第6話 森オーガ制覇と残りのダンジョン情報



「ここが次の7大ダンジョンか」


ダンジョンの入り口を抜けると、そこは一面の森であった。


「そうです。ここが7大ダンジョンの一つ、森オーガです。

 ちなみに森が先に来るのはオーガ森より語感がいいからです」


俺はオーガと聞き、表情が硬くなるのを感じる。オーガは『仲間』の仇だ。ここにいるオーガが直接の仇かどうかは別として。少し冷静になろう。


「それでここが7大ダンジョンと呼ばれる理由は?」


「森という視界が悪い場所に、強力なオーガが住み着いているからです。

 モンスターならある程度実力をダンジョンコアを通じてゲームマスターが調整できるのですが、魔物については調整の対象外です。そのため7大ダンジョンは難易度の調整がうまくいっていません」


これがサービス終了の理由の一つなんだろうな。俺は心の中でつぶやく。


「それについては完全に同意です。また森自体が迷宮のようになっていて探索者を迷わせます」


オーガについては俺も因縁がある。ここに住むオーガは皆殺しにしたい。少し好戦的になっているな。


「それで今回の作戦は?」


「これを使います」


そういって玉藻は胸元から火炎放射器を取り出す。どうやって胸元に入っていたんだろうか?気にしたら負けか?


「不正ツールアイテムの火炎放射器です。通常ダンジョン内の森とかは燃えることがありませんが、これならそれを無視して燃やすことができます。

 さらにこの火炎放射器は魔力を込めれば、その火が攻撃として判定されます。これで汚物を消毒してください」


ゲームにおいてダンジョンなどの一部を破壊するアイテムは敵への攻撃に使用できないケースがあるが、この火炎放射器はどちらにも使用できるということか。


「ですです。ついでに燃える際に魔力を消費しますので、オーガ相手なら魔力枯渇による衰弱を狙うことができます」


オーガ。ファンタジー作品で有名な大鬼。この世界のオーガの強靭な肉体は、並の鎧を超える防御力を持つ。さらに魔法に対しても強い抵抗力を持つ。攻撃は基本肉弾戦。魔法は使わないが、状況に応じて武器を使用する場合もある。武器の使用は遠くの敵に対して、投石などの単純な攻撃が多い。一言でいえば脳筋である。オーガについてのみ、事前に情報を聞いていた。


「……なるほど、魔力枯渇か。オーガ相手なら俺の『一閃』もほとんど通用しないだろうし、まともに相手する必要もないか」


『一閃』に込められる魔力にも上限はある。オーガが相手なら2個以上の重複させて攻撃しないと、攻撃が効かない可能性が高い。相手のほうが数は圧倒的に多い状況であるため、一度にできる攻撃の手数が減ることは致命傷につながる。

緑色の小鬼のゴブリンは光合成で魔力を自ら生み出すことができる。俺も『絶精魔転』で魔力を生み出すことができる。通常のオークは魔力を脂肪として蓄えている。それに対してオーガは、魔力を生み出すことも蓄えることもない。奴らは何も考えずに、周りにある魔力を食らって生きている。奴らは自らの肉体を維持するために、大量の魔力を常に消費する。その性質から考えると、魔力の枯渇はかなり有効な作戦に思える。


俺は負けるわけにはいかない。確実な勝利を狙おう。


「玉藻は前と同じように従魔空間で待機。俺は火炎放射器で辺りを火の海にしながら、『忍者』の職能で隠れていようと思う」


「了解しました、ご主人様」


玉藻は一礼すると、従魔空間の中へと入る。


俺は火炎放射器を構えると、森へと火を放ち移動を始める。奴らは根絶やしにしてやる。



******



大炎上。


まさに燃え盛っている。


森は燃え、さらにはダンジョン内の魔力も燃えている。


オーガも燃えてはいるが、奴らにとってこの程度の炎自体は脅威にはならない。全く意味がないわけではないが、それだけで倒れるほどオーガは弱くない。


しかし炎により徐々に魔力濃度が薄くなると、奴らは苦しみ始める。自らの体を維持するための、生きていくための魔力が枯渇し始めたのだ。それからの奴らの行動は滑稽であった。自らが生き残るために共食いを始めたのだ。自らの同胞を食らうことで、自らの命を存えようとしている。俺が何もしなくても、勝手に奴らは数を減らしていった。


数が増えて魔力が薄くなった『あの森』でオーガどもは、俺の『仲間』を食い殺していったらしい。俺は最初の町へ向かっているときに、その事実を知った。だから俺はオーガを許さない。


少し時間はかかったが、目的通りオーガは衰弱により弱体化していった。俺は念のため距離を取りながら、『騎士』の職能で作成した弓での遠距離攻撃で止めを刺していく。


『一閃』の短い射程だと反撃を受けた際に、致命傷を負いかねない。ここは安全に行こうと思う。そして確実に全滅を行った。


「……ここがダンジョンボスの部屋か」


目の前には大きな扉がある。その扉の先にはおそらくオーガキングが待ち構えているはずだ。そしてダンジョンボスの部屋は隔離さえているため、『魔力が枯渇していない』。


「どう思う?」


俺は玉藻に向けてつぶやく。


《正直申し上げて、かなり厳しいと思います。真正面からの戦いならオーガキングの方に分があると考えます》


俺も同じ考えだ。ダンジョン内の長年の経験から、俺もだいぶ強くなっているはずだ。それでもオーガキングには敵わないかもしれない。


『真正面から戦えば』。


「弱点がわかっている。ならそこをついて倒す。

 玉藻は引き続き待機だ」


玉藻は俺の考えを読んでいるのだろう。


《了解しました、ご主人様》


俺を信じて、戦いへと送り出す。それにしても戦いに役に立たない奴隷兼従魔とは一体何なんだろう?


《頭脳担当です》


俺は苦笑すると、両手で扉を開けて前へ進んだ。さぁ、ぶち殺してやる。



******



火炎放射器の炎は燃えるときに魔力を消費する。それは魔力が燃えているわけでなく、燃える際に魔力が補助的に消費されるという意味だ。

通常の火が燃えると酸素が消費される。それと同じようにこの火炎放射器の炎は魔力を消費する。

つまり燃やすためのものがなければ、火炎放射器は意味をなさない。


ダンジョンボスの部屋には燃やすようなものは存在していない。不正ツールアイテムでも破壊不能なダンジョンの壁などは燃やすことはできない。



火炎放射器という切り札を使えない戦いは、俺の圧勝で幕を下ろした。



作戦は単純だ。俺が部屋に入ると同時に、自動で扉が閉まり、ボス部屋は密室になる。

俺は能力で姿を隠しながら、部屋中の魔力を食らい始める。

『職業オーク』の俺も魔力を食うことができる。姿を隠しながら魔力を急速に食らい消費すれば、部屋の中の魔力を枯渇する。ダンジョン自体に空気中の魔力を一定に保つ機能はあるが、急速な魔力の消費には対応できない。

オーガキングも他のオーガと同様に脳筋で、姿を隠した俺を見つけらるような能力はない。

後は先程と同じように衰弱したところを、遠距離からの攻撃で止めを刺して終わりである。


「楽勝でしたね」


玉藻は砕かれ再生したダンジョンコアを食らいながら、感想を述べる。それに対し、俺は首を横に振って答える。


「作戦がうまくいっただけで、逆転される可能性はそれなりにあった。

 楽勝と呼べるようなものではないよ」


俺よりも強い『仲間』はオーガと戦い全滅している。オーガを侮ることは、『仲間』を侮ることになる。俺はオーガを侮る気にはならなかった。

実際少しの油断で勝敗がひっくり返る可能性は高かった。油断しなかったから、勝利することができた。とても『楽勝』とは言えない


今日1日で2つのダンジョンを制覇した。午前にゴブリン砂漠、午後に森オーガだ。さすがに今日はこれ以上の攻略は困難だが、幸先が良い滑り出しとみていいだろう。


「今日のところはここまでだな」


疲れから俺の考えがそのまま口に出る。後始末を終えた玉藻は俺の隣で首を縦に振る。


「さすがに今日はこれ以上進めることは困難ですね。

 明日に向けて移動しながらということになりますが、今日はゆっくりと休みましょう」


玉藻はにっこりと笑っている。何か肉食獣が獲物を狙うような目で、俺を見ている気がする。俺は大丈夫だろうか?



******



次のダンジョンに向けて乗り物で移動しつつ、それなりに豪勢な個室に俺たちはいた。7大ダンジョンは世界中にあるため、次のダンジョンに向かうのもそれなりの時間がかかる。そのため俺たちは金の力で休息をとりながら移動を行っている。金については先程までのダンジョンの報酬のほかに、ダンジョン追放刑で潜っていた時のものもあるため充実している。


「ところで残りの7大ダンジョンというのはどういうところなんだ?」


オーガに対して復讐を果たせたことで、少し気持ちが楽になり余裕ができた。この辺りで一度情報の確認を行いたいと思う。


「残りの7大ダンジョンは『天空グリフォン』『海底リヴァイアサン』『氷原フェンリル』『ヴァンパイア墓場』『ドラゴン火山』の5つですね。

 今までとは違い、魔物の知性が高くなっています。それに伴い他の種族との共存を行っている者もおり、敵の種族が単一ではなくなっています」


机を挟んで向かい合った席に座る玉藻が、俺の質問に答える。夕食後の飲み物を飲みながら、俺はそれを聞いている。


「天空グリフォンは空の上にあり、空を飛びながらグリフォンと戦う必要があります。海底リヴァイアサンはその名の通り、海の底です。こちらは呼吸を確保する必要があります。ご主人様ならオークですので、大丈夫です。魔物に呼吸は必要ありませんから。氷原フェンリルは寒さが厳しく、戦う以前に寒さで凍え死にます。ヴァンパイア墓場は死霊系のダンジョンです。森オーガと同じく中にいるだけで状態異常になります」


森オーガと同じく?俺は特に状態異常になっていないが?


「ご主人様は状態異常に対して耐性をお持ちです。そのため今回は無事でした。また火炎放射器で『消毒』したことで、状態異常付与を消し去っております」


なるほど。火炎放射器には、そういう意味もあったんだな。ボス部屋についても疑問だが、耐性で防いでいたんだろうと予想される。


「それじゃ、ヴァンパイア墓場でも火炎放射器の出番か?」


玉藻は首を横に振る。


「ヴァンパイア墓場には燃えるものがなく、火炎放射器の出番はありませんね。一部の魔物やモンスターは燃えるから、全く使えないというわけではないのですが……」


「両手がふさがり武器が使えないことを考えると、デメリットのほうが大きいか」


「ですです。それで最後のドラゴン火山も活火山の中ですので、呼吸困難と状態異常の付与があります」


玉藻に聞いた7大ダンジョンについてまとめると、こうなる。


ゴブリン砂漠は広すぎる。水不足、食料不足に陥る。

森オーガはいるだけで状態異常付与。魔法無効及び強い物理攻撃耐性のオーガがいる。

天空グリフォンは空の上。空飛びながらグリフォン退治。グリフォンの空中機動はかなりの高速。

海底リヴァイアサンは海の底。呼吸困難。動きが制限されるうえで、相手の動きは速い。

氷原フェンリルは極寒の大地。その寒さで生きていくのが困難。

ヴァンパイア墓場は瘴気まみれ。入るだけで状態異常付与。死霊系は聖属性攻撃以外は無効化する。

ドラゴン火山は活火山。たまに噴火する。ドラゴンは最強。


「……これって、制覇可能なの?」


「だからこのゲームは寂れたんですよね……」


玉藻は遠いところを見ている。


「バランス調整は……」


「『魔物』は拒否するんですよ……」


玉藻はかぶせるように答える。ゲームマスターにより管理者権限の一部をもらうことで、裏話も得たようだ。


「アイテムによる探索者の強化は?」


「強い状態異常耐性や無効のアイテムは、効力を放つときに魔物に気付かれます。簡単に言えば、それを使うだけで魔物が集まります。これは能力による気配隠蔽でも隠し切れません」


なるほど。状態異常を防いでも魔物を集めれば意味ないか。ちなみに火炎放射器は使う時しか魔物に気付かれない。使うときは攻撃とみなされるから、気配隠蔽は解除される。


「……ゲームバランスが悪い理由はよくわかった。

 それで次の目的地はどこになるんだ」


「天空グリフォンになります」


玉藻はにやりと笑った。




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