第20話 一階層の差と俺自身の重要性



死んでいたはずの女性は生き返る。それを行うために大量の魔力を消費したが、生き返った後はそこまでの消費はない。


黒髪の彼女はゆっくりと目を覚ます。


「……あなたは…………私の主様ですね」


彼女は俺の能力の影響下にある。そのため俺のことについて『主』として認識する。それと同時に自分が、強化されていることについても把握している。


俺は生き返った彼女を改めて見る。彼女の身長は玉藻より少し高いくらいで、見た目も玉藻よりも上に見える。玉藻は高校生くらいで、ナツメは中学生くらい。今回の女性は大学生くらいか


胸は玉藻やナツメとは違い、大きくない。むしろ控えめというべきだろう。それでも全体的に女性特有の丸みがあり、男性と間違えることはない。髪の色は黒で、探索の邪魔にならないように少し短くしている。


「私を助けていただき、ありがとうございます」


彼女はそういって俺に頭を下げる。俺は迷いがあって、助けられなかった。それでも利用したいと考えて、無理やり生き返らせた。


彼女に対して少し罪悪感が湧く。


「我が主、そんなことは気にしなくてもいいんですよ」


ナツメが俺の隣に立ち、俺を慰める。


「一応状況について確認しておきましょう」


玉藻が彼女に対して問いかける。


彼女の名前は『徳川』真琴。仲間5人とともにこのダンジョンに潜っていたらしい。途中で真琴の武器が壊れ、ゴーレムに倒された。それが原因でゴーレムが優勢になり、仲間4人は真琴を見捨てて撤退を決断。ゴーレムは致命傷を負った真琴より逃げた仲間を負うことを優先し、真琴は放置されていた。


聞いてみればダンジョンではよくある話だ。少しの油断で一気に戦局が変わる。たまたま真琴たちに、それが起こったというだけの話であった。


「……重要なことですが、真琴の性器はどうなっていますか?」


玉藻の真剣な問いかけに、真琴は面食らって頭が呆けていた。


「?」


「玉藻には我が主の周りの人間の女性器を男性器に変えるという呪いが掛かっています。

 真琴はこの呪いの対象になっていますが、我が主の『オークの花嫁』の影響下でもあります。そのため真琴の性器がどうなっているか、確認したいということです」


真琴が理解できていないため、ナツメが質問の意図を説明する。それでも真琴は質問が理解できていなかったようなので、玉藻は強硬手段に打って出る。


「失礼しますね」


玉藻は真琴のズボンの中に手を差し入れると、股間を弄る。


「なっ、何をするんですか?!」


真琴は真っ赤になって玉藻に対して抵抗しようとするが、なぜか体が動かないようだ。


「玉藻、何をした?」


俺は不思議に思い、玉藻に問いかける。玉藻は真琴の股間を弄りながら答える。


「麻痺です。どうやら私の力はご主人様の支配下にある者にも通用するようですね」


玉藻は少しうっとりしつつも、股間を弄っている。


「……それで性別はどうなったんだ?」


「呪いが勝ったようです。小さいですが男性です。女性器は失われています」


玉藻はいまだに真琴の股間を弄っていた。真琴の方は感じているのか、顔を真っ赤にしつつも少し惚けていた。


「そろそろやめろ。

 それで真琴の戦闘スタイルはどういう感じなんだ?」


敵は襲ってこないが、ここはダンジョンの中だ。途中にダンジョン内にも安全地帯はあるようだが、ここは違う。あまり遊んでいていい場所ではない。


「この状態で止めさせるなんて鬼畜ですね。ご主人様」


玉藻はにっこり笑いながら、真琴のズボンの中から手を引き抜いた。


精神衛生上から玉藻の手については詳しく見ないことにしておく。


真琴の方は少し惚けていたが、しばらくすると再起動したかのように正常な状態に戻る。

それから俺の質問に対して答えた。


「私の『職業』は『姫剣士』です。これは魔法剣士のような、魔法と剣が両方使える『職業』です。全滅したパーティでは中衛を任されていました」


彼女には前のパーティに対する思いは残っていない。生き返る際に俺に対して強い愛情と忠誠心が彼女の中に生まれた。それに伴い、それ以外の感情の大部分が彼女の中から失われた。簡単に言えば俺のことを考えるあまり、それ以外についてほとんど無関心になったということだ。


「姫というのは君が『徳川』ということと関係あるのか?」


「詳しくは分かりませんが、恐らくはそうだと思います」


『職業』については個人の行動や背景によって決まる。彼女の場合は魔法と剣の修業を行い、それに徳川という将軍の血筋が加わったことで『姫剣士』になったのだろう。


「とりあえず進みましょう。前衛はナツメ。中衛はご主人様と真琴。後衛は私。

 この順番で進んでいきましょう」


玉藻の号令で俺たちは探索を再開する。なお玉藻の提案で、真琴にも俺からのラインが繋げられた。これにより俺の心のうちが、真琴に知れることとなる。


「なんという仕打ちだ」


俺は心の中で泣いた。それを玉藻たちは流して、前へと進んでいく。


真琴は思っていたよりも強かった。これは生き返らせる際に強化人間にしたことが原因かもしれない。俺が与えた武器が強力だったからかもしれない。


いくつかの要因が考えられるが、この階層のゴーレム程度では真琴は後れを取ることはなかった。


「……予想以上に強いな」


俺は隣を歩く玉藻に話しかける。俺と玉藻は警戒はしているが、敵と戦うことなく進んでいるため少し余裕がある。


「そうですね。ご主人様のお考えの通り、真琴は強化されたことでゴーレム程度なら敵ではありませんね」


前にゴーレムに倒されたのは運が悪かったからだろうか。


「それもありますが、周りが弱かったからですね。

 逃げてきた彼らは、真琴に比べてかなり劣っていました」


玉藻は冷静に考察している。


「残念ながら元の仲間は私よりも弱かったです。

 彼らの役割は荷物運搬と私への補助魔法でしたから」


話していると真琴が少し下がってきて、話に加わる。前衛がナツメ一人になり、少しまずい。


「話は分かったから、真琴は位置に戻れ。

 隊列を乱すと危険だ」


俺が注意すると、真琴は少し前に出てナツメとの距離を詰めた。


「結果論になるが、真琴たちは少し進み過ぎたということか」


「そうなりますね。しかしあくまで結果論です。

 実際ところ、この階層なら戦えていた可能性も高いでしょう」


全滅した真琴たちについて、玉藻はこの階層でも十分通用していたという意見だ。つまり剣が壊れるなどのアクシデントがなければ、結果は変わっていたということになる。


「しかし真琴たちについていえば、少し余裕が足りなかったとも言えます」


玉藻が追加で述べる。


「どういうことだ?」


「真琴たちが全滅したのは探索に対して少し余裕が足りなかったということです。この階層で戦うことは可能でしょうが、適正としてはもう一階層うえで余裕を持って戦うべきでした」


少し無理をすれば、もう一階層下に行けば。それが命を分けるわけだ。


「その通りです。今日殺されたのは運がなかったといえますが、殺されたこと自体は当然の結果といえるでしょう」


玉藻の言葉は辛らつであったが、事実でもあった。一階層の差が命を分ける探索で、その一階層を間違えていれば必ず殺される。それは俺たちにも言えることだ。


「……俺たちは大丈夫か?」


「大丈夫です。まだ余裕がありますし、いざとなればナツメと真琴を囮にして逃げます」


酷いな。


「酷くありません。最悪でもナツメと真琴はご主人様さえいれば、生き返らせることができます。召喚して呼び出すことができます。ご主人様の安全が最優先です。

 これは私もそうです。最悪の場合は私を見捨てて逃げてください。その上で私も呼び出して生き返らせてください」


玉藻はそういって俺に頭を下げる。


俺が生命線か。確かに言われてみればそうだ。俺なら三人とも召喚で呼び出すことができる。それは生きていても、死んでいても可能だ。さらに『オークの花嫁』で生き返らせることも可能だ。


俺さえいればやり直すことができる。俺は自分の身を守ることの大切さを、再認識した。



******



俺たちはその後、ゴーレムダンジョンを無事に攻略することができた。ボスのゴーレムは大きくて黒くて硬かったが、ナツメと真琴の2人掛かりで果てさせることができた。


俺たちはそれなりの日数はかかったが、大量の金属と魔石を手に入れることができた。



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