第29話 ダンジョン制覇とこの世界の疑惑



俺は目が覚める。


何故か俺はクマによって攻撃を受けていたが、もはや俺には通用しない。俺の『職業』の『オーク』が『オークキング』に変化していた。


オークとオークキングは肉体的に全く違う。人間とゴリラくらい肉体の性能が違う。人間の中には、ゴリラくらいの肉体能力を持つ人間もいるがそれはさておく。


「『一閃』」


普通の『一閃』の一撃でクマが倒れる。先程までとは威力が全く違っていた。


『オークキング』への進化により、俺自身の肉体の性能が強化されている。姿形や大きさには多分変化がないと思う。それでも能力は大きく向上した。


「『一閃』9連続並列起動」


これだけで9体のクマを倒している。今までとは状況が違う。俺は蹂躙戦を開始した。



******



俺が一度剣を振るうだけで、9体のクマが倒れていく。そんなことを繰り返していると、目の前のクマが消えていた。


「どうやら中型のイヌやオオカミがクマを強化していたようですね。そちらは私の方で処分しておきました」


いつの間にか玉藻がいつものように、俺の隣にいた。何か忘れているような気がする。大切なことだった気もするし、誰かに騙されたような気もする。


「気のせいですよ。ご主人様」


玉藻はにっこりと笑っていた。それを見るとどうでもいいかという気になり、俺は思い出すことをやめた。


「後はダンジョンボスだけのようですよ。

 そろそろ姿を現したらどうですか?」


俺たちの前には魔物の死体があるだけである。後は誰もいない。警戒して索敵するが、俺たちの周りには誰もいない。しかしダンジョンコアの部屋の扉は閉じたままだ。つまり敵は残っている。


……もしかして隠れているのか?


「正解です。ご主人様。

 かくれんぼは終わりにしましょう。『風の浸食』」


玉藻の声とともに辺りに風が流れる。風は弱いものだが、ボス部屋の中全てを満たしていく。


……そうか。玉藻は以前より大きな水で包むことで、水の魔法を侵食した。今度は風で包むことで、この空間全体を侵食しているのか。


「ですです。姿を隠す能力に対して浸食をかけています。

 浸食されれば、ほらこの通り」


俺たちの目の前には1人の獣人がいた。キツネの獣人だ。


玉藻は狐が1、人間が3の獣人だ。対する目の前にいる獣人はキツネが3、人間が1の獣人のように見える。


「ご主人様。割合はあっていると思います。

 しかしあれは獣人ではありません」


どういうことだ?俺は目の前の男を再度見る。二足歩行のキツネのような姿をしており、かなり獣に近い。


獣人でなければ、一体何になるんだ?


「魔人ですね。獣人は獣と人間の血をひくものです。

 魔物と人間の血をひく『あれ』は獣人ではなく、魔人になります」


なるほど。勉強になる。


「……貴様ら、よくも仲間を!!」


魔人が口を開く。それと同時に魔人が炎上する。


「もう退場していただいて大丈夫です。教材としての役目は終わりました。

 むしろ消えてください」


玉藻はゴミを見るような目で、燃える魔人を見ていた。


魔人が燃え尽きて、ダンジョンコアへの扉が開く。


「さて、やっとダンジョンコアを拝めるな」


俺たちはダンジョンコアの部屋へと入っていく。ダンジョンコアの部屋は無駄にデカかった。部屋の中心には3メートル程度の巨大な石が浮いている。


「結構デカいな。それと遠いな」


俺はダンジョンコアを見上げる。ダンジョンコアは俺の手の届かない中空に浮かんでいる。


「面倒ですし、ナツメを呼びましょう。

 ここなら魔動騎士を召喚しても大丈夫でしょう」


確かに玉藻の言う通りだ。……それにしても何故ナツメが外にいるのだろう。思い出せない。ボス部屋の前について、目が覚めるまでの記憶がない。何故だ?


「ご主人様。私を見てください」


俺は玉藻の両手に頭を挟まれて、玉藻と顔を突き合わせる。玉藻の眼は金色に輝き、先程までの疑問が溶けていく。


……ああ、どうでもいいことなんて考えなくていいや。


ナツメを呼び出そう。そしてダンジョンコアを破壊する。


「いえ、このダンジョンは私が吸収します」


玉藻はにっこりと笑っていた。



******



ダンジョンコアは玉藻によって食べられた。体の大きさ的にはおかしいが魔動騎士によって持ち上げられた玉藻が、ダンジョンコアを丸呑みした。


ダンジョンコアを丸呑みした玉藻によってこのダンジョンは掌握された。そのためダンジョンの外へは、一瞬で出ることができたのが地味に嬉しい。


帰りも距離を考えると、魔動騎士でもそれなりに時間がかかりそうだ。


「ご主人様。ご主人様は進化されて、『絶精魔転』の能力も向上しています。

 そこそこ時間はかかりますが、行きよりは短くなっていたと思いますよ」


玉藻はとてもご機嫌そうに笑っている。


「今回のダンジョンを吸収したことで、私の能力が向上しましたからね。

 ご機嫌にもなります」


玉藻は本当に嬉しそうだった。


「我が主」


ナツメが後ろから俺の背中に乗ってくる。戦いも終わって俺の鎧は解除されている。背中に当たるナツメのふくらみが気持ちよい。


「いただきます」


ナツメは俺の首筋に嚙り付き、魔力を吸い出す。ナツメもかなり疲れているのだろう。いつもより吸うスピードが向上している。


「ご主人様。私は従魔空間に戻ります。そこでしばらく休憩しますので、後のことはお願いします。

 ナツメの食事が終わり次第、真琴の屋敷に戻ってください」


玉藻は言うべきことを言うと、従魔空間への扉を自分で開けて中へと入っていく。


「あれ?従魔空間の扉って俺しか開けられないのではなかったか?」


俺はふとした疑問を口に出す。


《我が主》


食事中のため、念話の方でナツメが話しかけてくる。


《玉藻が行うことに疑問を持ってはいけない。それは無駄なことだ。

 考えるだけ無駄だ。『玉藻だから』》


ナツメからありがたい真理を教えていただく。


そうか……。『玉藻だから』。納得だ。


普段ならここで玉藻からの反論が来るところと思っていたが、疲れていて休んでいるためか玉藻からの反応は全くなかった。



******



俺たちは真琴の屋敷に戻り、真琴の父親にダンジョン制覇を報告した。探索者ギルドへは死霊術を利用し、支部長へ直接連絡している。


それから俺たち3人は少し真琴の屋敷でのんびりしていた。


「……そういえば、どうやって魔人は発生したんだ?」


俺は答えがわからなくてもいい質問を、二人に投げかける。


「我が主。あのダンジョンは近隣に害を与えていた。なら討伐のために我らより先に人が入っていてもおかしくはない」


なるほど。討伐もしくは偵察のためにダンジョンに潜り、そのまま帰らぬ人間が獣人の親になったということか。


「ですです。狐の魔物が人間と交わり、ハーフの魔人が生まれた。

 その後ハーフの魔人が狐の魔物と交わり、ビーストの魔人が生まれた。

 魔人ですからデーモンといったほうがいいでしょうか?」


ビースト?デーモン?


ハーフは分かる。純粋な人間と純粋な魔物または獣の子供のことだろう。


「ですです。ハーフは人間と獣の子供です。簡単な説明になりますが、ハーフと人間の間の子供がクオーターです。私はクオーターの狐獣人となっています。

 逆にハーフと獣の子供がビーストと呼ばれていました。

 デーモンは人間と魔物のハーフと魔物の間の子供という意味で使いました」


玉藻がゲーム世界での呼び方を説明している。


「?それはゲーム世界の呼び方だろう。

 こちらの世界ではどうなんだ?」


俺の質問に玉藻が考え込む。


「獣人はこちらの世界でも確認されているようですが、特に決まった呼び方は無いようですね。ひとくくりで獣人と呼ばれているようです。

 私たちはゲーム世界と同じ呼び方でいいのではないですか」


それはその通りだ。特にこだわりはない。


「ちなみにそれ以上の分類は存在しません。ビーストと人間の子供はハーフになりますし、クオーターと人間の子供は人間になります」


「ビーストとハーフやクオーターとハーフの子供は?」


俺は素朴な疑問を口にする。


「出来ません。まずハーフとクオーターとビーストは獣人です。獣人は獣の種類と血の濃さの割合が同じ場合しか子供が作れません。

 狐獣人のクオーターは狐獣人のクオーターとしか子供が作れません」


「人間は?」


「あらゆる種類の生物と子供を作ることが可能です。

 人間という種族の特殊能力ですね」


玉藻はにっこりと笑っている。


「……それはこの世界でも同じなのか」


俺の頭に恐ろしい仮定が生まれている。


「はい。そうです。獣人が生まれている以上同じと考えます。

 ついでに答えますと私にも確証はありませんが、この地球が絶対神(ゲームマスター)によって作られている可能性があります」


……やっぱりそうか。


「しかしそのことが何か問題になりますか?」


…………何?


「そもそもダンジョンがある時点で絶対神(ゲームマスター)の干渉がこの世界にもあることは確定しています」


確かに。俺はゆっくりと頷く。


「この世界が絶対神(ゲームマスター)によって作られていた場合、ご主人様にどのような影響がありますか?」


影響?……特にない?


「ええ、ありません。ご主人様が考えるべきは、この世界でどう生きるかです。

 この世界が誰に作られたとか、誰が管理しているかは考える必要がありません」


「でも、俺はゲームマスターが地球に送ると約束した……」


俺は呟くように反論する。


「それもご主人様が元々絶対神(ゲームマスター)が作り出した地球の出身と考えれば、問題ありません。その可能性が高いと思います。

 何故なら高次元生命体は下位世界への干渉が基本的に禁止されています。それは自分が作成した下位世界が別の世界に干渉することも禁止されています。しかし自分が作った下位世界が、自分が作った別の下位世界に干渉することは禁止されていません。

 これは罰則もある規則です」


つまりオークが俺たちを召喚したこと自体が、普通だと規則に反しているということか?


「ですです。規則に反したゲームを続けることを、高次元生命体の警察が許すとは考えられません」


「警察が介入していない。つまり俺はゲームマスターが作った地球の住人ということか?」


「ですです。そう考えるほうが自然であると思います」


玉藻の結論としては俺は元々ゲームマスターが作り出した地球の住人だから、召喚されても問題にならなかったということか。


「我が主。先程玉藻が言っていましたが、どうでもいいことです。

 そんなことより我が主はどうしたいですか?

 むしろそのことのほうが重要です」


しばらく沈黙していたナツメが俺に問いかける。


確かに俺の目的はこの世界からダンジョンを消し去ることではない。もはやこの世界からダンジョンを消し去れば、残念ながらこの世界は崩壊する。


この世界はダンジョンに依存している。無くなれば社会が成り立たなくなる。


俺の目的は7大ダンジョンの制覇である。それは玉藻の呪いを解き、玉藻を女性にするのが目的だ。忘れているかもしれないが玉藻は『男の娘』だ。


「呪いが解ければご主人様との間に子供を作ることができます。

 ナツメも女性にできます。

 進化するナツメなら子を成すことも可能でしょう。

 真琴もいます。ご主人様もの目的を忘れないでください」


色々考えることはあったが、俺たちの目的は変わらない。


俺たちは進むべき道を再確認した。


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