第31話 真琴の課題と動き出す真琴改造計画



乳牛タイプのミノタウロスは水球の魔法で水の中に閉じ込められる恐れはあるが、『オークキング』の俺なら問題ない。一撃で倒せる程度の相手だろう。


「『一閃』9連続直列起動」


俺に迫りくる水球を迎撃するために、『一閃』を9個連続でミノタウロスへと放つ。


水球の数より多い俺の『一閃』が、ミノタウロスの体を切り刻む。


「『召喚』真琴」


このような事態を想定して、真琴とも召喚獣契約を結んでいる。ついで言えば奴隷及び従魔契約も結んでいる。


俺の呼びかけに応じて、真琴が水球の中より召喚される。


召喚された真琴が一瞬でミノタウロスとの間合いを詰め、俺の『一閃』で弱るミノタウロスに止めを刺す。


剣の腕でいえば俺よりも明らかに上だろう。ナツメと比べるとどうだろうか。魔法ありならいい勝負になるのではないだろうか。いやそれでもナツメのほうが上か。


ミノタウロスが倒れるのを確認してから、真琴は俺の元へ駆け寄る。片膝をつき俺に頭を下げた。


「……主様。申し訳ありません。無様を晒しました」


ある意味想定内だ。油断すれば窮地に陥る。そのことが分かればいい。


「……次から気を付ければいい。

 いいから立て。先に進むぞ」


俺は真琴に声をかけて、立ち上がるように促す。真琴は挽回しようと少し力が入り過ぎているように見える。


「真琴。落ち着け」


俺は真琴に声をかける。真琴も俺の心の声を聴くことができるはずだから、本来ならこんなことは言わなくても伝わっているはずだ。


真琴は少し焦っていて、俺の心の声にまで気が回っていないようだ。


「力み過ぎだ。もう少し力を抜いて周りをよく見ろ。

 余裕を持って行動しないと、いざという時に何もできなくなるぞ」


声をかけられた真琴は俺を見る。俺を見た後に一度深呼吸を行い、両手で自分の頬を張る。


……かなり強めに張っていたな。


「……主様。もう大丈夫です」


顔を上げてこちらを見る真琴は、ずいぶんとすっきりとしているようだ。


「そうか。じゃあ、行くぞ」


俺は自然と笑みを浮かべていた。



******



その後の真琴は調子を取り戻し、問題なくダンジョンの中を進んでいた。


順調である。しかし問題がある。


《真琴ですね。真琴の実力及び私たちの中での役割を考えると、足手まといにしかなりません。

 一応真琴にはご主人様と相談があるため、一時的に心の声が聞こえなくなると伝えております。正直に話されても問題ありません》


玉藻の声が急に俺の頭の中に響く。どうやら玉藻は俺を通じて、俺たちの探索を見ていたようだ。


《我が主。私も見ております》


ナツメも見ているようだ。


話を戻そう。真琴についてだ。


真琴の実力はそこそこある。しかし物足りない。


真琴の戦闘スタイルは魔法を補助とした、剣術タイプ。身体強化などで自分自身を強化して剣で戦う。剣術はいわゆる剛の剣。力押しである。


ナツメと被っている。ナツメは魔法の補助なしで、身体能力のみで真琴以上の実力がある。


今の真琴はナツメの劣化版。魔法の力があるといっても、そこまで強力ではない。これからさらに実力差は広がるだろう。


玉藻はいわゆる魔法使いタイプ。俺は剣が主体だが、回復などの役割も担っている。


《正直に言えば真琴にはこれといった特色はありません》


《ついでに言うと、真琴の剣術は真琴に合っていないように思う》


玉藻とナツメがそれぞれ意見を言う。ナツメの言う真琴に合っていないとはどういうことだ?


《真琴の剣術は力で相手をねじ伏せる剣。一撃必殺。いわゆる剛の剣。

 それより真琴には相手の力を受け流し、手数で攻める方がいいと思う。いわゆる柔の剣のほうが真琴には合っている》


ナツメの言うことには一理ある。俺は一度真琴と話し合うこととした。


丁度俺たちはダンジョンの小部屋内にいる。敵も倒して俺と真琴の二人きり。


「……真琴、話がある。ここで少し休憩としよう」


俺が真琴に話しかけると、少し戸惑ったが真琴はそれに応じてくれた。



******



「真琴、単刀直入に言う。お前が今使っている剣術は、お前に合っていない」


俺は真琴にナツメから教えてもらったことを告げる。


真琴は最初それを聞いて驚き、言葉も出ずに固まる。それから怒りの感情が出てきたようだが、それを抑えると大きく息を吐く。


「……やはりそう思われますか」


真琴も自覚があったようで、大きく肩を落としている。


以前真琴が剣を壊されたのも、それが原因だ。自分と合わない剣術で敵と打ち合い、打ち負けた。それで剣を壊されて、一度命を失った。


「……この剣は私の憧れでした。

 父の使う剣術に憧れて、私も同じ剣術を使っていました。

 以前より自分に合わないことは分かっていたのですが、諦めきれませんでした」


憧れか。少しは分かる。


自分にはそれが合っていなくても、憧れを叶えるためにやってしまう。


全く分からないことではない。しかしには足手まといは、いらない。だから引導を渡す。


「真琴、お前には戦闘のスタイルを変えてもらう。

 これはお前を使役する俺の命令だ。拒否権はない。

 従ってもらう」


俺が言っていることは傲慢に映るし。俺自身そう思う。でもさせてもらう。


それが俺のためであり、俺に命を与えられている真琴の義務だ。


《真琴聞こえますか。玉藻です。今回は全員に聞こえるように連絡しています》


話し合いに玉藻も参加するようだ。


《ところで真琴の『職業』について確認して良いですか?》


「玉藻。それはどういうことだ?」


《真琴の『職業』は『姫剣士』です。それは女性専用の『職業』です。しかし真琴は今、呪いによって男性になっています。ですので変化している可能性が高いため、確認したいと思います》


なるほど。『職業』が変化していれば、戦う方法も変わる。確認は必要だな。


「特に問題ありません。……しかしそこから私の『職業』を確認することができるのですか?」


真琴は少し不安そうに玉藻に尋ねる。


《問題ありません。それで『職業』について……確認できました。

 『オークの花嫁(一部呪いで封印中)』となっています》


この『職業』は明らかに俺が使ったオークの禁じ手『オークの花嫁』の影響によるものだろう。それは分かる。


呪いで封印中というのは玉藻の呪いによって男性になっていることだろう。


《私(玉藻)の呪いではなく、私(玉藻)が呪われている呪いの影響です》


玉藻から一部訂正が来るがそれはさておく。


問題は真琴の現在の『職業』が何ができるのかということだ。


『職業』はそれから連想できることなら、魔力次第で何でもできる。


「『オークの花嫁』から連想できることってなんだ?」


俺は疑問を口にする。


《元々の禁じ手が持つ能力として対象者、つまり今回の場合は真琴になります。

 真琴に対して強力な再生能力と不死性を与えます》


オークでない玉藻から回答が来た。さすが頼りになる。


「……主様。それで私はどうしたらよいのでしょうか?」


こちらを窺うように真琴が俺を見ている。真琴としてはこれからどうしていいのかわからない様子だ。


《それであれば、私にいい考えがあります》


玉藻が自信満々にそういう姿が目に浮かぶ。それと同時に嫌な予感がする。


《今回はご主人様に影響はありません。大丈夫です。

 さて真琴はその再生能力を生かし、改造人間にするのはどうでしょう》


改造人間?


《ですです。普通の人間のままで弱いのなら、普通でなくなればいい。

 肉体を改造して強くすればいい。幸い前回のダンジョン制覇で合成するための『材料』はたくさんあります。一応希望があれば聞きますよ?》


合成?材料?……そうか。獣人化か。真琴を獣人に改造するわけか。


《ですです。狐は私の強化材料ですので渡せませんが、それ以外でしたら融通できます。

 私と違い姿をごまかすことは難しそうですので、変身能力も追加しておきます。

 人間形態とハーフ形態とビースト形態です。姿が獣に近いほど、身体能力は高くなるようにしておきます》


楽しくなってきた。真琴を置き去りにして話が進む。


それにしてもどんな獣人にしようか。悩むな。


「すっ、少し待って欲しいっ。

 獣人になることは決定なのか?」


真琴が少し焦ったように俺を見ている。何をいまさら言っているのだろうか。


「当然決定事項だ」


俺は当たり前のことを告げる。


「そっ、そうか。

 分かった。なら動物は徳川ゆかりのものを加えてくれないか」


徳川ゆかりの動物?


《有名なところですと、鷹狩などで好まれた鷹。生類憐みの令で有名な犬。それから日光東照宮で有名な猫や猿等がすぐに上げられますね》


なるほど。日光東照宮というと実際に行ったことはないが、ゲームの彼女と一緒に何回も旅行した記憶がある。ゲームといってもゲームマスターのゲーム世界ではなく、地球にいたころに楽しんでいたゲームの話だ。


ゲームの彼女と付き合ってデートしたり、旅行をしたりした。その中で日光に旅行したことがある。楽しかったなぁ……。


《自分の世界に入り込まないでください》


玉藻からドン引きしたような声が聞こえる。目の前を見ると真琴がやはり引いたような顔つきで俺を見ていた。


彼女が二次元で何か問題があるのだろうか?三次元?俺には関係のないことです。


《いやいや。私たちがいるでしょう?

 帰ってきてください》


玉藻の困惑するような声を聞き、意識が現実に引き戻される。帰りたくなかったのに、どうして俺を連れ戻すのだろうか?もしかして『洗脳』使った?


《使いました。かなり強力なやつを使う必要がありました。

 かなり大変でした。もう戻ってこないかもしれないと思いましたよ》


それでも良かったのかもしれない。


《よくありません。とにかく真琴を改造する必要がありますから、一度地上に戻ってきてください》


玉藻からの連絡を受けて、俺は真琴を見る。真琴はかなり困惑している。


無理もない。怒涛の展開であったから。


「……真琴。地上に戻るぞ」


俺の呼びかけを受けて、ようやく真琴は我に返った。


色々課題は残ったが、俺たちは地上に戻ることとなった。



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