第3話 サポートキャラの玉藻



俺は気が付くと、とある建物の前に立っていた。


看板には奴隷商会とあり、先程のゲームマスターとの話によればここに『サポートキャラ』がいるようである。


俺が商会に足を踏み入れると、待っていましたとばかりに店員が俺に話しかけてくる。


「お待ちしておりました。

 あなたに紹介する奴隷はこちらになります。

 どうぞついてきてください」


俺は案内されるままに店の奥へと歩いていく。


途中に他の奴隷たちが檻に収監されている場所を通り過ぎながら、さらに奥へと進んでいく。


こうやって見ていくと、奴隷になっているのは程度の差はあれ『獣人』ばかりである。


「奴隷については初めて見ますが、『獣人』ばかりなんですね」


なんとなく感想が俺の口から洩れる。


「当たり前じゃないですか。『人間』は奴隷にできませんよ。

 もし『人間』の奴隷が欲しいのでしたら、裏社会で取り扱っていると聞きます。

 違法ですから見つかれば捕まりますけどね」


俺を案内する店員は笑うように答える。


どうやら『獣人』は『人間』とは別の種族で、扱いも『人間』とは違うらしい。


誤解がないように言うが、俺の種族は『人間』である。オークではない。見た目や『職業』がオークであるが、種族は『人間』だ。


「着きましたよ」


目の前の檻の中には一人の獣人がいた。先程まで見てきた獣人は獣の割合がそれぞれ違っていた。ほぼ人間の姿に獣の耳と尻尾を追加したような姿の者。顔なども含め毛むくじゃらで、2足歩行の獣という感じの者。ほぼ獣で人間大の大きさの4足歩行の者。


そのほとんどが犬か猫、そういった動物の特徴を表していた。


今回俺のために準備されていた獣人は狐の特徴を持つ獣人で、ほぼ人間だが狐の耳と尻尾を持っていた。


髪の毛や尻尾の色は銀色で、瞳の色は金色。一番の特徴は尻尾が9本あることである。


服装は巫女服で、緋色の袴が美しい。


胸は大きく存在感を示し、無意識に鑑定したところ『男の娘』である。


『男の娘』?どういうことだ?


詳しく鑑定してもやはり『男の娘』である。しかも何と明言しないが、大きくて立派なものを持っているようだ。


かなり属性を積み込んできている。


髪の毛は長く、その顔は一言でいえば『傾国』。まさに国を傾けるような魔性の美しさと高校生くらいの年齢の可愛らしさがそこにはあった。


「初めましてご主人様」


檻の中で正座をしていたその者は、深々と頭を下げる。


そんなことよりも俺は、その声の美しさに酔いしれていた。


半ば夢心地になり、気が付けばそれなりに高い『サポートキャラ』を奴隷として買い取っている。


「末永くよろしくお願いします」


檻から出されて『サポートキャラ』は俺に再び頭を下げる。


俺がいまだに夢心地であり、ぼーっとした感じでそれを眺めている。頭の片隅ではこの状況は『魅了』によるものと理解している。先程の鑑定でその能力に気付いていた。


『職業』による能力のほかに特殊能力を持つものがおり、今回の『魅了』はそれに当たる。


俺のとっさの警戒も意味をなさなくなるほど、その『魅了』は強力であった。


『サポートキャラ』が柏手を打つ。それと同時に俺にかけられた『魅了』が解除されて、頭の靄が晴れていく。


「改めましてよろしくお願いします。

 私の名前は『玉藻』とお呼びください、ご主人様」


気が付けば俺のはホテルの部屋にいた。目の前には玉藻がいて、俺に対して頭を下げている。どうやら正気を失っている間に、ホテルの部屋まで移動していたようだ。


「……ああ、よろしく頼む」


正気に戻ったが俺は玉藻の目をまともに見ることはできないでいた。一つは玉藻の魔性の美しさと可愛らしさがある。それ以外にも俺が女性との対話を苦手にしていることも要因に挙げられる。


召喚される前からおっさんである俺は、女性との付き合いを苦手としていた。事務的な会話はできるが、それ以外では何を話していいかはわからない。そういうところも俺が元の世界で生徒から馬鹿にされていた理由の一つなのだろう。


ここで問題になるのが目の前の玉藻に対してどう接すればいいのかわからないところだ。


玉藻の見た目は高校生くらいだ。高校生くらいの女性にどのように声をかけていいかなんて、おっさんは知らない。


「さて、ご主人様。

 これからの予定について話し合いましょう」


玉藻が俺の考えなど知らずに、話を進めてくる。とりあえずはそれでいい。


「……よろしく頼む」


俺は何とか言葉を絞り出した。


「ご主人様は残り7日間で、7大ダンジョンを制覇しなくてはなりません。

 ここまではよろしいですか?」


俺は首を縦に振る。


「念のための確認ですが、ダンジョンの制覇とは何を意味するか分かりますか」


俺は少し考えるが、答えは見つからない。そのため首を横に振る。


「ダンジョンには最奥にダンジョンコアと呼ばれるものがあります。それを破壊することがダンジョンを制覇するということです。

 ダンジョンを攻略すると言い換えても、いいかもしれませんね」


つまり俺は7日間で7大ダンジョンの全ての最奥にまで行って7つのダンジョンコアを破壊しなければならないということか。


「ちなみに通常ですと7日間で7大ダンジョン制覇は不可能です。

 そこは理解してますか?」


「えっ?!」


俺は固まる。不可能?


「そのための私です。私を作った『プレイヤー』はこのゲーム世界を攻略するために不正なツールを数多く使用しました。それを私が引き継いでいます。それを駆使すれば不可能が可能になります」


不正ツール?それって使って大丈夫なのか?


「それは使用しても大丈夫なのか?」


俺の口から疑問が漏れる。


「通常はダメです。それが原因でアカウント停止・削除になった『プレイヤー』は数多く存在します。不正ツールですから当然です。

 しかし今回は絶対神(ゲームマスター)より『私』に不正ツール『等』の使用許可が下りております。

 試練にあがく姿を楽しみたいという絶対神(ゲームマスター)の意向によるものです」


あの野郎。どうにかして復讐することはできないだろうか?


「それは不可能です。復讐する方法はありません」


ん?今俺は口に出していたか?


「いいえ。口に出してません。『読心』の能力を使用しています。

 こちらも特別に使用許可されたものです。管理者権限による特殊能力というやつです」


…………。


「最初に使用した『魅了』も含めてこれらの能力はダンジョン内のモンスターや魔物に対しては使用することはできませんのでご注意ください」


こいつ信用して大丈夫なのだろうか?俺の頭にそのような疑問が湧いて出る。


「そこについては信用してもらって大丈夫です。裏切ることはありません。

 ゲームマスター絶対神(ゲームマスター)よりご主人様に対する強い愛情と忠誠を植え付けられております。

 これは私に焼き付けられたもので、こうなると絶対神(ゲームマスター)でも解除することは不可能です。

 また奴隷契約によりご主人様に危害を加えることは一切禁止されております」


それなら安心か?


「……抜け道はいくらでもありますけど」


玉藻はボソッとつぶやく。


怖い。本当に信用してよいか不安になってくる。


「仕方ありません。ここは相互理解のため深く交わりましょう」


玉藻は魔性の笑みを浮かべてこちらへとにじり寄ってくる。


その目を見ると、頭の中に少し靄がかかる。どう対応していいか判断できないまま、俺は玉藻に体の自由を奪われる。


気が付けば俺は玉藻にベットの上に押し倒されていた。そこで俺の頭の靄がようやく晴れてくる。


もしかしてこの状況は……。


目の前の玉藻は肉食獣が獲物を狙うような目で俺を見ている。笑みを浮かべ、よだれをたらしこちらを見ている。そこで俺は突然に思い出す。


玉藻は『男の娘』。


俺には身を守るための鎧が……なかった。いつの間にか普段着ていた鎧は解除されて、どこに需要があるかわからないが俺は下着姿だ。身を守るものもなく、なぜか体がうまく動かない。これは『麻痺』か?それに俺の心とは裏腹に体は興奮している。こちらは『毒(媚薬)』によるものだろう。部屋の端で気が付いていなかったが、香が焚かれているのが目に映る。


用意周到に準備された罠に俺はかかったようで、俺には逃げ場がなかった……。



******



俺は新しい扉を開いた。様々な状態異常に対して耐性をつけることができた。


お尻が痛い。魔法で回復しているためこの痛みは幻だ。さらなる耐性をつけることで、その痛みは消えていった。



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