第28話 利害

 その後の軍議は滞りなく終わった。だが、こちらの軍がブルシュベット領を侵攻するあたって多くの課題が山積みであるのは間違いない。我々は良くも悪くも、行き当たりばったりなのだ。国王が死にその混乱に乗じて謀反の計画、弱り切った我々を吸収しようとしたブルシュベット領を今度は吸収し返そうというのだ。これではどうしても完璧な、計画というのは困難なものになってしまう。本当に前途多難だ。


 ちなみに、なぜカイン様が我々側の陣営を指揮する立場にあるかというと、その血筋にある。カインの母はルードリッヒ侯爵の姉に当たる方なのだ。つまり、カインは私の従弟に当たるわけである。よって、中立派が冷遇された前王時代にはカイン様も冷遇されていたのである。また、私の叔母にあたるカイン様の母上は、権力闘争の最中で命を落としている。カイン様が他派閥を敵視して、中立派をまとめ上げた原点はそこにもあるのかもれない。


「カイン様、お待ちを!」


 軍議が終わり、廊下を歩くカイン様を追いかけ声をかけた。


「ああ、ライルか。どうしたんだい。」


「ひとつ、お願いが。私を侵攻する軍に加えてもらえるように口添えしていただきたいのです。」


 そう。総勢3万にまで膨らんだ軍であるが、なにも全軍が攻めに転じられるわけではない。今この国には、他の敵対派閥も存在しており、領土を守り睨みを利かせる軍も必要なのだ。だが侵攻する軍に私は食い込まねばならない。それは、後継者争いをする必要がなくなったとはいえ、我々ルードリッヒ侯爵家は中立派の貴族から権力を取り上げようという立場だ。己の身は自分で守れる力を権力を手にせねばならない。


 これからの乱世において、力がなければ食われることは容易に想像がつく。そして、私は腐っても侯爵家の嫡男という身だ。狙うには格好の的なのである。


 カインの目つきが厳しいものへと変わった。 


「それは、うぬぼれが過ぎるというものだよ。君は次の戦いの重要性を本当に理解しているのか。」


 これは予想外だ。カインは軍議において私よりの発言をしてくれたので、少しは考えてもらえると思ったのだが。カインにとって、私は功を挙げたものは昇進させるということを示す道具に過ぎなかったということか。


「ええ、もちろん理解しております。」


「いいや、理解していないね。私たちの生き死にがかかった戦いだ。それを何も指揮経験のない君に任せられると?だが、考えないことも無い。」


「と、いいますと??」


「こちら側の軍も知っての通り一枚岩ではないんだよ。君に与える軍は私が用意したものだ。つまり、君の成功も失敗も私の派閥内の地位に大きい影響があるわけだよ。まあ、何が言いたいかというと、侵攻開始までに私に可能性を見せてくれ。君が功を挙げられるという可能性を。どちらにせよ、こちらには余力はない。次世代の芽が今回の戦いで伸びることは不可欠なんだよ。だからもし、加わりたいというのならば、君という力が賭けに値することをこの私に示してくれ。」


 望むところじゃないか。むしろ打算なき善意など、気持ちが悪い。利害関係を重視するとはカイル様も腐っても王族ということかもしれない。


「承知しました。必ずご期待にそえるものになるかと。」


「ははは!そうなることを期待しているよ。」


 今はカイン様は私に友好的だ。だが、失敗すればどうなるかなど目に見えている。利害関係で成り立つカイン様との関係において、私の失敗は今の関係が崩れるだけでなく、軍内における影響力を失うことを意味する。逆に、成功すればカイン様という後ろ建てを得てさらに躍進するであろう。ハイリスクハイリターンとはまさにこのことよ。


「お任せを。」


 カインは「にっ」と笑い、護衛の二人とともに去っていった。私は利害関係といえど、臣下としてカイン様の背に頭を下げ続けるのであった。


 さて、問題は山積みだ。だが、私がまず心配しなくてはいけないのは己が指揮をする予定となる千の兵士たちのことである。まずは、己が出来ることを確実に着実になさねばならない。千の軍は間違いなく、戦況を変えられるだけの軍だ。なんとか、使い物になるものにしなくてはならない。私が地位を確立し、己の命を守れるだけの力を手にするためにも。


◆◆◆◆◆◆◆◆

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 これにて、第2章終了であります。正直、まだまだ回収できていない伏線も多く、それは3章への持ち越しとしたいと思います。今後もよろしくお願いします。

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