第14話 人形ナツメの作成と三原則
俺たちはゴブリンダンジョンで手に入れた野菜を、探索者ギルドで売った。それにより探索者カードの貢献点が追加され、ギルドでのランクが少し上昇した。これにより、今までより高度なダンジョンに入ることができるようになった。
探索者カードは偽造したものだが、その辺は怪しまれずにうまくいった。探索者自体が数多くいるため、疑っていたらキリがないのだろう。
「それで入れるようになったダンジョンが、鶏肉ダンジョンと牛肉ダンジョンと豚肉ダンジョンか」
「はい。鶏肉はコカトリスダンジョンです。牛肉はミノタウロス。豚肉は『オーク』です」
コカトリスはニワトリに蛇の尻尾をつけたモンスターで、ミノタウロスは牛の頭を持つ巨人。そしてオークは豚頭の人間だ。
「とりあえずオークは避ける」
「ですね」
俺の意見に玉藻は納得する。そうすると潜るのはコカトリスかミノタウロスになる。
「……ダンジョンには単一のモンスターしか出ないのか」
「ランクの低いダンジョンはそうですね。
そしてこれらのダンジョンも、昨日のゴブリンダンジョンと同様に制覇不可能です」
そういえば機能のゴブリンダンジョンの最下層には、ダンジョンコアがなかったな
「これらのダンジョンの最下層にダンジョンコアがないんです。
もしくはダンジョンコアに繋がる道がないんですよ」
ダンジョンコアにたどり着けないということか。
「ダンジョンが消滅したら、肉が食えなくなりますけどね」
そちらのほうが問題である。今の地球は畜産をする余裕がない。食料をほぼダンジョンに依存している。それはダンジョンから食料が手に入るからではない。ダンジョンによって地球の食料生産能力を奪われて、ダンジョン以外から食料が手に入らないからだ。
「こういった制覇できないダンジョンも数多く存在します」
制覇できないほうが逆に安心できるというのは、皮肉だろうか。
「今日はミノタウロスダンジョンに潜るか」
今日は牛肉の気分だ。
******
ミノタウロスはゴブリンよりも強いが、倒せない相手ではなかった。
「『一閃』9連続直列起動」
『一閃』による9連撃がミノタウロスの体に吸い込まれていく。一撃というわけにはいかないが、9連撃なら十分倒しきれる。それがミノタウロスの評価だ。
「……数が多いとまずいな」
「ですです。一体なら問題ありません。しかし数が増えると倒しきるのが難しくなりますね」
ミノタウロスを倒して手に入る牛肉を回収しながら、俺たちは会話を行う。ミノタウロスダンジョンではより下の階層のほうが、上質の肉を落とす。今いる一回層の肉は一番低品質の肉だ。それでも腹を満たす分には十分だ。
「玉藻はどの程度相手にできる?」
玉藻の実力によっては、あまり下の階層に行くのは危険と判断するしかない。
「精霊の力を手に入れてますので、一対一なら何とかなると思います。
ただ一度に複数相手するのは避けたいですね」
俺も二体以上同時は辛いものがある。
「2階層くらいが今の限界か?」
3階層からは同時に3体のミノタウロスが登場する。それを思うと2階層くらいが限界だろう。
「……一応最下層は10階層まであるんですが、2階層くらいにしたほうがよさそうですね」
玉藻も同じ考えに至り、俺たちは先へと足を進める。
「それにしても迷宮型か」
「ですです。ミノタウロスといえば迷宮(ラビリンス)ですから」
詳しくは知らないがどこかの神話でミノタウロスとラビリンスの話が合ったような気がする。それに影響してか、このダンジョンは迷宮と化し道が複雑になっていた。
「……道に迷いそうだな」
「そちらは私の方で対応しますが、罠の方にも注意してください」
玉藻は警戒しつつ進んでいた。
「罠?」
「ええ、罠です。昨日のゴブリンダンジョンには罠がありませんでしたが、今回のミノタウロスダンジョンには罠があります」
どうやら玉藻は罠を経過しているようだ。
「分かった。罠の方は俺の『盗賊』の対処する」
俺には『盗賊』の職業がある。それの職能を使えば罠を感知することも可能だ。
「それにしても俺たちはこんなところで苦戦する程度の実力だったのか?」
罠を警戒しつつ、本音が漏れ出る。
「そうですよ。精霊の力と不正ツールアイテムを抜けば、この程度です。
ご主人様は無限に近い魔力がありますが、それを有効に使うのが苦手です。
長い時間で得られた膨大な経験値も、全て職業の進化に使われます。
元のゲームにレベルはなく、職業と種族で実力が決まる世界です。
ご主人様は30ある職業について、使いこなせていませんよね?
ならオークとしての力がご主人様の実力になります」
玉藻はジト目で俺を見ている。その目に俺は少し気圧される。
確かに玉藻の言うとおりだ。俺は自分の職業について使いこなせているとは言えない。修行らしきものもしていない。全て力押しで解決してきたし、玉藻の協力で何とかなってきた。
「……これからどうしたらいい?」
自然と言葉が口から漏れ出る。
「ご主人様の利点は魔力が多いことです。それを生かすために魔法の訓練は必須です。それと同時に戦士の獲得が必要になります」
現在は俺が前衛で、玉藻が後衛になっている。しかし俺が魔法に力を注ぐなら、俺は後衛になる。控えめに言っても中衛。前衛がいなくなるため、新しい前衛が必要となる。
「どうする?探索者ギルドで募集するか?」
探索者ギルドでは一緒にダンジョン探索する仲間の募集についても、補助を行っていた。それを利用し、仲間を募集するというのも手の一つだ。
「知らない人を仲間にできますか?」
玉藻は淡々と急所を突いてくる。
無理だ。知らない人を仲間に加えるなんて無理だ。信用することなんてできない。
「私たちには秘密が多過ぎます。仲間にするには違法ですが、奴隷にするくらいしないと無理でしょう」
「当てはあるのか?」
「ありません。それにリスクが高過ぎます。
前衛についてはご主人様の能力で人形を生み出すか、適当なモンスターを捕まえて従魔にすることで対応すべきと考えます」
なるほど。俺には『人形師』や『獣魔術師』の職業がある。それらをうまく使えば前衛についてはどうにかなるな。
「丁度いいところにミノタウロスが来ましたよ。
こいつで試してみましょう」
ミノタウロスが現れた。俺は適度にミノタウロスを弱らせると、従魔にしようと試みる。
「うまくいかないな……」
結局ミノタウロスは従魔にはならず、牛肉になってもらった。
「モンスターだとうまくいかないみたいですね」
「そうだな。ゲーム世界でもそうだった。そうなると従魔にできるのは魔物であるゴブリンくらいか」
それ以外の魔物はゲーム世界で滅びていた。
「ゴブリンでは役に立ちません。強い人形を作ってそれを前衛とすべきでしょうね」
玉藻の言葉で俺たちの方針は決まる。
「とりあえず一度外に出るか」
俺たちは一度ダンジョンの外へ出ることにした。
******
人形を作ることにした。前衛となる人形だ。作る人形は当然外見もこだわることとした。完全に趣味に走っている。ここで問題となるのが玉藻の呪いだ。
『俺の周りの女性を男性にする』というふざけた呪いだ。
ここでいう『女性』とは何を意味するのか?それはずばり女性器だ。つまりこの呪いは『俺の周りの女性器を男性器に作り替える』呪いだ。ちなみに周りというのは俺との現実の距離感ではなく、心理的な距離を意味しているようだ。そのためすれ違うだけで女性を男性にしたりはしない。
さて話を戻そう。呪いの本質がわかれば対策は簡単だ。性器をつけなければいい。そうすれば幾ら女性的な人形を作っても、呪いの影響で男性になることはない。
そういうわけで俺は人形作りを開始した。
最初に材料については『鍛冶師』や『錬金術師』を使い、魔力で次々と生み出した。それらの材料を使い人形の作成も『職業』の力で問題なく進めることができた。
『ナツメ』。これが俺が人形に与えた名前。
ナツメは前衛のため、体は頑丈にした。玉藻よりも少し年齢は下に見える。髪の色は玉藻と対になるように金色でツインテールとし、瞳の色は碧眼とした。胸は当然大きく、玉藻と同じくらいだ。前衛だが見た目重視のため、瘦せ型でスタイルは良い。服装は玉藻と同じく露出の少ない丈夫な服を着ている。女性のファッションについては詳しくないので、どういう服を着ているかは俺には説明が難しい。ダンジョンに入るときは、俺と同じように魔力で鎧を作りそれを上から纏う。ナツメは俺の『職業』のうち、10個程度を複製して持たせている。そのため下手をすれば俺よりも戦闘では強いかもしれない。ただし自身の体の中で魔力を作ることは困難で、外部からの魔力供給が必要となる。そのための能力『吸魔』は、いわゆる吸血行為である。物語などである吸血鬼のように首に牙を突き立てて相手から魔力を吸う。これが新たな仲間の『ナツメ』の基本性能だ。
「人格については冷静冷徹だが、俺に対してのみデレるという感じでいいか?」
後は最終的な人格を作り上げれば、『ナツメ』は完成する。
「特に問題ありませんが、3原則については忘れずにつけておいてくださいよ?」
ロボット三原則か。確か『人間を傷つけてはいけない』『人間を傷つけない範囲で自分を守らないといけない』『人間を傷つけず自分を守ることに反しないなら人間の命令を聞かないといけない』だったか。うろ覚えだけど。
「違います。そんな三原則は不要です。
必要なのは『自己修復』『自己増殖』『自己進化』です」
それってどこかのアニメでそれを持ったロボットが暴走してラスボスになってなかったか?
「それも違います。あのアニメのラスボスは『〇〇〇〇』です。
彼が倒された時点が最終回です」
発言がメタいな。大丈夫か、これ。
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