第30話 真琴の復帰と成長のための戦略



俺たちはこの世界について考察していたが、そんなことは関係なく物事は進んでいく。


ようやく真琴が女性を妊娠させたらしい。


「主様。お待たせしました。

 父より主様とともにダンジョンに潜る許可がようやく下りました。

 あと父が野生動物ダンジョンの制覇について、感謝を申し上げておりました」


目の前には真琴が俺に頭を下げていた。


「ああ、わかった。真琴の父の気持ちはありがたく思う。

 俺たちの方はひと段落が付いたところだ。

 次はどのダンジョンに潜ろうか?」


俺は玉藻を見る。相変わらず潜るべきダンジョンを決めるのは、玉藻の役目である。


「いくつか候補はあります。

 しかしそのどれもが、別の場所のダンジョンです」


「どういうことだ?」


俺は玉藻を見た。


「真琴の両親が治める範囲に有力なダンジョンがありません。

 正直に言えばゴーレムダンジョンが一番難易度の高いダンジョンになります」


ダンジョンは地域によって、難易度や種類が異なる。


より上のダンジョンを目指すなら、別の地域に移動しなくてはならない。


「ところでご主人様。外国語は得意ですか?」


苦手だ。正直とても苦手だ。


「最終目標は7大ダンジョンです。当然国外にあるものもあります。

 外国語ができないと色々不便です」


玉藻の言う意味は分かる。でも習得は難しい。


「……ご主人様。ご主人様は『賢者』をお持ちのはずです。

 それを使えば楽に習得できるのではないですか」


玉藻はにっこりと笑っている。でも目は笑っていない。


「玉藻。我が主を必要以上に責めるな。

 お前のことだ。解決策は準備しているのだろう」


高校生のような玉藻に責められて、中学生のようなナツメに庇ってもらっている。


少し自分が情けない。


「玉藻殿。玉藻殿は塔のダンジョンに挑戦されるおつもりか?」


真琴が何か心当たりがあるのか、玉藻に尋ねる。


「塔のダンジョン?」


俺は玉藻を見る。玉藻は相変わらずにっこりと笑っている。


「主様。塔のダンジョンは能力が得られるダンジョンです。

 最上階にあるボス部屋の奥にある部屋に入ることで、ありとあらゆる言語が理解できるようになるといわれております。

 この塔のダンジョンは世界中にあり、外国に行く前に攻略するべきダンジョンといわれております」


真琴が知っていることを俺に説明してくれる。


「つまり塔のダンジョンに行けば、外国語の問題は解決するわけか?」


「ですです。しかし私たちが塔のダンジョンを潜るためには問題があります」


「問題?何かあるのか?」


ナツメが口をはさむ。


それにしても玉藻もナツメも真琴も室内であるためか、少し露出が多いと思う。


3人の姿を見ていると、俺の股間が刺激される。


「……ご主人様。あとでゆっくり可愛がってあげますから、今は我慢してくださいね」


玉藻が俺に狙うような目つきで、俺のことを見ている。ナツメはにやにや笑っているし、真琴は少し赤くなっていた。


ちなみに俺は攻められることを想像して、青くなっている。


俺はいまだに玉藻に対して抵抗することができない。魅了や洗脳に対して耐性はついているのだが、玉藻はその耐性をすべて無効化して俺を攻めてくる。


後ろから責められるのは特に好きなわけではない。


扉は開いたかもしれないが、必ず責める立場になってやる。


俺はダンジョン攻略に強い決意を固める。


「ご主人様。話を続けます。

 まず塔のダンジョンでは魔動騎士が使用できません」


大きさの問題か。仕方ないな……。


「塔のダンジョンに現れる敵は、毎回変化するといわれています。

 同じモンスターが出たこともありますが、初めて出るモンスターが現れる可能性も否定できません」


つまり敵の想定が難しいということか。


「ですです。しかし難易度については大きく変化することはありません。

 難易度はゴーレムダンジョンよりも高いといわれています」


ゴーレムダンジョンよりも上か。外国語を習得することは難しいということか。


「玉藻。しかし私たちなら大丈夫ではないか?」


ナツメが玉藻を見ている。


「私たちの『パーティ』なら問題ありません。

 『パーティ』なら」


玉藻の言葉に違和感を感じる。どういうことだ。玉藻を見るが表情に変化はない。いつも通り笑っている。


「ご主人様」


落ち着いた声で玉藻が話しかけてくる。その落ち着きぶりが逆に怖い。


「私たちの目的は7大ダンジョンの制覇です」


それはもちろん知っている。


「ですので私たちは成長しなければなりません。

 今のままでは7大ダンジョンの制覇を行うには実力が足りませんから」


な、なるほど。言われてみれば、玉藻の言うとおりである。


「ですので今回のダンジョン探索では、2チームに分かれて探索を行いたいと思います。

 私とナツメ、ご主人様と真琴のチームです」


「俺とナツメを分けて大丈夫か?

 ナツメは魔力切れになる恐れがあるだろう?」


ナツメはことあるごとに俺の首筋から魔力を吸っている。それができないとなると、魔力切れを起こすのではないか?


「……我が主。それについては問題ない。

 我が主と直接魔力供給のラインが繋がっているから、魔力切れになることはないと思う」


「なら俺の首筋から魔力を吸っていたのは?」


「スキンシップだ」


ナツメはきっぱりと断言した。清々しい笑顔だ。


「我が主とのスキンシップのために行っている。

 我が主も嫌いではないだろう」


ナツメが色気を感じる顔を俺に見せている。確かにナツメとのスキンシップは、色々柔らかさを感じられるため好きだ。大好きだ。


「ですので問題ありません」


玉藻が冷めた目つきでこちらを見ている。


「2チームに分かれて探索することで、探索の難易度が上がります。

 それによってダンジョン攻略の実戦で成長するように努力してください」


これで俺たちの方針は決まった。


「当然ですが、ご主人様が死んでは意味がありません。

 命の危険を強く感じた場合は、私とナツメを即座に召喚するようにしてください」


玉藻が俺に頭を下げる。こうして打ち合わせは終わった。


「ではこれからは夜の特訓ですね」


頭を上げた玉藻は好色な笑みを浮かべている。玉藻の尻尾が俺に襲い掛かり、俺の自由を奪う。


前までは9本のうち4本の動きが良かった。今はそれが5本に増えている。


「ダンジョンを尻尾に吸収させて、尻尾の能力を向上させました。

 その威力を体で実感してください」


このあと時間をかけてたっぷりと責められた。


ナツメは洗脳対策のため、耐性取得のために玉藻に洗脳された。抗おうとしていたが、玉藻には通用しなかった。


真琴も玉藻の尻尾の前には無力だった。


俺はたっぷりと責められて、7大ダンジョンの攻略を強く胸に誓った。



******



俺と真琴は乳牛タイプのミノタウロスダンジョンの前にいた。


2人でチームを組み、塔のダンジョンに挑戦するのは良い。


しかしその前に練習くらいしたほうが、いいのではないかと思ったのだ。


玉藻も賛成してくれた。当然いざとなれば、玉藻とナツメを召喚するつもりだ。


「真琴はしばらくダンジョンに潜っていなかったからな。

 勘を取り戻す意味でも、練習でダンジョンに潜ろうと思う」


今回の目的はいくつかある。真琴に戦闘の勘を取り戻させること。『オークキング』の力を試すこと。真琴との連携。


「主様。わかりました。ご期待に応えたいと思います」


俺はいつも通りの全身鎧と剣を持っている。剣は一応魔剣だ。魔剣『光輝』、魔力により光を生み出す魔剣である。


真琴の方は全身鎧ではなく、軽装の鎧を身に着けている。軽装の鎧というより、体の一部を守る防具というほうがしっくりと来るだろう。


服は長袖長ズボンでかなり丈夫そうな素材で作られている。しかしそれでいて動きやすさと女性らしさが共存していた。


真琴自身は久しぶりのダンジョンで気合が入っており、油断さえしなければ問題なく行けると思う。


そう、油断さえしなければ。



******



真琴はいま水球の中に閉じ込められていた。


ここは乳牛タイプのミノタウロスダンジョン。乳牛タイプのミノタウロスは魔法を使う。


真琴はミノタウロスの放った水球により、体全体が覆われている。水球の大きさは直径で3メートルくらいあり、その中心にいる真琴は完全に水の中に閉じ込められていた。


乳牛タイプのミノタウロスはこれがあるから油断ができない。


真琴を無力化された俺は、ミノタウロスと1対1で向かい合っていた。



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