第31話 再会
実をいうとカインより配属された兵は軍議の翌日には現着していた。だが、すぐに訓練に移れるのかと言われれば否である。そのため、ただの基礎訓練に留めている。
現状を知らずには、どのような軍を編成するのか、どのような訓練が適切であるかなど決められるはずなどないのである。そのため、一日を使ってでもトールに私の兵に関する報告書をあげさせた。まあ、トール一人でやったわけではないし、その結果もあまりに凄惨な状況であったが。
その間に何もやっていなかったかと問われば、それも否である。上に私の要望を通すべく駆け回っていたのである。幾ばくかの人材を戦前だけでも融通できないかと掛け合っていたのである。千もの軍を編成しようにも、私とトールだけではいくら手があっても足りないと考えたのだ。経験豊富な軍人はどうあっても必要不可欠であったのだ。
結論から言うと、実にあっさりと要望は通った。それは軍の首脳部も検討の最中であったためだ。上も、流石に新規兵士が半分居るという現状に危機感を募らせたということだろう。付け焼刃と言えど早期教育を図ることを選んだというわけだ。
また、もう一つ個人的な要望も行っていた。それは水刃流に優れた指揮官級を一人は入れてほしいという要望だ。軍編成時に指揮官級の知見がどうしても必要であったことと、私を自己強化するためである。私は真道流と水刃流に適した属性を二つ保持している。だが真道流はトールに教えを受けたが、水刃流に関しては全くもっての無知なのである。
こちらに関しては、「十分に検討しよう」と言われ、それ以上は相手をしてもらえなかった。どうなるかは、そのため未だ分からない状況なのである。
いや、正しくは分からない状況であったというのが正しいであろう。その答えは、今の私の面前にいる一人の男にあった。
「ライル様、お久しぶりです。いや、話したことは無いので初めましてというべきかもしれまれん。このアルキス、ライル様の要望に応えるべく参上いたしました。」
「アルキス兵士長いや、いや、千人長であったか。なぜ、あなたがここに。」
アルキスは先の砦の戦いにおいての、砦の責任者を務めていた人物だ。だが、アルキスは私と同じくカインにより千人長に推薦がなされた人物である。決して、ここにいて人物ではないのである。
「千人長は、確かに魅力的なお話ではありました。されど、辞退をしてまいりました。」
「辞退、辞退と今、申したか。だが、一体なぜそんなことを。」
つまりは、アルキスは昇進の話を蹴ったというわけだ。だが、カインの推薦を蹴ったという事実は少なからず、これから先において尾を引くぞ。なんせカインの顔に泥を塗った行為に等しいのだから。
「ライル様は我々に配属がなされた兵士たちをどうみますか。」
「あんなもの数だけをそろえた張りぼてだ。」
「同感です。まともな方法では、あれでは戦果を挙げるのは困難に等しいでしょう。」
「だから、昇進の話を蹴ったと。」
それは、無責任が過ぎるというものではないだろうか。つまりは、甚大な損害を被るリスクを避けるために辞退をしたとも聞き取れるのだ。
「勘違いしないで頂きたいです。今回の件はカイン様も承諾の上でございます。カイン様の推薦がなされた我々には失敗は許されないのですよ。そのために、私は辞退し、ライル様と手を取る道を選んだのです。」
「それは申し訳なかった。心から謝罪する。」
語気を荒げたアルキスの言葉に怯み、咄嗟に謝罪の言葉がこぼれ出た。暗にお前は逃げたのかと告げたのだから、当然ではあるが。
砦から見ていた時に多少思っていたことではあるが、こいつ真面目がすぎるな。己の野心よりもカイン様の体裁をこいつは優先させたということが、こいつの人間性を暗に告げている。
なぜ、アルキスが提案を蹴るに至ったのか。それは、今の我々はカイン様が推薦した軍であり、その勝敗は元中立派のリーダーとしての権威に影響するためだ。私自身もカインに直接、忠告され重く受け止めているつもりであったが、アルキスはより重く受け止めているらしい。
「だが、1つ聞きたい。私と手を組むことで失敗をせずに、戦果を挙げることが出来ると思うか。確かに、アルキス殿の実力は大いに知っている。失礼を承知で言う。だが、それでもそうは変わらないと思えてならないのだ。」
真面目な顔をしてアルキスに問うた私に返って来たのは、先ほどとは打って変わった笑みを張り付けた返答であった。
「それをあなたが言いますか。ライル様は此度の戦で戦果を挙げるために、最後まであがき続けていらっしゃるとお聞きしました。なんでも、そのために新たな軍を創設するために動かれているとか。」
「な、なぜそれを。」
思わず、目を大きく開けてしまうほどの驚愕の事態を聞かされた。未だ、ルイスやトールにしかそのことは話してはいないのだ。
咄嗟に後ろに控えるルイスとトールに目を向けると、ルイスは平然としていたが、トールがわずかではあるが目をそらした。
「貴様か!!トール!!」
「落ち着いてください。トールさんはライル様が成そうとしていることには、私に頼る他ないと思ったそうです。事実、私は水刃流に長け指揮官級であり、ライル様の望まれる人材であります。また、カイン様に謁見した際にこのことをご相談したところ、私にライル様の為そうとしていることを補佐するように、直々に命令が下りました。まさか推挙を取り消すわけにもいきませんので、形式上は千人将の辞退となりましたが。」
事態が早急に動き過ぎではないだろうか。まだ、トールに軍の指針に関して話をしてから1日しかたっていないのだぞ。いや、だからこそか。完全にアルキスが千人将に就任し、時がたち過ぎては、もはやアルキスという人材はそこからは容易に動かすことは出来ない。だが、今ならばまだ間に合ったということだろう。
また、それがカイン様の協力もあったとなれば、より容易に物事が進んだであろう。だが、カイン様の協力があったとなれば、アルキスが私の傘下に入るのはもはや決定事項である。私に拒否権などない。
「承知した。アルキスが我隊に配属されることを受け入れよう。共に新たな軍を作ることに協力をよろしく頼む。」
「こちらこそ、楽しみであります。どうかよろしくお願いいたします。」
楽しみか。面白いことをいう。私が差し出す手をアルキスが握りしめた。本来であれば、同じ千人将であった身。ましてや、相手の方が軍人としては優秀と来た。取り扱いには注意せねばならないだろう。
だが、トール、貴様の独断専行は容認できるものではない。そう思いつつ、私はトールを再度睨みつけるのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
どうか、フォロー・☆をよろしくお願いいたします。大変励みになります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます