第39話 ドラゴン火山の攻略



探索者ギルドの決着が付き、『勇者』の強化もうまくいった。


そこでふと思う。


「玉藻。『統一合衆国大統領』との一戦の時に、この方法が使えたんじゃないのか?」


「恐らく失敗したと思いますよ。

 当時はそこまで強力な大統領になると予想できず、その策を準備できていませんでした。

 この策は『統一合衆国大統領』に敗北したため、次に戦うように作り上げた策の一つです。」


なるほど。さすがの玉藻も、そこまで全能ではなかったか。


「ですです。当時の想定として強くても1000万倍くらいと想定していました。

 実際はその100倍の10億倍でしたが。

 1000万倍くらいまでならご主人様が障壁張りながら防御すれば、攻撃を受けても原形は残ると思っておりました。その間に空気に干渉すれば、勝てると考えていました」


「それじゃ、今なら『統一合衆国大統領』にも俺は勝てそうか?」


俺は興味本位で聞いてみた。


「無理ですね」


玉藻は真顔で答えた。


「私も負けた後に、『統一合衆国大統領』について調べました。

 あれは頭がおかしいです。『統一合衆国大統領』は、まず決め方を文官が決めました。

 決まった後に全国民が支援すると決めたのです。

 そのあと武闘大会の優勝者が、『統一合衆国大統領』になっています。

 同じ基礎能力を持ったところで、『武』に捧げてきた時間が違い過ぎます。

 『武』に対する取り組み方が違います。

 ご主人様では技術力の違いで、全く歯が立たないでしょう」


なるほど。武闘大会で『大統領』を決めたのか。なら俺では勝つのは難しいだろう。


俺もダンジョンに潜って強くなっているが、技術的な面でいえばまだまだ未熟といえる。


「自分たちが生き残れるかどうかの瀬戸際でしたからね。

 普通に考えてあり得ない方法が取られていました」


「それじゃもし今『統一合衆国大統領』と敵対した場合はどうするんだ?」


「閉じ込めてナツメと戦わせるか、初見殺しのダンジョンに放り込みます」


玉藻は相変わらず真顔である。それほど『統一合衆国大統領』は恐ろしい相手ということだ。


もう二度と戦うことが無いように祈りたい。



******



「さてこれからですが、7大ダンジョンの制覇に向けて動き出します」


俺たちは適当なホテルの一室に泊まっている。そこで俺たちの今後の方針について、玉藻から説明をしてもらっていた。


「推測にすぎませんが、どのダンジョンも色々変化していると思われます。

 それはどのダンジョンも一度制覇されており、それを教訓に進化していると考えるからです」


「……確か一度制覇することで、弱体化させたんだっけ」


誰も覚えていないような設定を、俺は引っ張り出す。


「ですです。しかし300年も経過していれば、復活して強化されている可能性のほうが高いでしょう」


確かに玉藻の言う通りだ。


「玉藻。7大ダンジョンの場所は見当がついているのか?」


ナツメが玉藻に対して問いかける。


「おおよその見当はついています。

 ランクが上がったことで、探索者ギルドの情報網も使用できるのでほぼ問題ないとみていいと思います」


「そうすると、問題はどこから制覇を目指すのか?

 どうやって制覇を目指すのかの2点か」


俺の問い掛けに玉藻は首を横に振る。


「どうやっての前に、どんなダンジョンかの情報が正確ではありません。

 そのため一度入ってみて、考える必要が出てきます。

 どこからについては、もう決めてます。

 前回制覇できなかった、『ドラゴン火山』。

 まずはここからです」


玉藻はそういってニヤリと笑った。



******



俺たちは今、アメリカのハワイにいる。目的は当然『ドラゴン火山』だ。


7大ダンジョンは元々の名前と近しい場所に、存在する。


『ドラゴン火山』がハワイにあるのは、火山がハワイにあったから。


その火山もダンジョンができたことにより、そのエネルギーを食われて活動を停止している。


俺たちの目的は2つ。1つは玉藻の呪いを解くために、制覇すること。


もう1つはダンジョンを取り込んで、こちらの戦力を増強することにある。


今回の計画では、ダンジョン内に入ったら魔動騎士に乗り込む予定だ。


魔動騎士を使い、進めるだけ進んでみるというのが今回の方針である。


問題があれば、即時撤退。その後は作戦の練り直しという考えである。


「それじゃ、入ってみるか」


玉藻の案内で俺たちは既にかつて『ドラゴン火山』と呼ばれたダンジョンの入口にいる。


「ご主人様。さすがに中が、どのように変化しているのか不明です。

 しかし呼吸が難しい可能性が高いため、私は従魔空間の中で待機します」


「真琴は大丈夫なのか?」


俺は真琴を見る。真琴はまだ変身していない。中を確認してから、変身する方針だ。


「主様。私は問題ありません。

 私は『オークの花嫁』により、どのような場所も耐えられます」


真琴は覚悟を決めている。なら進むだけだ。


玉藻が従魔空間に避難するのを確認すると、俺たちはダンジョンの中へと足を進めた。



******



ダンジョンの中は小規模の噴火が起こっている大きな岩山があり、俺たちはその岩山の麓にいた。


岩山には草木などがなく、噴火のために空も薄暗い。


辺りには敵もいないため、俺は魔動騎士1号機を取り出す。


「真琴は周囲の警戒をしてくれ。ナツメは魔動騎士に乗り込め。

 俺はナツメが乗り込んだ後に、魔動騎士に乗り込む。

 真琴は俺が乗り込んだ後は魔動騎士の起動後に、従魔空間に避難してくれ」


当初の予定通りに指示をナツメと真琴に行う。


真琴は犬獣人に変化して、警戒に当たる。ナツメはすぐに魔動騎士に乗り込む。


魔動騎士は胸部装甲が開くことで、中に入ることができる。ナツメは胸部から上に上がり、頭部へと移動する。


それを確認すると、俺も胸部から中へと入る。俺はそのまま胸部に収まり、装甲を閉じる。


「魔動騎士!起動!!」


俺の声とともに、魔動騎士の目の部分が赤く光る。俺から魔力が供給されて、それが魔動騎士の全身へと周り、魔動騎士が赤く輝く。


俺の『職業』が『オークキング』に進化したため、魔動騎士の性能も進化している。


魔動騎士の起動が終わったため、俺が従魔空間の扉を真琴のそばに開く。従魔空間の扉は本来俺しか開けることができない。なぜか開けることのできる玉藻が異常なだけだ。


真琴を従魔空間へ避難させると、ナツメが魔動騎士を動かす。


「ナツメ、発進する!」


魔動騎士が草木のない岩山を登り始める。傾斜はなだらかなため、歩いて上ることができる。


「玉藻と真琴は周囲を警戒してくれ」


魔動騎士は頭部があり、そこに目がある。その目はナツメに繋がっていて、それも基にナツメは操縦を行っている。俺もその映像を見ることができる。


ただそれでは後ろ等に死角ができるため、死角ができないように複数のカメラが魔動騎士に搭載されている。それの確認は従魔空間にいる玉藻と真琴が行っている。


「主様。複数の物体が岩山より飛び立ち、こちらへ向かっております。

 最大望遠で確認したところ、ワイバーンと思われます」


真琴から敵の確認の連絡を受ける。ワイバーンか。


確か体長は5メートルくらいで爬虫類の体と蝙蝠の翼を持ち、蛇の首に角が生えた鰐の頭とトカゲの尻尾を持つ姿だ。


多少違う個所もあるかもしれないが、おおむねそのような姿だ。


ワーバーンの体長を倍にして、巨大な爬虫類の腕が付いたのがドラゴンである。もしくは『竜』と表記される。


ドラゴンと同じような頭だが、蛇の体と鰐の手が付いたのが『龍』である。


西洋のタイプが『竜』またはドラゴン。東洋のタイプが『龍』である。


「ナツメ、専用武器『フレイムガイア』を使用せよ」


俺は魔動騎士用の武器の大剣『フレイムガイア』を、アイテムボックスから魔動騎士へと放り出す。


ナツメは魔動騎士を操り、18メートルくらいある両刃の大剣をその手に握る。


「『フレイムガイア』起動」


『フレイムガイア』は『火』と『土』の魔法を付与した魔剣である。ナツメの声とともに、大剣の刃が炎を帯びる。


ナツメの眼にも複数のワーバーンの姿が、捉えられるようになった。


「『メテオショット』」


魔動騎士が大剣をワイバーンに向けて振る。すると炎に包まれた岩石が、ワイバーンへと降り注ぐ。


これが『火』と『土』の合体魔法。


メテオショットにより複数のワイバーンを撃墜するも、ワイバーンの数は多く魔動騎士の元へとたどり着く。


ワイバーンは火炎を吐き、魔動騎士を攻撃する。足の爪や嚙みつきで攻撃するものもいる。そのどれも魔動騎士の装甲を貫くことはできない。


多少の傷はつくが、その程度なら魔力による修復で回復可能だ。


一方ワイバーンは魔動騎士の大剣により、どんどんと斬られて倒されていく。


ワイバーンを殲滅できるのも、時間の問題だな。



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