第34話 空飛ぶスケルトンと俺の切り札
俺はバジリスクと戦っていた。現在の状態は膠着状態。俺はバジリスクを倒さないように戦っていた。
『オークキング』となった俺なら、一人でバジリスクを倒すこともできただろう。しかし今回の目的は、塔の最上階に行くことだけではない。
真琴の能力の実験も兼ねている。
玉藻が調べたため詳しくは知らないが、徳川家康は鶏が早く鳴いて助かったことがあるらしい。その鶏には褒賞を与えたそうだ。
鶏の鳴き声で目を覚ます。眠りから覚める。眠りの状態異常を解除する。そこから『鶏』には状態異常解除能力を与えている。かなりきついこじつけだが。
俺は真琴が自力で状態異常を解除するのを待ちながら戦い続ける。
できるだけ早く来て欲しいな。
俺の願いが通じたのか、思ったより早く真琴は復帰してきた。
「主様。お待たせてして申し訳ありません」
鶏獣人のハーフの姿で、真琴は毒の魔剣を振るう。鶏獣人のハーフは鶏の羽が体の一部から生える程度で、それ以外に変わったところはない。
元々互角だったところに真琴が加入したため、状態はこちらが有利へと傾く。先程のサイクロプスと同じように、毒の魔剣がバジリスクを傷つけていく。
「……やはり耐性を持っているようだな」
バジリスクは傷のわりに動きに衰えがない。魔剣の力が効いていないようだ。恐らくバジリスクには、『麻痺』や『石化』が効き難いのかもしれない。
「……真琴。『猫』を使ってみろ」
俺の指示で真琴の姿が猫獣人へと変化する。個人的には獣人といえば『猫』か『犬』だと思う。
《そこは『狐』ですよね!!》
確かに『狐』や『狼』も捨てがたい。
そんなことを考えているうちに、真琴の方は準備ができたようだ。
「『眠れ』」
真琴の声が響いた一瞬、バジリスクの動きが悪くなった。ほんの一瞬だが、真琴には十分だ。真琴の双剣がバジリスクを貫いた。
そして次の瞬間にバジリスクの鶏部分が絶叫を上げる。そこを怯んだ隙を突き、蛇の部分が真琴を襲う。
「『一閃』」
俺の一撃がバジリスクの蛇の頭を斬り裂いていた。
******
ようやく最後の5階層だ。5階層の扉を開けると、そこには何もいなかった。白い床と壁。敵らしい敵は見当たらない。
「……主様。上です」
真琴に言われて見上げてみると、そこにはスケルトンが空を飛んでいた。
そのスケルトンはランドセルのようなものを背負っており、そこからのジェット推進で空を飛んでいるようだ。
手にはライフル銃。完全に近代『職業』だ。むしろ未来か?
スケルトンがライフル銃を構える。
「真琴!散開!
『鷹』を使ってスケルトンのランドセルを破壊しろ」
俺たちのいたところに銃弾が撃ち込まれる。それにしても玉藻たちとはえらい違いだな。
《私たちの場合は私が少しダンジョンに介入して、ナツメにふさわしい敵を選びましたから》
そんな話は聞いていない。じゃあこれは俺たちにふさわしい敵ということか?
《いえ、今回は介入できませんでした。前回の介入から学習して、介入できないようになっていますね。
ですのでこれは純粋にダンジョン側が選んだ敵です》
玉藻との会話は特に役に立たなかった。俺も魔法で応戦しているが、空を自由に動けるようで全く当たっていない。
スケルトンは先程から俺の方を狙って攻撃している。おかげで真琴は『鷹』に完全獣化を遂げている。
『鷹』だけは獣人ではなく、完全獣化だ。下手に人間大になると、空を行く速度や小回り等に障害生じる。それならいっそのこと完全な鷹になればいいという判断だ。
体の大きの変化に無理がある?体重の変化はどうしているのか?
そういうことはすべて魔法で解決している。魔法がある世界とはそういうものだ。
鷹へと完全獣化した真琴は風魔法を利用して、一気にスケルトンへ向けて飛び上がる。
さすがに空中での高速戦闘になっては俺からの攻撃は、真琴に当たる恐れがある。そのため俺はスケルトンの隙を伺いながら、移動を行っている。
スケルトンと真琴の戦いは真琴が優勢で進んでいる。
空飛ぶスケルトンは真琴のほうを向きながら、真琴へ向けて銃弾を打っている。真琴の方はそれを風魔法で防御しながら、スケルトンとの間を詰めていっている。
たまにすれ違い、その時は真琴の嘴や爪がスケルトンを傷つけている。
しかし真琴には決定力が欠けている。それは仕方がないことだ。
速度と小回りを優先して、攻撃力が低くなっている。このままでは負けることはないが、勝つことも難しいだろう。
仕方がない。俺の切り札を切ろう。
「『召喚銃』召喚『スナイパーライフル』」
この世界の能力の職能はこじつけで発動する。なら召喚『獣』の代わりに召喚『銃』を召喚することも可能ではないか。俺は『召喚術師』を持っている。
無茶苦茶な話だが試してみた結果がこれだ。
俺の手の中には『スナイパーライフル』がある。これは『付与魔術師』で『生命』を『付与』した。さらに『精霊魔術師』で『精霊』へと変化させた。
俺の手にある『スナイパーライフル』は、俺と契約した召喚獣であり精霊である。
「狙いはスケルトンの背後にあるランドセルだ」
俺は『スナイパーライフル』を構えると、狙いをつけてその引き金を引く。
「『絶対必中』」
俺から対価の魔力をたらふく奪った『スナイパーライフル』が、1発の弾丸をスケルトンのランドセルへ目掛けて発射する。
スケルトンは真琴との戦闘に手一杯で、俺の動きまで警戒していなかった。そのはずだった。それでもスケルトンは一瞬の判断で、弾丸の軌道上に真琴が来るように真琴を素手で攻撃した。
今までとは違い、銃を使わずに攻撃した。
なるほど。なりふり構っていられなくなったということか。
でも無駄だ。あの弾丸には『絶対必中』が付与されている。目的のものに『必ず当たる』。そして逆に目的以外のものには『必ず当たらない』。
そのようなおかしい能力だ。
弾丸は軌道を変えて、真琴を避ける。真琴を避けて、スケルトンのランドセルへと吸い込まれるように弾丸が当たる。
それと同時にスケルトンのランドセルが小規模の爆発を起こす。
真琴は少し吹き飛ばされたが無事のようだ。
爆発の煙の中からスケルトンが落ちてくる。5階層の部屋はそれなりの高さがあり、そこを飛んでいたスケルトンはそれなりの高さから落ちることとなった。
結局スケルトンは落下の衝撃により、バラバラになり動かなくなった。
「……俺たちの勝ちだな」
スケルトンは消え去り、最後の扉が開いた。
******
俺たちは無事に『言語理解』を手に入れ、塔のダンジョンから出ることができた。後は玉藻たちと合流するだけだ。玉藻たちがダンジョンの前で待っているものと思っていたが、ダンジョンの前には誰もいなかった。とりあえず歩いてホテルまで戻ろう。
真琴は今は人間に戻っている。俺の隣を歩いて銃撃で頭を貫かれて、膝から崩れ落ちた。
?どういうことだ?何が起こっている?
混乱する俺を斬撃が襲う。鎧は『職業』が『オークキング』に進化したときに、増強している。
突如現れた探索者の複数の斬撃が俺を襲うが、その全ては鎧によって防がれている。
「真琴、『猫』だ!全力!!」
俺は『オークの花嫁』に魔力を込める。俺の声に呼応するかのように、真琴へ追撃の銃弾が放たれるが、それくらいで真琴は止まらない。
銃弾による傷もすぐに再生していく。真琴は猫獣人のビーストに獣化していた。
ハーフでも問題ないが、この状況のためビーストのほうがいいと判断したのだろう。
「『平和な世界』」
日光東照宮の眠り猫の彫刻の裏には遊ぶ雀の彫刻があると聞く。そのことから猫が眠ることで雀のような弱者が安心して暮らせる平和な世界を現しているという。
そのことから『猫』の能力は強制的な平和。つまり『戦意喪失の強制』が『猫』の本当の能力になる。『眠り』は弱体化した能力だ。
それを受けて目の前にいる探索者たちは、次々と武器を落として戦うことをやめる。
この能力をサイクロプスに試さなかった理由は簡単。この能力は俺にまで作用する。
俺も武器を取り落とし、戦いを放棄した。
そしてこの能力の最大の問題点は、真琴が行動不能になること。この能力を使うとかなり深く真琴は眠り、8時間程度は起きてこない。起こすこともできない。
能力の効果時間は5分くらいで、かなり効率が悪い能力といえる。今回のような緊急事態でなければ、あまり使うことはないだろう。
戦うことができなくなった俺は、同じく戦えない6人の探索者たちと相対した。
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