第44話 墓場ヴァンパイアの制覇と氷原フェンリル
鉄柵にある扉を開き、俺たちは洋館のある敷地に足を踏み入れる。
これは恐らくヴァンパイアの趣味だろう。何故かヴァンパイアは貴族的な振る舞いを好んでいる。
このダンジョンボス部屋内の洋館も、貴族が住んでいるような洋館なのだと思う。
そう考えるとヴァンパイアが上で、『魔王』が下ということか?
《それは早計だろう。
『魔王』もそういう屋敷を持っていたと記憶している。
案外趣味が同じで意気投合しているのだと思うぞ》
ホワイトの話を聞くと少し馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「我が主。突入しますか?」
ナツメは早く戦いたいのか、少し気が急いている。
「……ナツメ。お前は剣を構えて待機しろ。
俺が敵をあぶり出す」
俺は玉藻に対して大量の魔力を供給する。
《ごっ、ご主人様?いきなり多過ぎです。
あふれ出てきそうになっているじゃないですか。少しは加減してください。
本当にいきなりなんですから》
玉藻はいきなりのことに少し焦っている。その様子に俺は少し嬉しくなる。
《ご主人様?反省していますか?》
「……ああ。悪い、許してくれ」
《……次からは気を付けてください》
「……我が主。玉藻とイチャついてどうするつもりだ?」
ナツメは少し不機嫌になっている。
「とりあえず、洋館燃やすことにする」
俺は爽やかな笑顔で断言した。
******
俺は玉藻を通じて強力な『火』魔法を使い、『聖』属性を付与した炎で洋館を燃やし始める。しかし洋館は燃えなかった。
《発想は面白いですし、良かったと思います。しかしダンジョンの建物は基本的に破壊できません。燃えたりもしません。違法ツールアイテムを使用する以外の方法では、無理でしたね。
正直私もできるんじゃないかと思い見てましたが、やっぱり駄目ですね》
玉藻の言う通り、作戦は失敗に終わった。俺はあきらめて洋館の中に入ることにする。
「玉藻。行くぞ」
俺は今度はきちんと声をかけてから、玉藻へ魔力を供給する。
「ナツメ、洋館の扉を開いてくれ」
俺はナツメに命じて、洋館の扉を開かせる。それと同時に洋館を燃やそうとしたのと同等で同質の炎を、扉から洋館の中へと解き放った。
「やったか?」
俺は使えば必ず失敗する掛け声をかける。
「……ずいぶんな挨拶だな」
その声は、俺の放った炎の中から聞こえてきた。
俺は即座に機関銃から『聖』属性を付与した弾丸を連射する。
しかし弾丸は何か硬いものに阻まれて、弾かれているようだ。
どうやら障壁を張っていると思われる。炎をそれで防いだのだろう。
俺は障壁を破壊すべく、最大火力をぶつけ続ける。
炎が晴れて、障壁の奥が見える。障壁の奥には黒いローブを被った黒い人物ががいた。
肌が黒いというレベルではない。どちらかというと某名探偵の犯人が黒ローブを被っているという感じである。
《あれが『魔王』、『ブラック』だ》
ホワイトの声により、あれがブラックと確定した。
ではもう一人いるやたらと気障たらしい奴は、ヴァンパイアだな。よく見れば、以前にも見たことがある。
奴らは障壁の中で俺の銃撃を耐えている。耐久戦ならこちらが有利だ。俺の魔力は限りがない。
「我が主。一度合図とともに銃撃を止めてください。
私が斬りこみます」
ナツメは大剣を構えて、やる気を見せている。このまま押し切ることも可能かもしれないが、ここはナツメの提案に乗るほうがいいと判断する。
「……わかった。用意はいいな?」
俺の声にナツメが頷く。
俺は心の中で数を数える。……3、2、1、0。
俺が銃撃を止めるのと同時に、ナツメが障壁に対して大剣の一撃を加える。
大剣の一撃は障壁を破壊することはできなかったが、大きなヒビを入れることができた。
作戦としては成功だ。
「ナツメ、後退しろ!」
俺はナツメに声をかけるのと同時に、銃撃を再開する。今度は銃撃で障壁が壊れ、その奥へと銃弾が迫る。障壁の奥に隠れていた者は、左右に分かれ姿を現す。
どうやら扉を開けた先は吹き抜けのロビーになっており、そこで敵の二人は待ち構えていたようだ。
炎や銃弾で攻撃していたが、建物自体に傷はなかった。やはりダンジョンは丈夫にできている。
俺は一度銃撃を止める。ナツメは俺を守るように前に出ていた。
「『魔王』である私に対する態度がなっていないな……」
黒ローブの首が飛んでいた。既にナツメの間合いである。隣を見れば、ヴァンパイアもナツメに八つ裂きにされていた。
ヴァンパイアは仕方ないにしても、『魔王』は作戦ミスだろう。
こんな閉鎖空間では大魔法は、自分も巻き添えになるため使い難い。魔法を使うなら、開けた場所でもう少し離れて戦うほうが良かったと思う。
敵に助けられたな。
《……『魔王』は少し敵を侮る傾向があったからな。自信というかプライドが高い人だったと思う》
こちらとしては油断してくれて助かった。
ボスを倒したことで、洋館は崩れ去りダンジョンコアの部屋への扉が開いた。
******
ダンジョンコアの部屋で俺はダンジョンコアを破壊し、墓場ヴァンパイアを制覇した。その上でダンジョンコアは従魔空間に収納して、玉藻が飲み込んでいる。
俺たちは墓場ヴァンパイアの中から出て、適当なホテルに宿泊していた。玉藻と真琴とホワイトも外に出ている。
ホテルの部屋でテーブルを囲み、次のダンジョンへの打ち合わせを行っている。
「次は『氷原フェンリル』です。場所は南極ですね。寒いですから」
玉藻の考えだと、北極ではなく南極に氷原フェンリルはあるようだ。
「北極は別のダンジョンがあると考えています。そこへは氷原フェンリルを制覇してから行く予定です」
玉藻はにっこりと笑った。
「……氷原フェンリルには『銃王』の『レッド』がいる。奴は『魔王』と違い油断はしていないはずだ」
ホワイトが情報を追加する。
「しかし『銃王』は生きてますかね?『魔王』は自我がある死体だったわけですよね」
玉藻がナツメを見る。
「……はい。『魔王』は死んでいました。その上でゾンビか何かに変えられて、利用されていました」
『魔王』を斬り裂いたナツメが答える。あの時ナツメの大剣には俺が『聖』属性を付与していた。だからナツメの大剣で殺しきることができた。そうでなければ再生してきて、苦戦することになる可能性が高い。
「我が主。『魔王』は我が主の銃撃を障壁で防いでいました。
かなりの使い手です。障壁を張るのに消耗していたため、油断が生まれ倒せました。
まともにやりあえば、かなりの強敵だったでしょう」
「ナツメ。私は彼らが弱いとは思っていません。しかし『魔王』はダンジョンに殺された上で、利用されている。
なら同じ初見殺しのダンジョンに向かった『銃王』も殺されている可能性が高いとみています。
墓場ヴァンパイアは死者を利用できますが、氷原フェンリルはそうではない。
もしかしたら『銃王』は出てこない可能性があります。
まぁ考えても仕方がないことですけどね」
「もしそうなら、氷原フェンリルを制覇することは難しくないということですか?」
真琴が現状を理解しておらず、間違った回答を示す。
「なるほど。そう考えることもできるか」
ホワイトも間違いに同意を示す。
「そんなことはありませんよ。氷原フェンリルは難所です。
摂氏マイナス200度の氷の大地。それが氷原フェンリル。
生身の生物が生きていけない世界です」
玉藻は間違いを正すために、正しい情報を開示する。
******
氷原フェンリルの空気には酸素がない。窒素もない。大気の組成はヘリウムである。その理由は氷原フェンリルが寒すぎるから。
物には気体から液体にかわる沸点というものがある。気体であるためには沸点以上の温度が必要だ。
氷原フェンリルの気温、摂氏マイナス200度。この温度は酸素や窒素の沸点を下回る。そのため酸素や窒素は気体ではなく液体になる。
ヘリウムは沸点がさらに低いため気体のままである。しかし人間はヘリウムだけでは生きていけない。むしろそんな状況ならすぐに死ぬ。
もし人間が中に入るならマイナス200度の寒さに耐えながら、呼吸をすることも許されないダンジョン。それが氷原フェンリルである。
「頭がおかしいんじゃないか?」
氷原フェンリルについて聞いたホワイトの感想がこれである。
「難易度設定が狂っていますね」
ちなみにこちらは真琴。
「現状を理解したうえで、今回の作戦です。
魔動騎士は寒さで凍り付きますので、使用不可です。
私と真琴とホワイトも参戦できません。墓場ヴァンパイアと同じですね。
ナツメは進化して適応してください。
ご主人様は私を経由して魔法を使えば、寒さにも耐えられるはずです。
後は出たとこ勝負というところでしょう」
玉藻が方針を決める。
作戦と呼ぶには少し雑な気もするが、これ以上は難しいだろう。俺たちはこの作戦で氷原フェンリルに挑むこととなった。
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