第5話 ダンジョン制覇と玉藻の目的



ゴブリンキングは強力な魔物である。しかし俺にとっては油断さえしなければ、決して負けることはない相手である。それだけ種族の差というのは大きい。

これならまだ通常のオーガのほうが強いと思う。


「『一閃』9連続直列起動」


『一閃』の直列起動は連続技である。並列起動が9方向への同時攻撃としたら、直列起動は1方向への9連続攻撃である。9個の斬撃がゴブリンキングへと吸い込まれていく。ゴブリンキングは残念ながら、そこまで頭が賢くない。攻撃するための動きが直線的で、俺の斬撃の的になっている。


「これで終わりだ。

 『一閃』9連続重複起動」


この重複起動が俺の切り札。重複起動は9個の斬撃を1つにまとめて放つ大技。それによって生み出された大きな斬撃が、ゴブリンキングを両断する。

再生能力が高い魔物ならここからでも復活してくるが、ゴブリンキングの場合はその心配がない。

ゴブリンキング倒されたことで奥の扉が開く。


「あれがダンジョンコアか」


ダンジョンコアの部屋に入るとそこには大きな光る石が宙に浮いている。そういえば俺がダンジョンの中で過ごしていた時も、似たような石を破壊した気がする。あの時の石はかなり堅かった。


「『一閃』9連続重複起動」


俺の全力の一撃がダンジョンコアを砕く。それと同時にかなり多くの経験値とお金が、俺の中へ吸い込まれていくのを感じる。


「ダンジョン制覇おめでとうございます」


いつの間にか玉藻が目の前に立っている。戦いが終わり安全が確保されたことで、出てきたのだろうか。


「さてここからが私の仕事になります」


何を言っているのかわからないが、玉藻の目線の先を見るとそこにはダンジョンコアが宙に浮いていた。俺は疑問を口にする。


「どういうことだ?」


「ダンジョンコアのことですか?ダンジョンコアは一度破壊してもすぐに再生します。

 再生には魔力を消費しますし、弱体化はするのですがこのままだとダンジョンは健在です」


玉藻は答えながらも目線はダンジョンコアに注がれている。


「誤解が無いように申し上げますが、ご主人様が制覇した事実は変わりません。

 ダンジョンが健在でもご主人様には何の影響はありません」


意味が分からない。いったい何をしようとしているんだ?


「ただダンジョンが健在だと絶対神(ゲームマスター)は困るんですよ」


そういう玉藻は妖艶に笑っている。


俺は玉藻に対して剣を構える。先程までの戦いで傷んだ剣に魔力を流して修復を行いながら、注意深く玉藻を見る。


「これはご主人様には関係のないことですが、ダンジョンコアには意思が宿ります。

 ダンジョンコア以外にもこのゲーム世界の住人などにも、ご主人様と同様に意思が宿っております」


玉藻がちらりとこちらを見る。それだけで俺の体の自由は奪われ、動けなくなる。


「ダンジョンコアたちはこのゲーム世界の消滅に対して抵抗の意思を示しています。

 当然ですね。自分を消されるなんて承服しかねますから。

 ここで問題となるのが、7大ダンジョンです。これらのダンジョンも消し去ることは絶対神(ゲームマスター)でも少し大変な作業になります」


玉藻はゆっくりとダンジョンコアに近づいていく。


「ですから絶対神(ゲームマスター)はご主人様を利用することを思いつきました。

 ご主人様にダンジョンコアを破壊させて、一度弱らせてから私にダンジョンを食わせることにしたんです」


玉藻は大きく口を開けて、ダンジョンコアへかぶりつく。大きさ的に玉藻の口には入らないダンジョンコアが、どういうわけか玉藻の口の中へと吸い込まれる。


「これでこのダンジョンのすべてが私に宿りました。私たちはいま、私の体の中にいるということになります。外に出るもの私の意志一つです」


玉藻は一仕事終えてご機嫌な様子で、俺に向き合う。気が付けば俺はダンジョンの外にいる。最初に通り抜けたダンジョンの中へと入るための扉は、どこにも見当たらない。ゴブリン砂漠へ至る扉だけが消え去っていた。


「剣をしまってください、ご主人様。

 詳しい話は次のダンジョンへ移動しながら話しましょう」


にっこりと笑みを浮かべる玉藻を見ると、まるで洗脳されているかのように警戒心が薄まっていくのを感じた。


「……洗脳なんてしてないんですけどねぇ。笑み一つでこれとはチョロ過ぎるんじゃないんですか、ご主人様」


玉藻があきれたように苦笑する姿はとても美しかった。



******



「……つまり私の役割は、ご主人様の補助及び絶対神(ゲームマスター)の雑用ということになります。念のために申し上げますが、ご主人様の補助のほうが優先度は上です」


移動する乗り物の中で玉藻は事情を説明する。


「それじゃあ、7大ダンジョンの回収がその『雑用』になるわけか?」


「ですです」


玉藻は首を縦に振る。


「他に知っていることは何かあるか?」


「んー。そうですね……。

 まずこの世界が消滅することが決まりました」


玉藻は人差し指を口につけながら、少し考えて口に出す。


「それでこの世界を消滅させようとしたときに、7大ダンジョンが邪魔になることとさらに邪魔な存在となるご主人様に気付きました。

 ちょうどご主人様の刑期が終わるのがダンジョン内の活躍により『300年』ほど短くなり、この世界の消滅の10日前と判明しました。

 そこで邪魔者同士をぶつけることを計画し、『私』を作成して派遣することにしました。

 実際にご主人様が地上に戻られて計画を実行したのが昨日になります」


「俺の刑期が短くなっていなかったらどうしていたんだ?」


「その場合は手間ですが絶対神(ゲームマスター)が7大ダンジョンを力づくで破壊します。

 ご主人様については消滅前に刑期が終わっていれば、残り時間で7大ダンジョンを制覇させると思います。刑期が終わってなければ、残り分は死刑として殺害後に地球に『還す』と思います」


玉藻のその言葉を聞いて俺は血の気が引いた。俺の命はかなり危なかったようである。


「絶対神(ゲームマスター)にとって、ご主人様の成功も失敗もどちらでも問題ありません。

 どちらにしても解決できる問題です。成功ならば手間が減る。その分の報酬をご主人様に渡す。失敗すれば残りのダンジョンを力づくで消し去り、ご主人様を地球へ『還す』。それだけのことです」


「……どうしてそれを俺に説明する?」


「言っている意味がよくわかりませんね。それを望んだんのはご主人様じゃあないですか?

 ……ああ、どうしてそれを隠さないかという意味ですか。それなら簡単です。

 隠す必要がないからです。絶対神(ゲームマスター)にとってご主人様は少し扱いが面倒なゲームキャラという位置づけです」


「……俺はゲームキャラじゃない」


「絶対神(ゲームマスター)にとっては同じです。だから何も隠す必要がないと考えています。

 別にどうでもいいんです。ケームマスターにとっては、どっちでも」


玉藻はため息をつく。ただそれよりも俺はショックで言葉に詰まっていた。


「…………玉藻にとってはどうなんだ?」


なんとなくだがそんな言葉が口についた。


「私?私は成功を目指しています。それだけが私が生き残る方法ですから」


ん?どういうことだ?


「もしかして勘違いしてませんか?私もご主人様と一緒に地球に『帰る』つもりですよ」


「え?」


「この世界と一緒に心中するなんて真っ平ごめんです。

 私は生き残るためにご主人様には成功していただき、一緒にこの世界から脱出します」


玉藻に両手で顔を挟まれて、俺の顔は持ち上げられ玉藻の顔の真正面に位置する。玉藻はまっすぐに俺を見ていた。その目は真剣で、信じられるものと思えた。


「だから私は最初からご主人様を魅了して、無理やりご主人様の奴隷兼従魔になったんですよ」


玉藻は明るく微笑む。その美しい笑みを見て、俺はやる気が出てくるのを感じる。


「さて、お昼を食べたら次のダンジョン攻略です。

 覚悟はよろしいですね、ご主人様!」


その明るい笑顔に俺は希望を感じた。



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