第36話 7大ダンジョン制覇の報酬と探索者ギルド
「ご主人様は『7』という数字からどのような漫画やアニメ、小説を思い出しますか?」
いきなり何を言っているんだ?
「色々とあるでしょう。その中でも有名なものに『願いがかなう』物語があります」
玉藻は訳知り顔で頷いている。
「つまり、7大ダンジョンの制覇を制覇すると願いが叶うということか?」
「ですです。探索者ギルドは『何か』願いを叶えるために、7大ダンジョンの制覇を目論んでいます。
このことは『ゲーム世界では』誰でも知っているようなことです。
ご主人様は例外のようですが」
俺は7大ダンジョンができる前にダンジョン追放刑になり、出てきた後はそんなことを聞く余裕がなかったからな。
そういえばオークは王族が子供をゲームマスターに望んだことで生まれた種族だったな。その時は7大ダンジョンがないだろうから、どうやって望んだんだ?
「その答えは簡単です。当時は『7人生贄』がありましたから」
「なんだそれ。何となく、分かる気もするが……」
「『7人生贄』は7人の人間を生贄にささげることで、願いが叶う『かもしれない』儀式です。
王族や貴族の間ではかなり流行りました。しかし願いを叶えた人間が例外なく魔物になったことで流行は終わりましたけどね」
なるほど。昔に流行した呪いの儀式か。
「その認識で問題ありません。
話を戻します。これで一つ分かったことがあります。探索者ギルドの中枢の人間は、元ゲーム世界の人間の末裔です」
******
俺たちは一度休憩を入れることにした。玉藻がお茶の準備をしてくれている。
かなり話が大きくなっている。7大ダンジョン制覇で望みを叶えるとか、急に言われても困る。
「……我が主」
先程までの話し合いに口を挟まなかったナツメから声を掛けられる。
「先程の話し合いは私が口をはさむ余地がありませんでしたから。
全て玉藻に持っていかれました」
ナツメは俺を見て、微笑む。
「それより我が主は難しく考え過ぎなのでは?」
「……どういうことだ?」
「私たちは7大ダンジョンを制覇して、玉藻の呪いを解く。私は女性型に改造される。真琴は女性に戻る。我が主が私たちと交わり、子供を作る。
そして邪魔するものはすべて排除する。それでいいのではないですか?」
確かにナツメの言う通りだ。俺たちの目的はそうだし、邪魔するものを排除するのもその通りだ。
「ではナツメは探索者ギルドについてはどうすべきと考えているんだ?」
「探索者ギルドですか?潰すべきです。
私たちは真琴を仲間にした以上、徳川幕府側の人間です。
探索者ギルドが徳川幕府と敵対している以上、探索者ギルドは敵です。
ですので潰しましょう。魔動騎士の使用を許可してください」
ナツメは座っている俺の前に来ると、両手で俺の肩を掴んだ。かなり興奮しているのか、鼻息が荒い顔を俺の顔に近づけてくる。
「ナツメ、落ち着きなさい」
お茶の準備を終えた玉藻が戻ってきた。俺の前にお茶を置く。
「現実問題探索者ギルドを潰すことは困難でしょう」
「あの程度の建物なら、魔動騎士で壊すことは難しくない」
ナツメはまだ興奮しているようだ。
「そういう問題ではありません。これは統率者系統の『職業』に言えることですが、その持ち主を殺すことにあまり意味がないんですよ」
例えば探索者ギルドの最高戦力である『世界統一ギルド長』を倒しても意味がない。すぐに新しい『世界統一ギルド長』が現れる。
「ですです。決め方などは色々違いますが、統率者系統の『職業』はすぐに新しい代わりを用意することができるんですよ」
そのためまともにやりあっても意味はないだろう。代わりなんて吐いて捨てるほどいるのだから。
「ですので一度話ある必要があると思います。少なくとも敵対したくはありませんね。
……多分無理でしょうけど」
玉藻が自嘲気味にそういった。
何だ?何かあるのか?
「そちらはまだ確定ではありません。それよりも敵対した場合について考えなくてはいけません」
「それ以前にどうやって話し合いをするんですか?むこうにはこちらと話し合う必要なんてないでしょう?」
ナツメが根本的な点について指摘する。
確かに探索者ギルドに俺たちと話し合う必要があるのか?
それを聞いて玉藻が人が悪そうな笑みを浮かべる。何か悪いことを考えているようだ。
「考えてませんよ」
玉藻は少しばつが悪そうに、照れていた。
何だ。演技なく素で、あの笑顔が出たのか。
それはそれで問題だな。あんな悪そうな笑顔が素で出るなんて。
「放っておいてください。
それより話を戻しますよ」
「「は~い」」
俺とナツメが気の抜けたような返事をする。玉藻は少し気にしたようだが、結局無視して話を進めることにしたようだ。
「こちらにはゲーム世界の古い情報となりますが、7大ダンジョンに関する情報を持っているのです」
確かにそれはある。でもそれはあまり意味がないのでは?
探索者ギルドなら世界中のダンジョン情報を持っているはずだし。
「意味ならあります。探索者ギルド本部の情報を抜き取ったところ、彼らは7大ダンジョンがあることと、全て制覇すれば願いが叶うことしか知りませんでした。
そして初見殺しのダンジョンの情報どころか、7大ダンジョンの場所すら、まだ全て特定されているわけではないのです」
そうなの?
「ですです。恐らくですが絶対神(ゲームマスター)によってゲーム世界の情報を、忘れさせられたのだと思います」
「何のために?」
「さぁ、さすがにそこまでは分かりません」
玉藻はお手上げとばかりに、肩をすくめた。
「……そういえば、ゲームマスターから俺に干渉があったな」
「本当ですかっ!?」
「我が主、特に問題ないかっ!?」
玉藻とナツメが驚いた顔で俺を見てくる。
「……ああ、本当だ。
少し心の中で話しかけられただけだ。
……あれ、俺の心を読んでいるなら知っていたんじゃないのか?」
玉藻が俺の顔を真剣に見つめてくる。ナツメも何か考え込んでいるようだ。
「……私たちも干渉されていたようです。
具体的にはご主人様が絶対神(ゲームマスター)と話したことや、それを示唆するようなことは全て制限されていたようです。
今は制限が解除されて問題なく確認できます」
玉藻が大きくため息を吐く。結構大変な事態になっていたんだな。
「……本当ですよ。まぁこれでこの世界も絶対神(ゲームマスター)が管理する世界と、はっきりしたことですけど」
ああ、そうなるか。言われてみればそうだな。
「話を戻します。
探索者ギルドとの話し合いですが、こちらからはゲーム時代の7大ダンジョンを提供することで既に決まっております」
え?
今度は俺が驚く番のようだ。
「いつ決まったんだ?」
ナツメが玉藻に問いかける。
「私がお茶を入れているときです。その時に探索者ギルド本部に連絡して決めました。
まだ正確な日時は決めてませんが、すぐに決まると思います。
それまでの間は探索者ギルドからの襲撃はないので安心してください」
玉藻は仕事が早いというか、独断専行を行うというか。
「我が主。『玉藻だから』」
「……そうか。そうだな」
ナツメのその一言で俺は納得することができた。
玉藻はそれを聞いて不満そうにしていたが、自分がやり過ぎているという自覚があったため何も言うことはなかった。
******
「さてそろそろ探索者ギルドと敵対した場合の対策を考えますよ」
玉藻が改めて俺とナツメを見ている。
「探索者ギルドは全世界規模の組織です。現存する最大の組織といっても過言ではありません。世界中のどの国にもあり、組織の完全根壊滅は通常の方法では不可能といえるでしょう」
玉藻の説明を聞くだけで、探索者ギルドと争うことは愚かしいことと分かる。
「探索者ギルドの本当の目的は不明です。しかし表向きの目的は探索者のダンジョン攻略の支援となっております。
探索者の囲い込みなどは行っておりますが、ダンジョン攻略の支援については全くの噓ということではありません」
探索者ギルドの役割として、ダンジョンで手に入れた資源の買取がある。これは探索者ギルドが探索者から買い取った資源を、必要とする国に売るという役割を果たしている。
ダンジョンは地域ごとに取れる資源に偏りがある。例えば野菜が取れるゴブリンダンジョンの場合、寒い地域では寒さに強い野菜しか取れない。もしくは特殊なゴブリンダンジョンなら寒さに強い果物が取れたりする。しかし寒さに弱い野菜や果物については一切出てくることはない。そういったものは暖かい地域にあるゴブリンダンジョンからしか手に入らない。
探索者ギルドは需要に合わせて必要な資源を、必要とする国へ売りさばいている。世界規模の貿易組織といってもいいだろう。今の世界において、探索者ギルドが停止すれば世界が混乱に陥るだろう。
また探索者ギルドは、探索者の管理を行っている。これは探索者が身の丈に合わない攻略をして、命を落とすのを防ぐ役割がある。また探索者による犯罪を取り締まることも行っている。事実一部の国においては、治安維持のための警察のような役割も果たしている。
「……探索者ギルドに逆らう俺たちのほうが悪者のような感じだな」
俺は改めて探索者ギルドの役割を確認すると、大きく肩を落とした。
「……探索者ギルドは世界に必要とされる一方で、その国の政府と揉めることが珍しくありません。
あらゆる資源が探索者ギルドが独占しており、国を支配するだけの力を持っている以上恐れられるのも当然といえます」
玉藻の説明で探索者ギルドが世界規模の組織で、替えの効かない必要な組織であることが分かった。しかし俺たちは敵対する可能性がある。なら対策は準備しなければならない。
「ですです。一応そうならないように話し合いますが、探索者ギルドから既に敵として認定されている可能性も、無いとは言い切れません」
その可能性もあるんだよなぁ……。中々前途は多難である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます