第26話 発進!魔動騎士!!



野生動物ダンジョンの探索は予想以上に難航した。理由はいくつかある。


ダンジョン内の森がかなり広大であること。森のため隠れる場所が多くあり、魔物の警戒を切らすわけにはいかなかったこと。道らしい道がなく、どこに進んでいいのかわからないこと。


簡単に思いつくだけでもこれだけある。


それと半日くらい歩いたが、魔物には出会わなかった。そのことが増々進む方向が間違っているのではないかという疑いを産む。


「想像以上に厄介ですね」


小休止を取りながら、玉藻が呟く。これはなんとなく口に出たというところだろう。


「ですです。それにしても策を考えないといけないですね」


玉藻が俺を見ながら、にっこりと笑う。少し嫌な予感がする。


「酷いですね。ですがこのまま進んでも埒が明かないと思いませんか?」


確かにそう思う。正直に言えば火炎放射器がすごく欲しいと思っていた。


「……好きですね。火炎放射器」


「かなり有能だったからな」


俺は首を縦に振りながら頷く。


「それでどうするつもりなんだ?」


俺は玉藻を見る。玉藻はにっこり笑っており、ナツメは我関せずと辺りを警戒している。


「ご主人様。ここは特訓の成果を見せるときです」


特訓の成果?あれのことか。


「ええ。ここは秘密兵器を投入し、蹂躙する時だと思います」


なるほど。力押しということか。


「ですです。それが一番効果的です」


俺は玉藻の案を採用し、準備に取り掛かることにした。



******



ドラゴンを倒すための準備として、玉藻に言われたことがあった。


『巨大化してください』


俺はドラゴンを倒すために巨大な鎧を作り、それを操るための練習をしていた。ドラゴンは統一合衆国大統領によって倒されたため、お披露目する機会はなかった。それでも地球に戻ってからも対ドラゴン用に、巨大鎧の練習を行ってきた。


それを今披露する。


高さ20メートルの金属製の巨人。デザインはアニメなどを参考に作成したため、『1号機』は赤を基調したロボットとなっている。ちなみに2号機は緑、3号機は青を基調としたロボットだ。


ロボットと言っても、実際は魔力で動かしている。魔力で動く、魔法金属で作られた巨人だ。俺は動力源として胴体収納されて、ナツメは操縦者として頭にいる。玉藻は従魔空間の中で待機している。


俺が動力源となり、魔力を生み出す、ナツメが操縦を行い、巨人を動かす。残念ながら俺よりもナツメのほうが、操縦の適性があった。そのため操縦はナツメが行うこととなった。


この巨人は魔力で動く騎士。よって『魔動騎士』と名付けている。


「魔動騎士、起動っ!!」


ロボットを動かすとなると、自然とテンションが上がる。


「ナツメ、発進しろっ!!」


俺の合図とともに魔動騎士の目の部分がキラリと光り、魔動騎士の体中に力が満たされる。それとともに魔動騎士の体が赤く光る。


ちなみに目や体が光ることに意味はない。格好良くて俺の気分が上がるだけだ。しかし案外魔法というのは不思議で、俺の気分が上がると性能も上昇していた。


「ナツメ、発進する」


ナツメも俺に合わせて必要のない掛け声を上げてくれる。


魔動騎士1号機は木々をなぎ倒しながら、森を全力走行する。



******



魔動騎士の利点はその厚い装甲にある。探索者ギルドの職員が使っていたライフル銃程度では、傷一つつかない。そのため魔物を警戒することなく、森を全力疾走するごとができる。


当然弱点も存在する。その大きさから、使える場所に制限がある。乗り込んで起動するまでの間は無抵抗になり、好きなだけ攻撃されることとなる。アイテムボックスから取り出して起動するまで、そこそこ時間がかかる。


だが一度乗り込んで動き出せば怖いものなどない。後は蹂躙するだけである。


《ご主人様がハイになり、調子に乗る。罠などを避けることができない。このような弱点もあります》


玉藻が水を差してくる。


「玉藻っ!!」


《分かっています。性能に影響するから、冷めるようなことは言うなといいたいのですね。しかし油断はしないでください。まだ何があるかわかりません》


……玉藻の言い分もわかるため、これ以上は言わないこととした。


「問題ありません。外部カメラからの映像では、今のところ特に問題ありません」


ナツメが冷静な声で、報告してくる。


「さらに速度を増加させます」


ナツメによって、魔動騎士の速度はさらに上昇する。それに伴い必要となる魔力も、増大する。無限に生み出せる俺の魔力も、一度に生み出せる出力は限界がある。魔動騎士の諸費魔力が、俺の限界に到達した。


《ナツメ。今の速度で限界です。現状はこれ以上速度を出すと魔力が足りなくなり、魔動騎士の動きが停止します》


「ナツメ。了解。これ以上の速度増加を抑え、少し減速します」


さすがに限界で動き続けるのは、色々問題がある。少し余裕を持たせて、操縦するようだ。


《ご主人様。これは課題です。ご主人様は『絶精魔転』で一度に生み出せる魔力量を増やしてください》


どうすればいい?俺は声にならない疑問が心に浮かぶ。


《『職業オーク』を進化させてください。『進化のための条件はすでに満たしているでしょう』。後はご主人様の問題になります》


……玉藻の言う通りだ。俺は自分の『職業』に向き合う時が来たということか。


「我が主。敵発見。殲滅します」


俺が悩んでいる間にナツメの方は、初めての敵と遭遇し魔動騎士で蹂躙していた。


敵の魔物の大きさは体長が2メートル以下だった。そのため踏みつぶすだけで十分だ。戦いにすらならなかった。


《動物を基にした魔物なら、そこまで大きくありません。魔動騎士の装甲を破れる魔物も少ないでしょう。油断は禁物ですが、現状は問題ないと思います》


後はダンジョンボスの部屋を探すだけか?


《そちらは発見済みです。魔動騎士による魔法の増幅を用いて、魔法で広範囲の捜索を行いました。ナツメに指示して、ボス部屋へ向かっております》


ボスを魔動騎士で蹂躙すれば探索は終わりか。


《それは難しいと思います。ボス部屋の扉の高さは5メートル程度です。残念ながら魔動騎士で入るには小さ過ぎます。ですのでボス部屋の前まで魔動騎士で進み、ボス部屋は魔動騎士から降りて入るしかありません。問題は魔物たちがボス部屋の中に逃げていることです。ダンジョンのほとんどの魔物が、ボス部屋の内部にいると考えてください》


それは少し嫌だな。ボス部屋の中で再度魔動騎士を起動させるか。


《難しいですね。そもそもそれだけの広さがあるのかどうかも分かりません。あったとしても再起動を邪魔してくるのは、予想できます。魔動騎士無しでの戦闘を考えておくべきですね》


俺たちはその後、問題なくボス部屋の前までたどり着くことができた。ボス部屋の前には入りきれなかった魔物が大量にいたが、それでも魔動騎士の相手にはならなかった。



******



俺たちはそれなりの時間を費やしたが、無事にダンジョンボスの部屋の前にいる。ボス部屋の外にいる魔物は魔動騎士によって一掃している。


「準備はいいですか?」


玉藻が隣にいる俺を見る。今回は俺と玉藻だけでボス部屋に突入する。ナツメは魔動騎士に乗ったまま、外で待機だ。魔動騎士の動力として俺の代わりに、俺の体と同じくらいの大きさの魔石を準備しておいた。あまり派手に動かなければ、それなりの時間動くことができる。


「ナツメを待機させるのは痛いな……」


「それについては話し合ったでしょう。中に入って魔動騎士が動ける大きさがあれば、ご主人様が召喚する。ダメなら私とご主人様だけ戦う。そういう作戦です」


魔動騎士にとって扉が小さ過ぎるのなら、扉を使わず召喚すればいい。起動させるまで時間がかかるなら、最初から起動させたままにすればいい。それは分かるし、納得している。


「……でも戦力の分散は危険が増す」


「だから私が一緒に行きます。私が必ずご主人様を守り抜きます。信じてください」


賜物が真剣な目で俺をのぞき込んでくる。……玉藻を信じるしかないか。


「分かった。進もう!」


俺と玉藻はボス部屋の扉をくぐり、ボス部屋の中へと足を踏み入れた。


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