第27話 絶体絶命のピンチと仲間の裏切り
「……ある程度予想していたが、魔動騎士を呼び出すのは無理そうだな」
「ですです。それと入ってきた扉も消えました。恐らく敵を皆殺しにしないと、生き残ることは無理そうですね」
玉藻は辺りを見回しながら苦笑いをしている。俺もその気持ちはよくわかる。
俺たちは周りを様々な動物というか、魔物と化した動物に囲まれていた。空には魔物と化した鳥たちが空を飛んでいる。どちらも広い部屋を見渡す限りに存在している。そして部屋はそれなりに大きいが、魔動騎士を呼び出すには高さが足りない。
「……数えるのは馬鹿馬鹿しいな」
「それより問題はボスが見当たりませんね」
こういう時にボスを倒せば、それで解決する場合がある。それをしようにも、部屋の中にボスらしきものは見当たらない。
正確に言えば、ボスと思えるような目立つ存在は見当たらない。隠れているのか、見つけられないだけかどちらかを判断すらできない。情報が足りない。
「『一閃』9連続並列起動」
俺たちの都合など無視して、魔物たちが襲い掛かった来る。俺はそれに対処すべく『一閃』を9方向へ放つ。
威力を重視するなら魔法を乗せた『火閃』等のほうがいい。しかし今は手数が欲しい。そのため威力落ちるが、手数が多く連続して出せる『一閃』を多用する。
「『防御結界』」
玉藻の方は俺たちを守るべく、俺たちの周りに防御の障壁を張る。地中からの奇襲を防ぐために、地面にも障壁を張る徹底ぶりだ。
「『一閃』9連続並列起動」
俺の『一閃』のうち8個は防御障壁の外から発生して、敵を倒している。『一閃』の最後の1個は俺の剣から発生するため、障壁の内側から発生している。
内側から発生した『一閃』は玉藻の調整により、障壁にぶつかることなく障壁の外の敵を倒している。しかし障壁と『一閃』がぶつかる一瞬だけ、障壁が一時的に解除されている。そこを狙われるとまずい。
「『一閃』9連続並列起動」
「ご主人様。中止してください!」
玉藻の声に俺は急いで『一閃』を取りやめる。
「どうした?」
「狙われています}
俺たちはそのことを想定していた。だから障壁の解除の瞬間を狙われること自体は驚かない。
「予想より早いな」
「ですです。敵はかなり賢いです」
ただここまで早く狙われるようになったのは、想定外だ。
「でも問題ない」
俺は攻撃を切り替える。普段の俺は剣を使った戦い方を主にしている。それは剣を使う『職業』が一番多いからだ。しかし俺の持つ『職業』は魔法に関するものも、複数存在している。
「『火炎旋風』」
火と風の合成魔法。障壁の外に炎を渦巻かせる。俺は『絶精魔転』により魔力切れの恐れがない。すなわち魔法による攻撃は、絶えることなく行うことができる。
障壁の外にいる小型の魔物は、次々と炎に飲まれて燃えている。鳥の魔物などは部屋の高さに制限があるため、逃げきれずに炎の中に飲まれている。
それでも燃えながらも魔物たちは、障壁を破壊するために攻撃を続ける。
「予想していましたが、耐性持つ魔物もいますね」
玉藻は障壁を維持しつつも、周りの状況に気を配っている。
状況は正直に言えば厳しい。障壁に守られながら、一方的に魔法で攻撃している。しかし魔物は程度の差はあるが、魔法の耐性を持つものが多い。障壁を攻撃する魔物の数は多い。このまま持久戦を続ければ、俺たちの勝ちは確定している。
「大型の魔物が動けば、状況が変わります」
玉藻が状況を厳しいと判断した根拠を告げる。そう問題は大型の魔物だ。今俺たちが対処している魔物は鳥とタヌキ等の小型の魔物だ。
イヌやオオカミといった中型の魔物やクマなどの大型の魔物はまだ参戦していない。小型の魔物が邪魔で参戦していないのかもしれないが、結果として中型と大型の魔物は温存されている。
「しばらくは膠着状態かな」
そう思っていたが、事態は急変する。小型の魔物たちが後ろに下がっていく。その代わりに前に出てきたのは大型の魔物であった。
「力づくで障壁を破壊するつもりか……」
戦いは望まない状況へと変化していく。
******
大型の魔物は障壁の一瞬の穴に飛び込むようなことはできないが、その代わり『一閃』で倒れる程弱くもない。なら魔法攻撃を続けよう。
「『火炎旋風』」
2足歩行で遅い来るクマを炎で飲み込む。しかしクマは炎を突き破り、こちらを攻撃し始める。その攻撃は障壁にひびが入るほど、強い。
「ご主人様!白兵戦の準備をお願いします!!
障壁が突破されます!!」
玉藻を見ると、玉藻はいつになく真剣な顔つきをしていた。俺は当初玉藻が何を言っているのか理解できなかった。理解したくなかった。でも理解してしまった。
玉藻の言った言葉を理解するのと同時に、クマによって障壁が破壊される。クマが真っすぐに俺を襲い来る。
「『一閃』9連続重複起動追加『火炎』」
『一閃』9個に『火炎』を加えた一撃だ。その一撃はクマを一撃で絶命させる。しかしそれと同時に横から強力な一撃が俺に加えられる。
「ご主人様!」
俺はその一撃で遠くへと吹き飛ばされる。幸い鎧を貫通するような攻撃では無かったし、俺は常日頃準備していた回復魔法を使ったので怪我はない。ただ玉藻と離されてしまっただけだ。
まずいな。孤立した。
俺の周りを見ればクマが取り囲んでいる。おそらく玉藻も似たような状況だろう。
《ですです。こちらもクマに取り囲まれています》
玉藻から声が届く。玉藻も同じ状況らしい。それにしても軽いな。もしかして余裕ある?
《こちらの心配は無用です。ですが助けに行けるほどの余裕はないです。何とか耐えてください》
俺を守り抜くといったのはどこのどいつだ。守れてないじゃないか。
《我が主。こちらナツメです。こちらも魔物の襲撃があり、助けに入ることは困難です。ご自身の力を信じて、切り抜けてください》
そんなやり取りをしている間も、俺はクマの攻撃を受け続けている。何度も吹き飛ばされながら、回復して耐えている。本当に死にそうだ。
《ご主人様。大丈夫です。耐えられています。この調子なら死ぬことはありません。もし攻撃が鎧を貫通することがあっても、私が必ずご主人様の命である『魔石』は守り抜きます。命だけは決して奪わせません。安心してください》
この一方的に攻撃されている状態で、安心できてたまるか!ふざけているのか!?
《それはこちらのセリフです。この程度の相手に苦戦しないでください。自力で倒せるようになってください。この程度の『試練』は乗り越えてください。『何のためにお膳立てをしたと思っているのですか?』》
……こいつわざと俺を追い詰めやがった。
《私はご主人様のためなら、どんな酷いこともできます。『私はご主人様の命令を聞く存在ではなく、ご主人様のために行動するための存在です』》
……そうだ。こいつはそういうやつだった。
《我が主。もしかして忘れていたのですか?玉藻はそういうことができる存在ですよ》
ナツメ?お前……もしかして気付いていたのか?
《当然です。玉藻から相談を受けていましたから。てっきり我が主も気が付いているものと思っていました》
俺はあちこちに殴り飛ばされながら思う。こいつら酷い。こいつらを信じた俺が馬鹿だった。
《ご主人様。私ご主人様のこと洗脳できますから、疑おうと考えてもその気持ちを消し去れますよ?》
えっ?
《これからのことを考えると今回のことについては、記憶を操作したほうがよさそうですね。さてそろそろ覚醒してください、ご主人様》
玉藻の声とともに俺は攻撃に耐えるために丸まりながら、ゆっくりと意識を落としていった。玉藻やナツメに対して思うこともあったが、その感情と記憶は意識が落ちるのと同時に消えていくのを感じた。
俺は強くなるために自分の力を見直すこととなった。
自分の過去と向き合う時が来た。
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