第41話 家族は重荷か
マルク治療師長から父であるルドルフ侯爵の話を聞かされたわけであるが、なにか違和感があった。なにかは具体的には分からない。だが、なにか、なにかを見落としてしまっているようなそんな気がしてならないのだ。
「多くのことを聞きたいのだが、まずその前に一ついいか。」
「もちろんですとも。」
「なぜ、私はそんなことも知らなかったのだ。おかしいだろう。そんな大きなことが、しかも、最近のことがこんなにも風の噂ほど耳に入らないなんて。まさか、意図的に耳に入らないようにされていたとでも??だとしたら、なぜだ。」
これだけのことが起これば、使用人たちの間でも様々な憶測が飛び交わないわけがない。それが無かったということは何かがある。それは間違いないのだ。
「意図的に耳に入らない。それは半分正解で半分不正解であります。人の口に戸はたてられないとはいったもので、いつの世もそう簡単に噂を止めることなどできはしません。ですが、それが限定されていればどうでしょうか。例えば、ライル様がいらっしゃった領主邸に限定されるのならば。
「つまり、侯爵が今回の話を口止めしたと??」
「ええ、仰る通りです。ですが、それはあくまでも次の戦を見据えての話。いつの世も、情報は千金と同じ価値があるものです。ましてや、中立派の頭目であられるルドルフ様の身辺であれば当然のことでしょう。何が、どう転んで敵側に悪用されるか分かりませんから。であれば、出来得る限り情報は断つべきことは明白でありましょう。戦は始まっておるのです。」
先のブルシュベット侯爵領の砦戦を始めとした戦で後手後手に回っていたことから、情報戦を軽視しているかと思っていたがそうではなかったのか??
「だが、先の話は少なくとも処刑場に来ていた貴族連中には知られていた。であれば、その情報は我が家のみで情報制限しても意味などなかったはず。ちがうか??」
「そちらも相違ありません。ですが、中途半端な情報制限など実に危ういものです。であれば領主邸では全面的に情報封鎖したほうが都合がよかったのです。」
まだだ。私の違和感は解けてなどいない。
「では、なぜ母様たちは離反した貴族たちの助命嘆願などをしたのか。」
「これ以上は、物理的にも私の首に危険を感じざるを得ないのですが。まあ、いいでしょう。この老骨、ライル様のためにただし、ここからは、ルドルフ様にも話したことは、内密にしていただけますか。」
「ああ、約束しよう。ここまで聞いて聞かないことなどありえない。」
父ルドルフにも話したことを知られたくないことか。こういう、他人の秘密は実に興味がある。まあ、知ってから知らなければよかったと後悔することも少なくないが。
「では、森の奥まで移動いたしましょう。ここの警備は私どの部下に任せます。おい!!クルス!!ここの兵士たちの介護と警備任せたぞ!!」
「お任せを!!」
「信頼のおける部下です。この森にでるモンスターであればたやすく対処できるかと。では、行きましょうか」
「ああ。」
治療部隊に任せるのは若干の不安があったが、マルクがここまでいうのであれば断ることなどできようはずがない。
◆◆
「このあたりでよろしいでしょう。はてさて、どこからお話をすればよいか。」
「いや、少し待て。」
剣に手をかけて、近くの木を2本ほど一刀のもと断ち切った。
「どうぞ、そちらにお座りを。」
「この程度ことは出来るほど、成長しているようで安心いたしました。では、ありがたく座らせていただきます。」
すこし驚かせようかと思ったが、思いのほか面の皮は厚いらしい。いつも落ち着いた行動をとるため、動揺した姿がどんなものかと見てみたかったのだが。
森の中、2つの切り株で椅子を作った。簡易的であるが腰掛けて話をすることが出来るようになったというわけだ。
「では、改めてお話いたしましょう。まず、処刑場に来ていた貴族たちの口止めまでしなかったかでありますが、それは不可能に近いことだったからです。裏切るかどうか悩んでいた彼らに、そこまでのことを期待するなど無理がありましょう。であれば、ことは実に単純です。それを活用すればよい。それだけです。つまり、その処刑場までの情報を流すことだけに関していえば、ルードリッヒ侯爵家にも利があったということだけであります。」
「利があったとは面白い。ということは、先ほどの話の母様たちがなぜ助命嘆願をしたのかという話に、それが繋がっていくわけか。」
「おっしゃる通りでございます。つまりは、ルドルフ様は家族を守りたかったのです。家族を蔑ろにしているとなれば、多少なりとも安全は確保されるでしょうから。奥方様方ですが、もしかしたら処刑されようとしている知人や子供を心から助けようとしたのかもしれません。ですが、だれかから事前にそうするように仕向けられていたのであればどうでしょうか。なにか、先ほどの話を聞いて違和感がありませんかな??」
先ほどの、父ルドルフの過去の話か。であるならば、ひとつだ。
「母様たち出身の貴族家か。先ほどの話、侯爵の勢いに押されてとも取れるが、両家ともにあまりにあっさりと自分たちの娘を擁護するようなことは無かった。まるで、事前に仕組まれていたかのように。」
「いやはや、ご明察でございます。侯爵と奥方様方のご出身貴族の当主とで密約があったのです。娘たちを守るためと言われれば、おふたりも嫌とは言えませんから、娘たちにも事前に話を通していたのです。まあ、実際に本物の牢に一週間ほど入れられたものですから、ルドルフ様に怯えるようになってしまいましたが。さすがに、貴族として過ごしてこられたのに、初めての経験で大変お辛い思いだったでしょう。」
そりゃあ、そうなるな。この時代の文明の牢など劣悪だ。一度、我が家の牢を見たことがあるが、一日とていたくはない。
「では、父ルドルフの怒りも偽りであったと??」
「いえ、それは本当でございます。本来の筋書きであれば、奥方様方が軽く異議を唱え、それを怒り不仲を演出するという程度だったのです。それが、あまりに真剣にお願いするものですから、その、ルドルフ様が本気で怒られてしまったのです。さすがに、地下牢に1週間もいれるなどの予定はございませんでした。奥方様方を弁護するのであれば、実家の貴族家からはそれぞれ軽く意義を唱えるようにとしか言われておりませんでした。これは不自然に思われないようにするためでありました。ですが、ルドルフ様とご実家が画策したことで、怒りを買ってしまうのは実に不憫に思えなくもありません。」
思わず、頭を押さえるとともに、腹の底からため息がでた。母様も母様だが、父ルドルフも似たようなものだな。していることは、いくら余裕がなかったとはいえ逆上に近い。まあ、当初の目標は想定上に達成されているので、大成功とも取れなくもないのだが。
「じゃあ、最後にもう1点いいかね。この話をした本当の理由はなんだ。まさか、この森に来てからの話までも嫡男だから知る必要があったとは言うまいな。」
「いやはや、本当に鋭く困ってしまいますな。今は、むしろ現在の関係は都合がよいのですが、全てが終わったら双方の仲を取り持ってほしく思いまして。」
ああ、今回は聞いたが最後に後悔する話であったか。
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以下、大まかにまだ書いてないことをまとめたのですが、進みが悪くて泣きそうですね笑
*なぜ、軍議にルドルフ侯爵はライルを呼んだのか。
*カインはどのような経緯でルドルフに代わって中立派の頂点を務めることとなったか。
*ブルシュベット侯爵があそこまで中立派陣営を翻弄した主犯格。
*貴族派・王族派の現在の状況と今後の対立。
凡人貴族の死にフラグが消えない。 シロクマくん @sugarrr2
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