第22話 徳川幕府と探索者ギルドとの対立
真琴にお仕置きを行った翌日。俺たちは予定通りに魔石を納品し、探索者としてのランクを上げた。
探索者ギルドからは派遣した探索者が全員殺されて、真琴が傷一つなく生還していることについて軽い聴取があった。しかし真琴は傍流とはいえ、徳川の姫である。真琴の言葉に疑いを持っていても、問い質すことができる人物は探索者ギルドに存在しなかった。
俺たちについても探索者ギルドは取り調べをしようとしたが、真琴の鶴の一声でそれも立ち消えた。俺たちは真琴のための探索者集団として認識されることとなった。それが俺たちにとって良いことか悪いことかは今の時点では判断できない。
正直面倒な事態になったと思う。
「我が主。真琴はそれなりに使えます。
昨日『体感』していただいた通り、それなりに使えます。色々な意味で。
総合的に見れば十分プラスと見れると思います」
確かにナツメの言うとおりだ。戦力的にも昨日までの探索で、それは分かっている。
『オークの花嫁』で縛っているため、裏切る心配もない。それでも面倒ごとに巻き込まれそうな感じがして、そこが少し不安だ。
「残念ながら、面倒ごとには確実に巻き込まれるでしょう。
それは力づくでねじ伏せるしかないと思います。ご主人様」
玉藻は不吉なことを言っているが、間違いではなさそうだ。
「主様。申し訳ありませんが、一度私の屋敷へ来ていただけますか」
真琴は俺に頭を下げた。探索者ギルドの建物の中で。
探索者ギルドの職員たちが見ている中で、真琴は俺に対して頭を下げていた。
「真琴。頭を上げろ。とりあえず場所を変えよう。
これ以上ここで話すのはまずいと思う」
徳川の姫の頭を下げさせる冒険者というのは、外聞が悪い。それと悪目立ちが過ぎる。
俺たちは真琴の屋敷に向かうこととなった。
******
真琴は俺の『オークの花嫁』によって生き返っている。それでは『オークの花嫁』を解除すれば死んでしまうのかと聞かれると、答えは『一応』否ということになる。
『オークの花嫁』を解除しても真琴は肉体的に死ぬことはない。しかし精神的には狂い死ぬだろう。
『オークの花嫁』という禁術は、あらゆる手段を用いても女性を縛り付けたいというオークの本能から生まれたものだ。そんなモノを解除できると考えるほうがおかしい。
「あの状態の真琴に助けるには『オークの花嫁』以外にはありませんでした。
そして『オークの花嫁』は対象者の精神を蝕みます。精神に対して強い依存性があります。『オークの花嫁』を解除すれば、確実に真琴の精神崩壊を招きます」
俺たちは真琴の屋敷の中で、真琴の両親の前で真琴の現状について説明していた。最初は俺たち自身のことは隠す方向で行こうと考えていたが、県知事である真琴の両親を見てその考えは捨てた。
嘘や偽りが通用するような相手ではない。俺は直感的にやばい相手と感じたし、玉藻も正直に話したほうが良いと助言してきた。
そのため一切隠すことなく、真琴の両親には真琴の状態について説明をしている。
それを聞いて真琴の父親が口を開く。
「……真琴は『オークの花嫁』とやらを解除しないと、貴様以外の子供は作れないといったな。しかも解除すれば精神が狂い死ぬというわけか。
なら真琴はオークの子を産むしかないということか?」
「いいえ。2点誤解があります。
一つ目は解除しても私以外の子を『産む』ことは決してできません。これは『オークの花嫁』がそういうものだと、理解してください。
もう一つは私は特殊でして、私から生まれるのは人間の子供になります」
ナツメは人形で玉藻は俺の奴隷である。そのため高い地位にある真琴の父親との問答は俺が行う必要があった。
「それを証明することはできるのか?」
かなり高圧的な態度で真琴の父親が俺を見ている。
「出来ません。私は事情により7大ダンジョンを制覇しないと、子をなすことができません」
真琴の父親は疑わしい目で俺を見てくる。
「ただ真琴は子を産むことが今はできませんが、子を作ることなら可能です」
「……どういうことだ?」
真琴の父親は俺の言っている意味を理解できず、俺に問い返す。
「詳しいことは置いておきますが、真琴は胸がありますが現在男性になっております。
これは7大ダンジョンを制覇しない限り、そのままです。
真琴は男性ですから、女性を孕ますことができます」
真琴の父親は俺の言葉をゆっくりと嚙み締めると、内容を理解したようだ。
「…………確かめさせよう」
真琴の父親の絞り出すような声に、真琴の母親が反応し真琴を連れて部屋を出た。
しばらくして2人そろって戻ってくると、真琴の母親が真琴の父親に耳打ちした。
真琴の父親はじっくりと悩むと、悩み抜いた結論を告げた。
「真琴にはしばらくの間、女性との間に子をなしてもらう。その間はダンジョンへ同行を禁止する。子をなした後は貴様らとのダンジョン探索を許可する」
真琴の父親は自分の娘がダンジョンで一度死んだことを疑わなかった。俺たちの告げた真実を疑わなかった。
それは経験によるものか、『職業』によるものかは分からない。恐らく俺たちを利用するつもりはあると思う。ただ真琴についてはあきらめたように思えた。
「私の判断が不思議そうだな」
真琴の父親は俺に話しかけてきた。
「貴様の話には嘘がない。私にはそれがわかる。そして貴様らを敵に回すことは得策ではない。
真琴を助けることはもう間に合わない。
ならその中で最善と思えるものを選ぶ。ただそれだけだ」
真琴の父親の顔が少し和らぐ。俺は真琴の父親へ頭を下げた。
******
しばらくの間、真琴は別行動となる。俺と玉藻とナツメは、その間もダンジョンに潜ることとした。できるだけ早くに7大ダンジョンを制覇して、玉藻の呪いを消し去りたい。
俺の職業『呪術師』で玉藻の呪いを無効化しようとしたが、それは失敗に終わった。玉藻の呪いは力づくで解除できるようなものではなく、かなり特殊な技術で生み出された芸術品のような呪いであった。簡単に言えば、正しい解き方でないと解けない。
7大ダンジョンを制覇する以外の道はなかった。
「……次はどのダンジョンに向かう?」
俺の言葉に玉藻が少し悩んでいた。珍しい。通常なら情報収集等を担当している玉藻が、次の行動を計画していないとは考え難かった。
「……予定は考えておりました。しかし真琴のことがあり、予定を変更したほうがいいと考えています」
どういうことだ?俺の頭の中に疑問が浮かぶ。
「我が主。玉藻は他の探索者が邪魔しに来るのでは、と考えているようです」
俺の頭も中の疑問を読み取り、玉藻の代わりにナツメが答える。
「私たちは探索者ギルドに真琴側、つまり徳川側だと認識されています」
実際に俺たちは真琴の父である傍流の徳川屋敷に泊っている。探索者ギルドからのダンジョン内での事情聴取も、徳川の姫である真琴が断っている。
客観的に見て俺たちは徳川側に見えるのは当然のことだろう。
「探索者はダンジョンを武力で侵攻する者です。そのため探索者の集まりである探索者ギルドは武力集団になります。この組織はこの国を支配する徳川にとって、面白いものではありません」
ナツメが言葉を区切り、玉藻を見る。それを受けて、続きは玉藻が語り始める。
「探索者ギルドはダンジョンがもたらすものについて、『高度な技術力』で活用しています。この『高度な技術力』はご主人様の元の世界でも、ありえないものです。
探索者ギルドはゲーム世界と何らかの関りがあると思います」
なるほど。探索者ギルドはゲーム世界の住人が関りがあると感がるべきということか。
「ですです。そこで問題となるのが探索者ギルドと徳川幕府との対立です。
現在この国は徳川幕府によって支配されております。
しかし『高度な技術力』を持つ探索者ギルドはその中で独立性を保っています」
探索者ギルドは全世界規模の組織である。全世界で魔石などのダンジョンからの取得物から生活に必要となるエネルギーを生み出す巨大組織である。
「探索者ギルドが管理しているものは電気とガスと上下水道といった、生活のためのインフラの全てになります。世界中のすべての国でインフラを整え、維持している巨大組織が探索者ギルドです。
国の統治についてはそれぞれの国の政府に任せていますが、国の支配者にとってみれば恐ろしいことこの上ありません」
自分たちの生活を支えているのが、自分たちの思い通りにならない組織である。探索者ギルドの気まぐれで、自分の国が亡びるかもしれない。探索者ギルドが政府を転覆させるかもしれない。
幕府をはじめとする各国の政府は、そのような疑いを探索者ギルドに対して抱いている。
「それに輪をかけるように、探索者ギルドはダンジョン探索のための武力を有しています。探索者という政府に属さない武力集団を有しています。
探索者ギルドは探索者の保護のための、探索者の権利を国に対して要求しています」
探索者ギルドはそれぞれの国の政府と対立している。当然の結果だろう。
「探索者ギルドと幕府との武力衝突は何度も起こっております。
幕府の要求は探索者ギルドは幕府の支配下に入ること。
探索者ギルドは探索者及び探索者ギルドに対する独立自治の要求。つまり探索者と探索者ギルドに対して一切口出しするなということです」
平行線だな。決して交わることはないだろう。
「そんな中で私たちは幕府側となりました。これによって探索者資格が取り消しになることは今までのことを考えても、ありえないでしょう。
しかし幕府側の探索者のダンジョンでの不自然な死亡事故が、いくつもあります。
探索者の中には『対人戦を得意とする』探索者も多くいます。
私たちも注意が必要です」
それが最初の他の探索者が邪魔するに繋がるわけか。
「我が主の考え通りです」
「それを踏まえて、今回探索するダンジョンは難易度を変えないこととしたほうが良いでしょう」
ダンジョンモンスターと挟み撃ちにされるかもしれない。それなら無理して危険なダンジョンに潜ることは辞めたほうがいいだろう。
「ゴーレムダンジョンに再び潜ることとします」
玉藻の決断により、俺たちの行動は決定した。
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