十中八九、そんな異質な私を馬鹿にしていたのであろう。だが、それがトールのせいだとは思えないだよな。頭を抱える私にトールは言葉を続けた。


「本来、その3種類の魔力は1人の人間に1つしか存在しません。なので、ライル様が2つ持っていることは長所のようにも思えますが、実はそうでもなく、短所の方が大きいとも言われています。」


「短所とはいったいなんなんだ。」


「それは3種類の魔力は共存しえないというところにあります。直線的な魔力は魔力回路を鉄のように固く圧力に耐えられるものに変質させるのです。そして、流動的な魔力は魔力回路をより柔軟なものに変え、変則的な魔力はため池のようなものを節々に魔力回路に作ります。」


 3種類の魔力はそれぞれの性質にあった魔力回路を作り出すということか。


「その、もう少し詳しくお願いできるか。」


「かしこまりました。例えば直線的な魔力を使うものが、流動的な魔力や変則的な魔力を使うとどうなると思いますか。直線的な魔力より硬質化した魔力回路は流動的な動きを阻害し、魔力のため池は魔力の流れを阻害するでしょう。つまりお互いに、阻害してしまう関係にあるわけです。」


 わかったよ。大きな、あまりに大きなハンディキャップを背負っていたという事実が。


「だが、なんでそんな事態になっているのだ。」


「そ、それは記憶喪失と私の死なないようにする訓練が関係があるかもしれません。そ、その、徹底的に剣を私が振るったので防御しやすい流動的な魔力が発現したのかもしれません。ですが!!ふつう!!発現することはないのです!!」


 だからか。自分の責任があるかもしれないと思っているのはその点か。だが、この感じは意図的なものではないことがひしひしと伝わってくる。

 でもな〜。これって私の転生も関係している可能性もあるから何とも言えない。何せ魔力も増えているようであったから、性質に変化があっても不思議ではない。


「だが、なぜ今まで黙っていた。」


「それは、共存しえないものを共存させるためです。人はできないと思えば、できるものもできないものです。そして、ライル様と剣を合わせるうちに、魔力回路の拡張をするうちに、そのできる可能性が見えてきました。だから、黙っておりました。」


 わかるよ。だけどな〜。雇い主にそれはどうよ。黙っているってのはな〜。いや、雇い主は母親。ということは。


「母様はこのことを??」


「もちろん、知っております。魔力回路の拡張も回路を一度壊し、適応させるためでありました。こちらもミレイ様の同意のうえです。」


 ずいぶん、あっさりと白状するものだ。その真意はいったいどこにあるのやら。

 それにしても、母様は子供としてか、道具として見てるのやらわからないな。魔力拡張という危険を犯してでも使える剣士になることに賭けたか。


「トールから見て、今の私は共存したと言えるのか。」


トールはうつむき、言葉に詰まらせながらも続けた。


「わ、分かりません。いま、魔力回路がボロボロの状態にありますが、それは共存できていないとも取れます。しかし、仮説に過ぎませんが適応過程にあるのかもしれません。その証拠にこの戦で大きな成長を遂げましたし、何よりも真道流では止めることの難しいシュバルツ団長の矛を止めることができていました。」


 分からないか。まあ、手探りで私の指導をしていたみたいだし当たり前か。

 しかし、止めることの難しいシュバルツ団長の矛か。シュバルツ団長は最初からついて行かせるつもりはなかったのかもしれない。だが、トールだけがあと時の私のもう一つ魔力の存在を知っていたから、できると私に言ったわけか。


「そうか。結果論ではあるがトールの判断は間違っていなかったのかもしれない。だが、これから先は母様や父様ではなく私だけの言うことに従ってもらいたい。できるか。」


 通常なら、私などに付き従うなどしないだろう。なんせまだなんの力もないのだから。だが、今のトールには私に対して負い目がある。ここに漬け込まない手はない。


「ライル様、ただおひとりに従い忠誠を尽くします。何よりも私はライル様の剣を始めたものとしてその生末を見届ける責務がございます。」


「ルイス。」


「ライル様、ただお一人に従い忠誠を尽くします。」


 膝をつき手のひらと拳を体の前で合わせ、己に忠誠を誓うものを得た。今回の戦いの最大の戦果と言えよう。


 てか、ルイスにいたっては魔力回路拡張してるから今回のことも知ってたと思うんだよな〜。


◇◆◇◆◇◆◇

次回は領都帰還です。この隣領との争いの原因なども徐々に明らかになります。


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