第27話 夢
カイン様は、くに、国を作るというのか。
「もちろん、すぐにというわけではない。力のない国は飲まれるのが世の常。そのために次の戦いで力を誇示する。」
「それは徹底抗戦の意思表示だけではなく、前体制を引き継がないという決意表明と受けとってよろしいですかな。」
「ああ、もちろんだとも。」
我々中立派は新しい政治体制への移行を切望している。ルドルフはカイン様へそのことを確認したのだ。
「ここでもう一度よく確認したい。カイン様、あなたは新しい国に一体何を求めますか。」
「人が人の上にたたなくてよい世界。私は新しい国の最初で最後の権力をもつ王となる。無能な王族、貴族たちにこの国の民は苦しめられ続けた。現体制では私たちが新しい国を作っても、いつかすぐ腐り落ちるであろう。私たちがこの負の連鎖を終わらせる。もう人が人を苦しめることが無いように。もう人が自分は特別な人間だと勘違いをすることが無いように。故に、貴族、王族は私たちの代で終わりにしなければならない。」
権力を手放すというのか。カイン様はそこまでの覚悟をしているというのか。しかし、驚いているのは私だけか。ここにいる面々はすでに同意の上というわけか。
「私はこの国統一後、王位を返還し退位する。その後の国は、民たちのものとなる。独裁者が生まれることのないように、権力を分散させ、国の頂点を一人とすることはもはや許さない。人の本質は欲だ。そして、その人の欲とは計り知れないものだ。だから、私たちがその体制を整えるのだ。権力という理不尽に度重なる辛酸を舐めさせられた我々にしかできない大業になるぞ。」
私は今、間違いなく時代の転換点にいる。だが、張本人である王族と貴族がその身分を否定しようというのはなんとも皮肉なことだ。しかし、今でこそわかる。この男、紛れもない傑物だ。私とほとんど変わらないただの王族というだけの15程度の小僧に、貴族たちが従うことは無いだろう。ましてや、その要求が自分たちの爵位を手放せというものなのだから。
新しい国を見たい。私は前世で身分などない世界を知っている。だが、この傑物がつくる世界を私はともに見てみたい。そうか。皆もこの少年のような夢物語に心ひかれ、それに懸けたということか。
「人生耐えに耐えてきた甲斐がありましたな。私の一番の幸運はあなたに会えたことでしょう。カイン様。共に新たな世を切り開きましょうぞ。」
ルドルフがカインに同意の意を示した。されどこれは茨の道だ。現在の中立派の貴族からも賛同を得られずに、離反を招く恐れがある。
カイン様とルドルフ侯爵が味方の諸侯からいかに支持されるかにすべてはかかっている。いや、そのための次のブルシュベット領の侵攻か。すべては繋がっている。勝てば、新しい世はくるぞ。
「この戦、勝つだけでは駄目だ。わが軍の威を国中に示す必要がある。だが、残念ながら時間は私たちに味方をしない。それは、今の我らは弱り切った餌に過ぎないからだ。ブルシュベツト領を急襲し、早急に力をつける必要がある。」
「して、いつ侵攻を開始するので?」
「ひと月。ひと月後だ。困難なのはわかっている。新しい軍を再編成、作戦の立案にいたるまでやらねばならぬことは多岐にわたる。だが、劣勢の我らにはそこまでせねば勝機はない。やらねばならぬのだ。」
カイン様が5千の軍を、ルドルフ侯爵の同意を得ずに呼び寄せたのは、少しでも時間を短縮するためでもあったか。とはいえ、状況が悪いのには変わりがないのか。
その後は、大まかな方針をはなしあった。必要な兵糧の概略、軍の拡張に伴う新編成、ブルシュベット領の現時点の情報の精査など多岐にわたった。作戦の内容はひと月で子細を詰めるようだ。
というか、爵位廃止するなら兄のベルゲンとの血みどろの後継者争いはする必要がなさそうだ。まあ、まだ極秘情報だから兄にいうわけにもいかないが。なぜ極秘情報かというと、元中立派の参加の貴族にこの情報が今、伝わってしまうと離反する恐れがあるからだ。
なんせ、王族派、貴族派による離反工作により既に離反している貴族もおり、自分の既得権益が侵害されるとわかれば残っている貴族もこれを機に離反しかねないからだ。だからこそ、次の侵攻で貴族が我々につくだけの力をみせるのだ。
ちなみ、このカイン様が成そうとしている政治体制の移行は現世でもあった。そう。日本の明治維新である。江戸幕府に代わって成立した明治政府は天皇のもとに身分差別を廃する四民平等を打ち出した。だが、もとの士族や公家の猛反発があり形を変えて、華族として戦後まで残ることになってしまったが。
今生でもすぐには完全なる廃止は難しいかもしれない。だが、この国を統一し力のあるカイン様や我らルードリッヒ家ならばそれに近いことは可能かもしれない。
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