第45話 立ちはだかる吹雪と巨大結界
俺とナツメは魔動騎士の2号機に乗って、南極に向かっていた。
魔動騎士2号機は緑色を基調とした機体で、空戦仕様として開発されたものだ。今回は南極にある氷原フェンリルのダンジョンの扉の前まで、俺たちを運ぶ役割を担っている。
そもそも氷原フェンリルは南極の奥地にあり、ダンジョンに潜ることすら難しい場所に位置している。
そのため今回は魔動騎士2号機の試運転も兼ねて、ダンジョンの前まで魔動騎士2号機で空を飛び向かうことにした。
魔動騎士は1号機も2号機も両方寒さ対策はしている。そのため南極に向かうことは問題がない。しかし氷原フェンリルは寒さの桁が違う。
氷原フェンリルの経験をもとに改造する予定だが、現状は氷原フェンリルで使用することは難しい。
「……ナツメ、そろそろ南極点付近だ。
ダンジョンの扉がないか確認してくれ」
「ナツメ、了解。付近を探索します」
ナツメは魔動騎士の高度を下げて、ダンジョンの扉を探し始める。
俺や従魔空間にいる玉藻と真琴とホワイトも、それに協力する。
《発見しました。前方3キロ付近に扉らしきものがあります。
恐らくあれがダンジョンの扉です》
真琴の報告でようやくダンジョンの入口が見つかった。
ダンジョンに入ることすら一苦労である。
******
魔動騎士をアイテムボックスに仕舞い、俺とナツメは氷原フェンリルの中へと突入する。
俺は玉藻の魔力を渡して、『火』の魔法を効率よく増幅して鎧の中の気温を保つ。そうしないと死ぬくらい寒い。
ナツメは少し凍っていたが、魔力を供給すれば進化して適応する。この結果は魔動騎士の改造に生かされる。
「ナツメ、準備はいいか?」
「はい、問題ありません}
俺はナツメに大剣を渡して、俺も剣を取り出す。それから俺とナツメを守るように張っていた障壁を解除する。俺自身を守るための障壁は別に張っている。そちらは解除しない。
解除したほうの障壁は固定式の障壁だ。障壁が対象者の動きと連動していない代わりに、障壁の強度が高い。
解除していないほうはその逆で、俺の動きに連動している代わりに強度は低い。魔力を大目に供給することで、強度を上げているが固定式ほどではない。
「さて、一面の銀世界といいたいところだが……」
「……真っ白で何も見えませんね」
氷原フェンリルの中は猛烈な吹雪に襲われていた。寒さで俺たちを倒そうという意識があるのだろう。
吹雪いているのは雪というよりも氷である。魔術的に熱を奪うことに特化しており、吹雪く氷は触れるとすぐに溶けて熱を奪う。
「……敵影は無しか」
辺りを見渡し、『盗賊』等の『職能』で『探知』するも敵の姿は見当たらない。
「まずいな」
敵の姿が見当たらないのは問題だ。そもそもこのダンジョンには道がない。進むべき方向も分からない。
そんな時に敵がいれば、進むべき道を示す目印になる。ダンジョンは基本的にダンジョンコアを守るようにモンスターを配置している。つまりモンスターが多いほうにダンジョンコアがあると考えて良い。
例外はあるかもしれないが、モンスター等の敵が目印になることは事実だ。
今回はそれがない。
「……長期戦になりそうだな」
《前の時はここまでではなかったんですけどね》
玉藻の言う通り、前の時はすぐに敵に遭遇した。そういう意味では楽だった。それは墓場ヴァンパイアも同様だ。
俺たちは当てもなくダンジョン内を彷徨うこととなった。
******
俺はダンジョン内を一人で彷徨い歩いている。
ナツメは一旦従魔空間に下がり、魔動騎士の改造を行っている。このダンジョンで動けるように改造している。
とりあえず歩いているが、本当にこちらが正しいのか自信はない。進む方向を示すものが全くない。
方位磁針はクルクル回転して使い物にならない。
これがこのダンジョンの生存戦略なのだろう。道を分からなくして、寒さと飢えで殺す。
ちなみにダンジョンの入口は入った途端に消え去った。恐らく毎回入口の場所が変わるのだろう。外に出るための入口すら、移動されて見失っている状況だ。
《ご主人様。死んだふりをして敵をおびき寄せますか》
玉藻が状況を打破するための案を提案してくる。
「……いや、ダメだ。敵が来るとは限らないし、『銃王』がいるかもしれない。
死んだふりをしたところを狙撃されると、本当に死んでしまう」
玉藻もその可能性が分かったうえで、提案してきている。時間があるため、俺を試しているのだろう。
《ですです。それと話したり考えたりすることで、ご主人様の意識を紛らわせることも兼ねています》
確かに視界も効かない吹雪の中だ。そういうこともなければ、気が狂いそうになってもおかしくない。
《……視界の効かない吹雪?》
真琴が何か気が付いたのか、小さな声で呟いている。
「真琴?どうした?」
《……もしかしてなのですが。この雪というか氷の粒が探知を阻害しているのではないでしょうか》
《なるほど。ご主人様、真琴の言い分は確かめる価値があると思います。
お手数ですが、従魔空間に吹雪いている氷の粒を入れてください。
解析はこちらで行います》
俺は玉藻に言われた通りに、氷の粒を従魔空間へとしまった。これで後は玉藻たちが調べてくれるだろう。
《真琴の考えは正しかったようです。この吹雪いている氷が『探知』の妨害をしていました。熱を奪うだけではなかったようです。
ご主人様は耐性で防いでいましたが、精神干渉の効果まで確認できました》
ダンジョンが嫌な進化をしているな。
《ドラゴン火山や墓場ヴァンパイアは、こちらを迎え撃つことを選択していました。しかし氷原フェンリルはこちらと戦うことを恐れているようです。
少しばかり面倒になりそうです》
「それで玉藻、この状況を打開することは出来そうか?」
《当然です。氷原フェンリルの中でご主人様を中心に、吸収したダンジョンコアを用いてドラゴン火山と墓場ヴァンパイアを疑似的に生成します》
どういうことだ?
《ご主人様を中心に『火』と『土』と『呪』と『腐』の属性を持つ結界空間を展開します。
この結界空間を使い、吹雪いている氷を無力化します。それで敵をあぶり出し、ボス部屋を見つける予定になっています》
イマイチよく分からないが、俺は玉藻に魔力を注げばいいのだな。そうすれば玉藻が『探知』の妨害を無力化する。そして敵とボス部屋を見つける。そういうことだな?
《ですです。その認識で問題ありません。
ご主人様。魔力の強力な供給をお願いします》
玉藻に言われて俺は魔力の供給を徐々に増やしていく。俺の魔力生成量は『オークエンペラー』に進化したことで大幅に上がっている。そのためまだまだ余裕がある。
俺は玉藻への魔力の供給を増やし始める。それを玉藻が変換し、俺を中心とした結界を形成し始めた。
結界は俺が魔力の供給を増やすことで、その範囲を広げつつある。元々ドラゴン火山や墓場ヴァンパイアは、氷原フェンリルと同じくらいの大きさのダンジョンである。
俺の魔力の生成量も増えており、2つのダンジョンコアを用いた結界の大きさは氷原フェンリルのほぼ全域に及ぶ。
「……敵影発見!ナツメ、戦闘準備!!」
ようやく敵を見つけることができて、俺は少し興奮している。
俺の指示で、従魔空間からナツメが出てくる。ナツメも戦いを前に、嬉しそうな笑顔を見せている。
「行くぞ!」
「了解!」
俺たちは敵目掛けて、突撃していった。
******
以前の氷原フェンリルの敵は主にアイスウルフと呼ばれる『氷』属性のオオカミであった。その他は『氷』属性のゴーレムであるアイスゴーレムや同じく『氷』属性のキツネであるアイスフォックスなどがいた。
しかし南極を拠点にしたからか、それとも『銃王』の影響下は分からないが敵の編成が変わっている。
『氷』属性のオオカミやキツネは姿を消した。
《狼や狐は北極方面に生息していますから、その影響かもしれませんね》
これは情報担当の玉藻の談。
その代わりといっては何だが、大量の氷の上を『ペンギンミサイル』が滑ってくる。
空からは『カモメロケット』が迫りくる。
他にも『氷』属性のアイスアザラシやアイスオットセイも攻撃を仕掛けてくる。
《ダンジョン側も隠れることをあきらめて、攻撃に転じてきたようですね》
ナツメの方は『ミサイル』や『ロケット』を避けながら、アザラシやオットセイを斬り裂いていく。それと前回から参加のアイスゴーレムもナツメの担当だ。
俺は障壁を張り、爆発する『ミサイル』や『ロケット』から身を守っていた。
《ミサイルやロケットは少し微妙な気もしますが、『銃王』の影響何でしょうね?》
疑問形でいわれても困る。そんなことよりも玉藻、ボス部屋までどのくらいだ?
《前方に巨大な敵影あり。空を飛んでいますが、クジラですね。
恐らくあのアイスホエールがボス部屋の扉を守る番人でしょう》
俺とナツメは敵を倒しながら、巨大な空中要塞に向けて歩を進めた。
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