第12話 地球への帰還と地球の変化



俺は玉藻とともに地球へと帰還する。玉藻は従魔空間の中で避難している。精霊たち(男)は俺の中で、俺に力を貸してくれている。


「予想通りだな」


玉藻の予想通り、俺はマントルの中にいた。俺は完全防御態勢を整えていた。それでも予想以上にマントルの圧力がきつい。


《ご主人様、耐えてください。私が付いています。耐えてください。

 耐えつつ、地上に向かってください》


かなり無茶を言う従魔である。圧力に耐えつつ前に進む。どちらが上かとかはわからない。でもそれでも進むしかなかった。


《ある程度の耐久は想定内です。こちらは私に任せて、ご主人様は地上に向かってください》


従魔空間は俺が持つ職業の1つ『農家』を使い、農地を備えるようになっていた。さらにほかの職業なども使い、何年でも生活できるように改良を加えている。玉藻は従魔空間の中で農業を行い、収穫したものの一部を俺へと差し出す役割を担っていた。特に俺は食べなくても、『絶精魔転』で生きていける。しかし食べ物を食べることで、俺の精神を安定させようとしている。


「確かに何も飲まず食わずは、精神的にきついからな」


《ですです。どこに飛ばされたかもわかりませんし、地上に出るまでそれなりの時間がかかると予想されます。

 今回ばかりは負けは許されません。気を引きしていきましょう》


玉藻と一緒でよかった。一人ならまた心が折れていたかもしれない。俺は何となく、地上と思える方向へと進んでいく。時間はかかるが俺は地上へと進んでいった。



******



時間がかかったが、俺は何とか地上へ出ることができた。その際に火山が噴火していたが、俺のせいではない。


「……久しぶりに戻った気がするけど、色々な変化があったみたいだな」


日本の地方都市のホテルに、俺と玉藻は現在寝泊まりしている。幸いゲーム世界のお金が日本円に変換されていたため、お金には困っていない。


「そうですね。……ご主人様らしき事故のニュースありましたよ」


謎の手段で手に入れたパソコンの前の玉藻が、そういって画面を示す。俺はゲーム世界前のことがよく思い出せないでいた。長い時間ゲーム世界で過ごしていた弊害だろうと、玉藻は言っている。何か隠している気もするが、追及しても誰も幸せにならないようなことだと思う。だから俺は自分の名前を含む記憶がないことについて、考えることを辞めた。


「修学旅行中のバス事故。事故現場から教師と生徒の痕跡が一切消えているとあります。状況から考えて、これで間違いないと思います」


ネットのニュースでは教師と生徒計31名が行方不明とあった。乗っていたバス自体は谷底へ落下したが、遺体などは見つかっていないという。バスの運転手やバスガイドは見つかっているのに、不思議な話だ。


「……恐らくこれだろうな」


様々な面から考えて、これで確定だろう。


「もう少し詳しく調べますか?」


俺は首を横に振る。変な話だが、自分のことのように感じられない。自分のことが書かれたニュースと確信しているのに、まるで別人のことのように感じられた。


俺はゲーム世界で死んで、生まれ変わったのだろう。薄情な気もするが、『前世』と関わる気はなかった。


「それよりもう一つの方は?」


「……約300年前に起こっています」


俺が玉藻に調べさせたもう一つのこと。それは俺とは別の場所に転移したゲーム世界の『人間』たちのこと。


「300年前?どういうことだ?俺たちと同じ時代じゃないということか?」


「この世界でダンジョンが現れたのが大体300年前とあります。ダンジョンと『人間』たちが別に送り込まれたとは考えにくいので、それは同時だと思います」


7大ダンジョンは、あの時の勝者である大統領に与えられている。その辺のことを考えると、ダンジョンとともに送られたと考えていいだろう。


「……そういえばゲームマスターが『1500年前』に送るといっていたな」


「1500年ですか?ご主人様は300年くらい減刑されて1200年で解放されてますよ」


玉藻との会話から推測すると、大統領たちは元の量刑である1500年前に送り込まれた。俺たちは実際の量刑である1200年前に戻された。その差が300年。計算があう。


「……もしかしたら『別の場所』というのが、位置だけでなく時間も違うという意味で使っていたのかもしれませんね」


玉藻の話を含めてすべてが推測だ。確かめる方法はない。確かめる必要もない。事実としてダンジョンが300年前に現れた。それが重要だ。


「……じゃあ、色々歴史が変わっているんじゃないか?」


「そうですね。ご主人様が知っているものと色々変化があると思います」


記憶がなく、ほとんど忘れている記憶だ。それにしてもゲームマスターの行動はずいぶんと軽率だな。


「無茶苦茶だな。そういうのを規制するものってなかったのか?」


「ありますよ。しかしこのゲームにはありません。それには理由があります」


「理由?」


「元々あの世界は個人作成のオンラインゲームでした」


「個人作成?」


「ですです。個人作成です。高次元生命体がゲームを作る際は、地球を含む他の世界に影響が出ないように対策が行われています。しかし今回はその対策が全くされてませんでした。法規制されているはずですが、多分気にしてないのだと思います」


玉藻は管理者権限情報から、真実を答える。個人作成の『違法』オンラインゲームで俺の人生と地球は狂わされたということか。


「……何とかならないのか?」


俺のことはさておいて、地球を元に戻すことはできないのだろうか?


「なりません。地球人も生態系を乱すことはあるでしょう?

 それと同じです。誤りは誰にでもあるものです」


その誤りで人生を狂わされるほうの気持ちを考えてほしい。


「なら他の高次元生命体が直してくれたりは……」


「難しいでしょう。乱したり、壊すことは簡単です。しかし元に戻すことは難しいんですよ。それにそれを行う場合、私たちも無関係ではないでしょう」


確かに責任はゲームマスターにあるが、俺たちも今回のことに関係している。全くの無関係とはいえない。地球を戻すために俺が犠牲になる可能性すらある。

……ならこのままでいいだろう。


玉藻も気持ちを切り替えて、2枚カードを胸の間から取り出した。


「さて、それよりこれからどう生きるかです。身分証明書は私が偽造しました」


玉藻より渡された身分証明書には『佐藤敏夫』とある。玉藻の方は『佐藤玉藻』で『女性』である。実際は男の娘だが、耳や尻尾ともに竿もうまく隠している。玉がないのは元々だ。


「ご主人様はゲーム世界に来る前の人生をやり直すことができますが、どうしますか?」


確かに俺はバス事故から生存したとして、人生をやり直すことができるだろう。それが俺の本当の人生なのかもしれない。しかし俺は何故だが、その気が起きなかった。俺自身が俺が死んだことを納得していた。俺が別人であると、俺自身が知っている。

前の人生はゲーム世界のダンジョンで1200年過ごすうちに、終わったのだ。



だから俺はゲーム世界に行く前の人生、『前世』とは関わらずに生きていくことにする。



「……玉藻。俺は『前世』とは関わらずに生きていこうと思う」


「ご主人様はゲーム世界で『前世』とは別人に生まれ変わったのですから、ある意味当然の選択です。ではご主人様はこれから『佐藤敏夫』として生きてください。

 念のため事故については私の方で調べておきます。何かわかるかもしれません」


玉藻は俺の意思を汲み、新しい人生を送ることを認めてくれた。それが少しだけ嬉しかった。

新しい身分証明書をしまうと、これからのことに思いを馳せる。


「とりあえず、現状について詳しく確認してから決めましょう」


玉藻の一声で、情報収集から行うこととなった。



******



徳川8代将軍吉宗の時代にダンジョンは現れた。俺は歴史に詳しくないが、そこからの歴史が改変されたようだった。


ダンジョンができたことで、様々なデメリットとメリットが生まれた。ダンジョンを維持することにエネルギーが必要となる。それを地球の資源から奪われたため、資源が枯渇し飢饉が起こった。自然災害のエネルギーも奪われたため、自然災害が起こらなくなった。地震や台風、火山噴火のエネルギーはダンジョンによって食われていた。


人々は食料や資源を求め、ダンジョンに入っていった。たくさんの犠牲の上で、一部の帰還者が様々なものをもたらした。食料や資源、それから魔法。ダンジョンからもたされるもので、人々は生きていくことができるようになった。ダンジョンに依存して人々は生きるようになっていた。


「……少し作為的なものも感じますが、現在はダンジョンに依存した社会が形成されています。いわゆる現代ファンタジーの舞台設定ですね」


玉藻のその言葉は少しメタ的な発言になるが、現在の社会情勢を説明するとその一言に尽きる。


「お約束の探索者ギルドがあり、ダンジョン探索で手に入る様々なものを買取されております」


玉藻が調べた結果について報告している。


「明らかにおかしい技術革新等がありますが、それらはすべてダンジョンの影響によるものと判断されます」


ダンジョンからは色々なものが人々に与えられた。明らかに異常な技術。そういったものもダンジョンから与えられたことで、この世界は形作られていた。


「完全にダンジョンに依存していますね」


「そうだな」


ダンジョンに依存した世界でダンジョンにかかわらずに生きていくことは困難だろう。


「……ダンジョンに潜るしかないか」


「色々確かめたいこととかもありますしね」


当面俺たちはダンジョンに潜ることとした。



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