第14話 戦闘と夜明け

 

 日が沈むのと同時に砦へのモンスターたちの襲撃が本格的に開始された。やはり、シュバルツ団長の予測は正しかったと言えよう。


 砦は領土を守る壁のように渓谷の要所にそびえ立ち、モンスターの侵攻から領土を守り続けて来た。しかし、登る隙がないわけではない。石と石の隙間に手をかけ登ることができるためだ。


 そのため、比較的身軽なモンスターはその壁に取り付き這い上がってくるのだ。カタカタと音を鳴らす人形の骨でできたスケルトン。緑色の肌に、尖った耳、そしてその醜悪な容姿が特徴であり小柄な小鬼のゴブリン。そして、空から襲撃を開始したモンスターもいた。それは、手の代わりに白い羽を持ち、足には鉤爪を持った人形に近いハーピーである。それらモンスターはまるで示し合わせたかのように同時に砦への攻撃を開始した。


 されど、流石はシュバルツの直轄部隊と言うべきであるか。落ち着き、その連携の取れた動きで一体、一体を確実に屠っていく。また、弓兵や少数であるが魔法使いが空を舞うハーピーを落とし、空への対処をしているのがよくわかった。


 私自身もゴブリンやスケルトンを何体か己の剣にて叩き切った。その興奮のためか、初めての殺傷にも関わらず想定よりも精神的な衝撃はない。今は、己が生きるために、目の前の敵をただひたすらに切った。そこで、気付いたのだが訓練をしてきた私から見ても、モンスターたちの強さは大したことはないように思えた。


 しかし、問題はその数にあったのである。モンスターの屍を積み上げても積み上げても、その数は減ることはない。まるで水が湧き出るがごとく、砦を這い上がってきたのだ。


 そもそも、砦にいた400の兵はその数を200に減らしていた。また、残った200の兵ももはやその目に生気はなく、死力を尽くして戦っていたことが見て取れた。

 この数の暴力が、砦の兵士へと無慈悲に襲いかかったのだろう。休むことを許されず、少しずつと生気を削ぎ落とされ、何よりも終わりの見えない戦いはその士気をも削いだのであろう。スタンピードというものが如何に恐ろしいか、身を引締めずにはいられない。それを皆がわかっているためか、兵士たちの空気がぴんと張り詰めているのがよく分かった。


 私はそんな中で、ただ、がむしゃらに出来うる限り必要最低限の動きで敵を切り裂いていった。しかし、目の前の敵だけに集中することはできずに、空から襲いかかるハーピーにその神経をすり減らされた。たしかに、ルイスや弓兵からの援護はあるが、そのうち漏らしが頭上に襲って来るためだ。


 際限無く湧くモンスターに死力を尽くして戦い続けた。しかし、戦いという物は不思議な物で、他の兵士たちとの間にある壁のような物が次第に崩れていっているように感じた。侯爵領の嫡男であるが、問題児としても有名という歩く爆弾であったためしょうがないことであるが、少し寂しくも感じていたから嬉しく感じた。


 距離を詰めるきっかけになったのは、ある兵士が連戦に続く連戦に集中力が途切れていたところに、ゴブリンが襲いかかるところで斬り伏せたことだった。

「ライルさま、すまね〜。ありがとうございます。」

「気にするな。同じ兵士だ。」

 慣れない敬語を使いながら、感謝を述べる兵士に私自身も親近感が湧いた。そこからは積極的に他の兵士のフォローもするようになり、また、徐々にフォローもされるようになった。


「坊主。前へ出すぎだ!下がれ!!」

「坊っちゃん!ここはいい。右へいけ!」


 呼び方はそれぞれであるが、まだ、集団戦に慣れない私に積極的に指示を飛ばしてくれるようになり、自然と連携が取れるようになってきたのがよく分かった。というか、兵士さんたちの遠慮はもはやなくなり、使えるとわかれば使い潰さんばかりに指示を飛ばすようになってきた。


 いや、いいんだけどね。新米だから。あと、「坊っちゃん」、「坊主」呼びはシュバルツ団長が呼んでいたところから来ているらしく、少し恨んでしまったのはしょうがないだろう。


 しかし、兵士たちが私に指示を飛ばし始めた実情としては連戦により本人たちの余裕がもはやなくなり、私という存在にすら頼らざるを得なくなっているのだろう。


 ちなみに、シュバルツ団長であるが砦全体をまんべんなく回っているようであり、今は砦の右側にいるようである。なぜ分かるかというと、その矛でモンスターが中に舞っているのが遠くからでもわかるためである。


 自分の配置場所に団長が来ることで、若干の余裕が生まれ、士気が高まる。敵がそこまで強くはないとは言え、無数とも言える敵たちに大きな被害もなく戦えているのは団長の尽力故であろうことがわかる。


 私を含めて援軍に来た兵士たちも、砦の防衛に支障が出ないように注意しながら睡眠を交代でとることとなった。

 結局、敵の勢いは収まるところを知らず日の出まで続いた。援軍に来た兵士が休息を取るために、夜明けまで休ませるはずであった元の砦の兵士を起こさなくてはならないほどであった。

 すべてのモンスターが夜目が効くわけではないとのことで、日の出とともに攻勢の勢いが増す可能性があるとのことだが、大丈夫なのだろうか。


 ついに、日の出を迎え、砦下の光景が露わとなり無数のモンスターたちの存在が明らかなものとなった。これらから砦を防衛しなくてはならないのかと、絶望を覚えるとともにもはや、圧倒されるしかなかった。すると、突如、モンスターの中から何か棒状のものが砦に投げられ、その轟音が砦全体に響き渡る。


 突然の事態に、その場にいた皆の空気が張り詰めるとともに、ひどく動揺をしていることが良くわかった。

 

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ライル頑張れ!!と少しでも思って頂けたらぜひ☆よろしくお願いします。

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