職業オーク

金剛石

第1話 ダンジョンの奥底にて自由を夢見る


俺はダンジョンの奥底で剣を振るう。


前から敵が来る。


剣を振るう。


敵を打倒し、そこに残されたアイテムとお金を拾う。


そしてまた敵が来る。


その繰り返し。


俺がいるダンジョンのあるこの世界は、ゲームの世界。


ダンジョンの『敵』は倒されると肉体は消滅し、お金と経験値を落とす。


たまにアイテムを落とす時もある。


もっともこのケームの世界でも肉体が消滅し、お金と経験値を落とすのはダンジョンのみ。


ダンジョン以外では普通に肉体が残るし、お金は落とさない。


経験値は手に入るらしいので、そこはゲームの世界だと思う。


このゲーム、よくわからない謎のゲームマスターと名乗る存在が作ったというこの世界に俺たち30人が呼び出されたのはいつのことだろうか?


よく覚えていない。


俺は生徒からは馬鹿にされていたが、一応教師をしていた。


あの日、修学旅行で30名の学生とともにバスに乗っていた。


覚えているのはそこまでだ。


そこからは思い出せないが、なぜか意識を失っていた。


よくあるような光る魔法陣とかは見ていない。


何が起こったのかはわからない。


ただ意識を取り戻すと『29名』の学生とともに真っ白な世界にいた。


そこで謎のゲームマスターに出会った。


ゲームマスターによって俺達には『職業』が与えられ、召喚先のゲームの世界で生きていかなければならないことが伝えられた。


ゲームマスターが作り出したゲームの世界は、俺たちにとっては現実。


俺たちはゲームの世界に召喚されたようだった。


元の世界には帰れない。


帰ることをゲームマスターに強く願い出た生徒は、命を失う結果になったらしい。


俺は本来呼び出される予定ではなかったが、欠員が出たための補充のようであった。


なんとなくだがそれだけは覚えている。


そしてよくわからないまま話が進み、俺の『職業』は『オーク』になった。


意味が分からなかった。


頭が理解を拒否した。


なぜ『職業』が『オーク』なのだろうか?


俺は状況を全く理解できなかったが、俺たち30人が召喚された。


その先のことはあまり思い出したくない。


……結論を言うと俺たち30人の中で、俺だけが生き残ることができた。


元々持っていた『職業オーク』を含めて『30個』の職業を俺は手に入れた。


色々とあり、俺は『仲間』と別れて一人で旅に出た。


俺の目標は現在オークの姿になっている俺の姿を、元の人間の姿に戻すこと。


もしかしたら人間に戻ってもあまり変化がないかもしれないが、今のこの姿は『職業がオークになった』ことにより変化したものだ。


そうに決まっている。


この姿は『職業がオークになった』ためのものだ。


必ず人間の姿を取り戻してみせる。


それと元の世界に戻りたい。


元の世界でもひどい目にあっていたが、それでも元の世界に戻りたい。


ゲームマスター曰く、地球に『還る』だけなら簡単らしい。


下位世界の住人である俺でもそれくらいは出来るらしい。


ゲームマスターのような高次元生命体なら簡単に行えるし、実際に一人を地球に『還して』いる。


地球の地中奥深くへ『還った』とのことだ。


場所はランダムであるため、たまたまそうなったらしい。


それではだめだ。


俺の目標は地球に生きて『帰る』ことだ。


地球の一部になることではない。


目標を実現させるためにはもう一度ゲームマスターに出会う必要がある。



だけど俺は、犯罪者としてダンジョン追放刑を受けてダンジョンに潜っている。



******



ダンジョン追放刑、それは死刑という刑罰を廃止したゲーム世界のとある国の最高刑罰である。


罪人を何も持たせずダンジョンへと追放するのが、ダンジョン追放刑だ。


一応罪の重さに応じて、刑期が設定されるらしい。


しかし何も持たずにダンジョンの奥底へいきなり落とされるため、通常はすぐに命を落とすことになるようだ。


俺は『最初の町』に入る際に、犯罪歴の確認を行われて捕まった。


このゲーム世界では犯罪歴は自分の行動に対して自動で更新されるらしい。


俺の刑期は1500年。


それまではダンジョンから出ることは許されない。


俺の首にあるこの首輪がそれを許さない。


残りの刑期はわからない。首輪には刑期の残りを教える機能はない。


太陽のないダンジョン内において、一日の経過がわからない。


壁に傷をつけて日にちを数えようにも、ダンジョンの壁は傷が自動で修復するため何日経っているかもわからない。


当然月数も年数もわからない。


俺は敵を見つければ剣を振るうだけだ。


それが俺の日常であり、他にすることなどない。


今度は敵が左右から来た。


「『一閃』9連続並列起動」


俺は剣を振るう。


敵を倒す。


お金をアイテムボックスへとしまう。


アイテムボックスは俺が持つ『30個』の『職業』のうちの一つ、商人の持つ『職能』だ。


この能力は魔力依存だが、幾らでも物を保存できるというものだ。魔力の消費が増えるが保存した物の、時間の経過は任意で止めらるし冷やすこともできる。ただし生き物を入れることはできない。かなり便利な『職能』である。


『職能』は『職業』が関連する技術やものを生み出す能力である。


もう少しいうとその『職業』から連想されるものを生み出す能力である。


例えば俺が今持っている剣は、剣士の『職能』によって生み出されたものである。


このように『職能』は物質を生み出すことができるし、魔法や武技を生み出すこともできる。


その『職業』から連想されれば、何であれ魔力によって生み出すことができる。


ただ連想される関連性によっては魔力の消費が大きくなったり、生み出すことができなくなったりする。


俺が持つ剣で説明すると、『剣士』を用いて生み出す場合と『戦士』や『騎士』を使う場合では使用する魔力量に違いが生じる。


剣士が一番魔力消費が少なく、騎士、戦士の順で魔力消費が多くなる。


これは同じ品質の剣を作った場合での話だ。


品質を良くしようとすれば更に魔力消費は多くなる。


ただしこれは剣の場合だ。槍の場合なら話は変わる。


この場合は騎士、戦士の順で魔力の消費が多くなり、剣士に至っては作ることは困難だ。


これは剣士から槍が連想できないからだ。


同じように斧や大槌等は騎士からの連想は少し難しい。


武器なら何でも作れるという点で戦士は便利だ。


しかしどの武器についても関連性が薄いため、どの武器を作るにしてもある程度の魔力消費が必要になる。


そういう意味では剣士で剣を生み出すのが一番簡単で、効率がいい。


『一閃』も剣士などが持つ『職能』だ。


こちらは職業から連想される技を生み出したものだ。


『一閃』は魔力を込める量によって、通常よりも強力な一撃を放つことができる。


「ん?」


気が付くと剣が折れていた。


すぐさま俺は逆の手に剣を生み出しつつ、折れた剣をその場へ捨てる。


折れた剣はダンジョンに吸収され、その場から消える。


それにしても俺はそれなりに魔力を注いで、剣を生み出しているはずだ。


その割には剣の消耗が激しい。


敵が強力ということだろうか?


わからない。


ここがどこなのかも。


進んでいる方向が正しいのかさえも。


何もわからない。


それでも俺はオークの禁術『絶精魔転』を用いて魔力を生み出し、回復系の職業の職能を用いて体を回復させる。


「それにしてもここは何階層なんだ?

 最初は空気中の魔力が濃かったから、それなりに深い階層だと思うが……」


それでも魔力が濃かったのは最初だけである。


俺は食事として魔力を食うことができる。


魔力だけでも生きていくことができる。


そのため積極的にこのダンジョンの空気中の魔力は消費していた。


その結果、気が付くと空気中の魔力は薄くなっていった。


それでも階層を移動すると少し濃くなるが、やはり時間の経過とともに薄くなる。


『オーク』としての本能が濃い魔力を求めている。


長い刑期の中で俺は濃い魔力を求めて移動していた。


敵がいれば剣を振るい、魔力が薄くなれば階層を移動する。


そうして生きてきた。


俺は目の前にある巨大な宙に浮かぶ『石』に剣を振るう。


「ん?」


珍しい。


剣を普通に振るうだけでは傷つかない『石』か。


少し本気を出そう。


「『一閃』9連続重複起動」


俺の剣が『石』を切り裂く。


どうやらここが最深部というやつかもしれない。


ここ以上に魔力の濃いところが見つからない。


仕方がない。


ここにいても仕方がない。


不本意だが当てもなく、歩き回るとしよう。


今は長い刑期を終わるのを待つだけの時間だ。


何も考えず歩き回り、剣を振るうをしよう。



******



それからしばらくして、ようやく俺の長い刑期が終わりを迎えた。


俺の首輪がようやく外れたのである。


俺は首輪を投げ捨てて、自由になったことを喜んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る