第47話 リヴァイアサンとの決着と『槍聖』



海底リヴァイアサンの探索はかなりの時間を有した。


魔動騎士に乗る俺もナツメも食事も排泄も不要であるから、何とかなっている。


従魔空間にいる玉藻と真琴とホワイトは、従魔空間の中で快適に過ごしていた。


完全に長期戦だ。ゲーム世界ではそこまで酷くなかった。もしそうだったとしたら、俺はこのダンジョンで終わっていただろう。


《あの時は不正ツールアイテムを使用していましたよ?

 そうでなければ1日以内で終わるはずがないでしょう?》


そうか。そうだったのか。忘れていた。


《ただあの時よりも更に広くなっているようですね。

 恐らく補給の面から見て、人間にこのダンジョンの制覇は不可能ですね》


玉藻はそう断じた。確かにそうかもしれない。そもそもマリアナ海溝の底に行き、そこから補給無しで潜り続ける。


そんなことは不可能といっても過言ではないだろう。


やはり7大ダンジョンは難易度の設定がおかしい。


「……しかしようやく終わりが見えてきたな」


目の前には巨大な扉。その前には巨大なクジラと巨大なイカ。


どうやらあの扉の奥がダンジョンボスで間違いないだろう。


魔動騎士3号機は専用武器の槍『アクアアイス』を構える。操縦するナツメのため、俺は魔力の供給を一段階増やすことにした。



******



専用武器の『アクアアイス』は『水』属性と『氷』属性を持つ槍である。特に『氷』属性については氷原フェンリルから、その力を得ている。


そのため巨大クジラとイカは完全に氷漬けにされていた。


魔動騎士3号機が巨大な扉をくぐる。そこは巨大な青い部屋。もちろん水中。


そこにいるはリヴァイアサン。『槍聖』については見当たらない。リヴァイアサンについても特に変化がない。


『槍聖』の影響が全く見当たらないが、目の前にはリヴァイアサンがいる。


強敵だ、俺はひとまず意識をリヴァイアサンへと向ける。


「我が主。『アクアアイス』の全力を行使します」


操縦するナツメから連絡が来る。俺は魔力の供給をさらに増加させる。


「目覚めろ!『アクアアイス』!!」


ナツメの叫び声とともに魔動騎士3号機から強力な水流が発生し、その推進力でリヴァイアサンへ向けて突撃する。それと同時に『アクアアイス』からは青い光が発せられる。


リヴァイアサンは水属性のブレスで攻撃を仕掛けてくるが、それを避けて槍を持った魔動騎士3号機は突撃する。


槍さえ刺されば、そこから凍らせることでリヴァイアサンさえ倒すことができるだろう。リヴァイアサンもそれが分かっているのか、槍に対しては慎重に距離を取っている。その上でリヴァイアサンがブレスで攻撃を仕掛けてくる。


「部屋ごと凍らせてしまうか?」


俺は作戦を提案する。


《恐らくそれ系統の攻撃は対策が練られていると思います。ゲーム世界ではマグマの海に沈みましたから、同じような手は通じないと思います》


そういわれると墓場ヴァンパイアも氷原フェンリルも俺に対する対策していた。俺の『一閃』に対する対策を。


どちらのダンジョンでもゲーム世界ではボスを『一閃』で倒していた。主に近距離から中距離で俺は戦っている。


墓場ヴァンパイアは恐らく障壁を張り、距離を取って魔法などで攻撃するつもりだったのだろう。


氷原フェンリルは銃器により遠距離攻撃に特化していた。


どちらもナツメがいなければ、大変だったかもしれない。


「……我が主。照れる」


心を読んだナツメから恥ずかしそうな呟きが漏れる。


《ナツメは戦闘に集中してください。ご主人様は現状を打開する方法を考えてください》


玉藻からは厳しい叱責が飛ばされる。


俺は戦いに意識を戻して、辺りを見回す。するとボス部屋の天井や床がいつの間にか消えていた。壁だけが残っている。天井や床があった場所は海と繋がっている。


《恐らく天井や床から脱出することはできません。しかしマグマなどは通過するようになっていると考えられます。これが海底リヴァイアサンの『対策』でしょう》


なるほど。部屋と海を繋げてマグマ等が溜まらなくしたのか。部屋全体を凍らせようとしても、リヴァイアサンは水を操り冷気を上下に逃がすだろう。それにそんなことをすれば、魔動騎士3号機の周りが凍って動けなくなってしまう。その状態でリヴァイアサンが自爆すれば、今度は命が危ないかもしれない。


俺が考えている間もリヴァイアサンと魔動騎士3号機の戦いは続いている。魔動騎士3号機は槍を掲げ突撃を繰り返すが、リヴァイアサンからは距離を取られて避けられていた。


逆にリヴァイアサンのブレスは『距離があるから』魔動騎士3号機は避けることができている。


このまま距離を取ったままでは、勝負は決まらない。水流を操作して動きを封じることも考えたが、相手も同じことを考えている。そのため水流の操作は互いに主導権争いをして、どちらも動きを封じることができずにいた。


どうする?


《主様。私にお任せください》


真琴?どうするつもりだ?


俺は突然のことに少し思考が停止する。


《私が複数の状態異常を試してみます。そうすれば隙ができてリヴァイアサンを倒せるはずです》


状態異常?通用するのか?


《ご主人様。可能性はかなり低いです。ですが0ではありません。

 それにそういう攻撃も相手の気を逸らすことができて、有効であると思います》


玉藻からはこの作戦が有効との判断が下される。


現状打つ手がない。このまま長期戦を続けて、相手が何か仕掛けてくるのを待つわけにはいかない。ならここはできる手を打つという意味で、真琴の状態異常を仕掛けるのもいいかもしれない。


「真琴、やってくれ」


俺は真琴への魔力供給を増加させる。魔力の供給はまだ余裕がある。それを用いて真琴が状態異常をリヴァイアサンへ掛け続ける。やはり無効化されている。しかしなんとなくだが、リヴァイアサンが嫌がっているようにも見える。


新たな一手が追加されて状況は変化していった。



******



リヴァイアサンの体にはいつもの凍傷がついている。『アクアアイス』による攻撃が徐々に当たり始めていた。


真琴の状態異常はリヴァイアサンに通用しなかったが、気を逸らすことができた。わずかな隙を突き、魔動騎士3号機がリヴァイアサンに攻撃を当てる。


ナツメも進化する力で操縦がうまくなってきている。戦況は明らかにこちらへと傾いている。


《『眠れ』》


ついに真琴の状態異常付与が成功する。リヴァイアサンが眠りへと落ちた。すぐに目を覚ますだろうが、そのチャンスを見逃すナツメではない。


魔動騎士3号機の渾身の一撃がリヴァイアサンの頭へと突き刺さる。


「『絶対氷結』」


ナツメの声とともに『アクアアイス』からリヴァイアサンの体内に、強化された氷原フェンリルの冷気が注入される。リヴァイアサンの頭部が徐々に凍り付き、そして砕け散った。


「……ようやく勝てたな」


俺は大きくため息を吐いた。


リヴァイアサンの体が消えてると、壁から青色の光が出て扉が現れる。扉は人間が利用する大きさのため、魔動騎士3号機では入ることができない。


ちなみにこのダンジョンでは魚などの海の幸を手に入れることができる。リヴァイアサンを倒した際は複数の種類の大量の海の幸を手に入れることができた。海の幸として手に入るものは一般的な魚などで、モンスターの肉は一切ない。


「玉藻。水圧や水温などに問題はあるか?」


この先は魔動騎士3号機から降りて行動する必要がある。帰りのことなども考えると、ここに魔動騎士3号機を置いて進むべきだろう。


《もしもの際にすぐに魔動騎士3号機を動かせるように、ナツメはこの場に待機してください。真琴は状態異常付与をかなり無理して行っていたため、従魔空間で待機です。

 水圧と水温に問題はありません。私とホワイトが同行します。ご主人様はもしもの際の予備魔力を魔動騎士3号機に残しておいてください》


俺は予備魔力である巨大な魔石を残すと、魔動騎士3号機から降りて扉へと向かう。呼吸などを魔法で保護された玉藻とホワイトが、従魔空間から出てきて俺とともに扉へと向かう。


今回は水中であるため、俺も鎧を身に着けていない。かなり無防備な態勢で俺は扉の奥へと進んだ。


扉の奥は先程のボス部屋と比べると小さな部屋があり、中空にダンジョンコアが浮かんでいる。この部屋の中には空気があり、俺の胸からは青い槍が生えていた。



青い槍が生えていた?



どういうことだ?青い槍は俺の心臓を貫いている。


「油断したな?」


その声は俺の後ろから聞こえてきた。次の瞬間ホワイトが俺の後ろにいた不審者へと殴りかかる。玉藻は俺の体を抱きしめて、すぐに障壁を張る。


普通の人間なら致命傷だが心臓は俺の急所ではない。


すぐに傷を癒す。


辺りを見回すと、鱗を持つ青い半魚人が青い槍を持っていた。その前にはホワイトが立っている。どうやらあの青い半魚人が俺の心臓を貫いたようだ。


「ブルーっ!」


ホワイトが顔を歪めながら青い半魚人を睨みつけていた。


そうかあいつが『青色天』『槍聖』『ブルー』か。


「久しいな。『ホワイト』。

 お前が俺と戦うつもりか?一度も俺に勝てたことのないお前が?

 『統一合衆国大統領』になれたのは『ドラゴンとの相性』も問題だ。

 お前が俺より強かったからじゃないんだぞ?」


ブルーはホワイトを見下していた。しかしそれを言うだけの実力はあるのだろう。槍を構えるその姿からは恐怖を覚えた。


「ホワイト、ここはあなたに任せます。

 一人で対処してください」


玉藻は冷めた目つきで、ホワイトとブルーを見ていた。


「ん?こいつが俺に勝てるというのか?」


「そうですよ。あなたが言った通り、相性の問題です」


ブルーの言葉を玉藻が淡々と答える。


それを見てホワイトも覚悟を決めたのか、ブルーとの間に緊張感が走る。


「ブルー。あなたは私が倒します」


二人の戦いが幕を開けた。



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