第13話 新米(違法)探索者としての目的
俺たちはすぐに探索者としての登録と、その証である探索者カードのを手に入れることにした。
「こちらが偽造した探索者カードになります」
身分証明書を偽造していたため、登録の際に色々調べられるとまずいことになる。そのため探索者としての登録も、玉藻が偽造で行うこととなった。また俺の『職業』も見られたら問題になりそうだ。
『佐藤敏夫』『剣士』というのが俺の探索者カードの情報になる。玉藻の方は『佐藤玉藻』『巫女』となっている。玉藻の職業も偽物だ。実際は『巫女』ではない。
「まずは近くのダンジョンに潜ってみましょう。探索者カードについては偽の情報を探索者ギルドに登録済みですので、問題なく使えるはずです」
玉藻は自分の仕事に自信を持っていた。とにかく一度ダンジョンに潜ってみよう。
******
俺たちは、俺たちが潜れる一番近くのダンジョンの中にいた。他にもダンジョンがありそちらのほうが近かったのだが、そちらは探索者としてのランクが低いため潜ることができない。最高ランクのダンジョンはこちらでも7大ダンジョンになる。もっとも内容は一部変更されているようだが。
「ここがダンジョンの中か。あまり変わらないな」
ダンジョンの中は俺の知っているものとあまり変更はない。俺は普通の服の上から、魔力で作った鎧を纏っている。玉藻は露出の少ない丈夫な服を着ていた。あまり目立たないように巫女服は着ていない。それでも玉藻は美人のため、目立ってしまうのだが仕方ないだろう。
「ランクの低いダンジョンは大体が洞窟タイプで、このダンジョンに出てくる『モンスター』はゴブリンです。
恐らく7大ダンジョンの一つのゴブリン砂漠とつながりのあるダンジョンでしょう。
ゴブリン系のダンジョンは野菜が収穫できるそうですよ」
何故野菜?ゴブリンが光合成で魔力を生成するからか?
詳しく聞くとダンジョンの場所やダンジョンの階層によって、ゴブリンを倒すことで現れる野菜に違いがあるらしい。このダンジョンの1階層ではキャベツが取れるらしい。
「ゴブリン出てこないな」
「出ませんね」
俺たちは歩きながら、会話を行っていた。
「不正ツールでどうにかできないのか?」
「不正ツールアイテム等はあの世界で7大ダンジョンを攻略するためのものです。絶対神(ゲームマスター)にあって取り込んだ7大ダンジョンのうちの6つを奪われた際に、もう不要と判断されて不正ツールアイテムなどの能力は完全に封印されています。
封印を解くことも不可能でしょう。」
玉藻の首は横に振られる。
「当面の目標は7大ダンジョンか?」
「ですです。まずはダンジョンで実績を積み上げ、探索者のランクを上げる。
探索者のランクを上げて、ダンジョンランクが高いダンジョンに入る。
最終的には7大ダンジョンに入り、7大ダンジョンを制覇するのが当面の目的です」
「探索者ランクは偽造で上げることはできないのか?」
「できますよ?」
玉藻は軽い感じで、答える。
「しかし問題があります。探索者ギルドが違法にランクを上げることに対して、対策を行っていること。探索者の常識がないまま高ランクになると、偽造がばれる恐れがあること。その他いろいろ理由があります。
しかし一番は面白くないことです」
玉藻もかなり毒されているな
「失礼な。毒されてなんていませんよ。ぷんぷん」
玉藻はこちらを向いて、両手を使い怒っていることを強調している。怒っている顔も美しいな。少し美しいだけでなく、可愛くも見えてきた。
「目標は分かったが、それの目的は何なんだ?」
俺は怒っている玉藻に見惚れていたが、話題を変えることにする。
「目的ですか?私が女性になるためっていうのはどうでしょうか?」
ん?どういうことだ?
「私はご主人様が『職業オーク』であるため、男の娘になっております」
その話は聞いた。
「それが7大ダンジョンのうちの6つを抜かれた際に、固定されていたようです」
えっ!?俺は驚きのあまり声が出ない。そんな話は聞いていなかった。
「さらに私には、ご主人様の周りの女性を強制的に男性にする呪いがかかっています」
そんな無茶な呪いがあるかっ!!声が出なかったが、叫びたい気持ちでいっぱいだ。
「これを解くには、7大ダンジョンのすべてを制覇する必要があるようです」
玉藻はにっこりと笑っている。……そういえば何度か女性にならないか聞いたときに言葉を濁していたのは、これが原因か!
「これが原因です」
最悪だ。最低の呪いだ。
「ご主人様?まさか苦楽を共にした私を捨てるなんて、いいませんよね?」
覗き込んでくる玉藻の目は、本来の金色を失い黒く渦巻いていた。
「……何でこんなことになったんだ?」
俺はようやくこと簿を絞り出すことができた。
「絶対神(ゲームマスター)の嫌がらせでしょうね」
そのつぶやきに玉藻は軽く答えてくれた。
「……さて、ようやくお出ましのようですよ」
目の前には1体のゴブリンがいる。背は低く、小学生の低学年くらい。髪のない頭は大きく、肌は緑色。服は着ておらず、申し訳程度の腰蓑をつけているだけだ。
「『一閃』」
俺は西洋風の直剣でゴブリンを切り裂く。ゴブリンは弱く、一撃で倒すことができた。
いつも通り経験値が手に入るのがわかる。ゴブリンのほうを見ると、ゴブリンの肉体は消えていた。ゴブリンが消えて、キャベツがあった。
「モンスターを倒しても、お金は手に入らないようですね。事前情報の通りです」
玉藻はキャベツを拾いながら、事前情報との突き合わせをしている。
「効率は悪いですが、ゴブリン探索を行いましょう」
この後俺たちは何体ものゴブリンを倒した。そこから分かったことは、キャベツ以外の野菜も取れるということであった。
……大根。立派な大根を手に入れることができた。
「1つの階層がかなり大きな」
俺たちはいま、2階層目にいる。特に階層ごとの門番的なモンスターは出ていない。
「それがゴブリン系ダンジョンの特徴です。
広くてモンスターに出会うのに時間がかかる。このような特徴を持つためゴブリン系のダンジョンは基本的に不人気です」
玉藻の言葉を裏付けるかのように、それなりの時間歩いているが他の探索者の姿はない。
「2階層になると、一度に出てくる数が2体になるそうです」
玉藻と雑談を交えながら、ゴブリンを探す。
「なら100階層なら一度に100体出るのか?」
「このダンジョンは5階層までですので、そこまで出ません。しかし50層以上あるところだと、一度に50体のゴブリンが出現したことを確認されております」
50体のゴブリンか。ゴブリン自体はそこまで強くない。ゴブリンの攻撃なら俺の防壁で十分に防ぐことができる。俺の攻撃でゴブリンなら一撃で倒すことができる。
それでも数は脅威だ。
「それだけ多いと、精霊(男)の協力が必要になりそうだな」
俺の何気ない一言に玉藻は驚きを見せる。
「……どうした?」
玉藻は少し迷いを見せたものの、ゆっくりと口を開く
「……精霊(男)の協力は得られません」
「?」
「……精霊(男)は『ゲーム世界』の精霊です」
確かにそうだ。精霊と契約したのはゲーム世界だから当然だろう。
「ゲーム世界は消滅し、その自然を司る精霊も弱体化しました」
玉藻はまるでイタズラがバレて告白する少年のように、視線を逸らしながら話を続ける。
「弱体化して役に立たなくなりましたから、私が食べちゃいました」
えっ?
「ですから私を強化するために、精霊たちは食べました」
玉藻はこちらを見て、照れくさそうに笑った。
「食べたの?」
「はい」
「何時?」
「地上に出てすぐくらいです」
玉藻によるとマントルから脱出する際に無理やり力を絞り出させた上に、ゲーム世界が消滅したことにより精霊は姿が保てなくなるくらい弱体化したらしい。そのためこのままにしておいても消滅するだけと判断し、少しでも役立てるため食べたらしい。
「そういうわけですので、精霊との契約がなくなりご主人様の魔力には余裕があります。しかしその一方で精霊契約が失われておりますので、ご主人様は以前に比べて弱くなっておりますのでご注意ください」
精霊は魔力的な負担が大きかった。その一方で精霊の力は莫大でもあった。
天空グリフォンや海底リヴァイアサンは精霊の協力がなければ制覇できなかった。氷原フェンリルや墓場ヴァンパイアでも同様だ。
「……今の状態で7大ダンジョンに挑戦したらどうなる?」
「不正ツールアイテムと精霊契約なしで挑むとしたら、失敗する可能性が高いですね」
玉藻は真面目な顔をして答えている。
「今はまだ時期尚早です。これからじっくり時間をかけて、ランクを上げて強くなればいいと思います」
玉藻は明るい笑みを浮かべている。それを見て俺は、何とかなるのではないかと思えるようになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます