第28話 職業オークとオークキング



俺はバスに乗っていた。今日は修学旅行。俺は担任教師として、30名の学生とともにバスに乗り込んでいた。


そして事故は起こった。この事故でバスに乗っていた俺たち全員は死ぬはずだった。


でも俺たちはゲームマスターという謎の存在によって助けられた。1名の生徒が地球に『還された』が、その穴埋めで俺が助けられた。よくわからないがアニメや漫画、小説などである異世界転生または異世界転移というやつか。


元の世界に戻ることは困難のようだ。でも問題ない。


俺は現実が嫌いだ。だからいつも空想の世界にあこがれていた。


異世界転生や異世界転移とかの小説等は好んで見ていた。だから知っている。


ここから俺の人生は新しく始まる。だから帰れなくてもいい。


「さて皆さんには『職業』を与えたいと思います。これにより転移先の世界での『皆さんの』力が決まります。『早い者勝ち』ですが慎重に決めてください」


ゲームマスターの声が聞こえてきた。


俺の前には空中に浮かぶ謎の画面がある。そこにはゲームマスターが言っていた『職業』がたくさん記載されていた。


その中の『勇者』を見る。先程までは光っていた『勇者』は、その光を失っている。そうか、『早い者勝ち』か。他の人間も同じ画面を見ていて、他の人間が選んだものは選ぶことができないのか。


俺はすべての職業を見ていく。何か隠し『職業』のようなものがあるかもしれない。それを見つけようと、俺は最善を選び取るために色々確かめていた。


「すいませーん。職業にオークっていうのはないのですか?」


その声はいつも担任の俺を馬鹿にする生徒の声だった。名前は思い出せない。


俺自身の名前も思い出せない。でもいい。問題ない。


その生徒は俺がオークに似ているといって、馬鹿にする生徒だった。


「ありますよ。でも『勇者』を選んだあなたは選ぶことができませんよ?」


ゲームマスターは俺を馬鹿にする生徒の質問に、丁寧に回答していた。


「問題ありません。それを選ぶのはあいつですから」


俺を馬鹿にする生徒は俺の方を指さしていた。


「ええ、分かりました。ではそうしましょう」


ゲームマスターの声とともに、俺の前に浮かぶ画面が光り輝く。


『オーク』


俺の職業は『オーク』になった。変更することはできなくなっていた。


「どっ、どうして!?」


「『早い者勝ち』です。言ったではありませんか」


ゲームマスターはにっこりと笑っているような感じがした。


こうして俺の『職業』は『オーク』になった。



******



俺の『職業』が『オーク』になった後は、全員がすぐに『職業』を決めた。他の人間に遊びで決められては、たまったものではないからだ。


「さて皆さんが『職業』を選び取りました。そこで私は召喚される皆さんに一つのプレゼントを与えようと思います。

 能力『相続』です。これはゲーム世界では血縁関係の間でしか使えない能力です。それを皆さんを対象に与えます。これで皆さんは皆さんの誰かが死んだ場合、死んだ人間の『職業』を分配して引き継ぐことができます」


何かを与えられたことは分かった。でもその内容がよくわからない。


ゲームマスターが説明を続ける。


「例を出して説明しましょう。

 例えば『職業オーク』が死んだとします」


勝手に殺すな。


「その場合、残った29人に『職業オーク』29分割してが与えられます」


「いりません。拒否することはできますか」


誰かが言った。それが全員の意見だなと感じた。それにゲームマスターが回答する。


「出来ません。強制です。

 強制的に『職業オーク』の29分の1が与えられます。なお追加で誰かが死んだ場合はその人間の『職業』と一緒に、『職業オーク』が29分の1から28分の1になります」


ゲームマスターはそこで一旦区切り、辺りを見渡す。


「つまり1人だけ生き残った場合は、その人間が30個の『職業』を手に入れることができます。

 これはゲーム世界においてかなり強力な力になりますよ」


ゲームマスターがにやりと笑ったような気がした。



******



『職業』と強力な武器になる可能性を秘めた『相続』を与え終えたゲームマスターは、用事が済んだらしく姿を消した。


そしてしばらくの間、その場に留まることとなった。一応ゲームマスターからのサービスらしい。


その場では罵声が飛び交った。俺も大分罵られた。俺が『オーク』を選んだわけではないのに。


その場性が飛び交う最中に、俺たちの足元が急に光始めた。


俺たちは召喚された。



『オーク』によって



俺たちを待ち構えていたのはオークだった。俺たちを召喚したのもオークだった。俺たちを必要としたのもオークだった。


ゲームマスターは言っていた。


『皆さんは必要とされて召喚された。私の世界の住人が皆さんを必要としている。だから私は皆さんを返すわけにはいかない。せめてのお詫びに力を与えます』


そう言っていた。


《ご主人様。正確には違います。ご主人様たちはゲーム世界の異物です。異物のままだとゲーム世界に入れると問題があるから、力を与えて異物ではないと誤魔化すことに絶対神(ゲームマスター)はされたのです》


過去の回想に玉藻のコメントが入るの?


《必要なら行います》


……そう。話を続けよう。


オークたちは俺たちを待ち構えていた。『職業』の使い方も知らず戦う準備もしていない俺たちは、戦う準備をしていたオークにとって敵ではなかった。


男子生徒14名はそこで絶命した。女子生徒15名は服を奪われ、裸にされて動けないように拘束された。さらに薬のようなものを与えられて、女子生徒は全員正気を失った。


俺はオークの仲間として認められた。俺だけが無事だった。


オークは俺たちをオークキングを選ぶための儀式のために召喚した。


男の生徒は食料となった。女の生徒は苗床となった。


儀式の内容は簡単だ。全てのオークが、全ての女性と交わる。そして自分の子供が一番多く生まれたものがオークキングとなる。


普通は複数のオークと交わった女性が産んだ子供がどのオークの子供かなんて分からない。


しかしこの世界のオークは、それを判別できる能力がある。何故ならこの世界のオークは子供に恵まれなかった王族の男が、ゲームマスターに子供を望んだことで生まれた種族だからだ。多少歪んだ形で叶えられたが、その力は本物である。


オークには妊婦の腹を見て誰の子供が宿っているかわかる能力がある。当然子供を見ても誰の子供かはわかる。


その方面に特化した能力がオークにはあった。


《ちなみにその王族に仕えて、王を守る強い肉体を望んだ者がオーガになりました。

 オークもオーガも代を重ねるにつれて知性が衰えていきましたが》


それでもオークには異世界償還を成功させる程度の知識はあった。


《元になった王族が魔法を得意としておりましたから》


オークの仲間に認められた俺も、その儀式に参加していた。


男子生徒を食料として、女子生徒を苗床とした儀式に。



******



女子生徒15名はそれぞれが複数のオークの子供を産んだ。オークの子供は母を食べて大きくなる。


30名のうち、俺だけが生き残ることができた。


たくさん生まれたオークの子供に俺の子供はいなかった。


俺の遺伝子は他のオークよりも劣っていると判断された。俺はオーク一族の中の最底辺となった。


《ご主人様。大切なことを忘れています。『ご主人様はオークキング相続順位の最期になった』。このことは非常に重要です》


複数のオークが集まり、儀式を行うことでオークキングを選ぶことができる。それがオークの儀式だ。


オークキングは儀式の参加者で一番多くの子供を産ませた者が手に入れることができる。そしてオークキングが亡くなった場合は、儀式に参加したオークで次に優秀なオークがそれを受け継ぐ。


基本的には子供の数が多い順だ。子供の数が同数なら男性器の大きさで順位を決めていた。


最底辺の俺は自分に起こったことや、自分が行ったことに後悔をしていた。異世界だと浮かれていた自分を反省していた。


元の世界に戻りたいと考えるようになり、オークの群れから出ていくことにした。


《でもオークキングの相続順位は残されていた》


……そう、なのか?オークキングは笑って俺を送り出してくれた。でも俺を群れから出ていくように言ったのは、オークキングだ。


『お前はこの群れの中の異物だ。この群れの中にいるべきではない。

 俺たちとは違い、お前は『森』の外でも生きていける。

 だからお前は群れから出ていけ』


そういったのはオークキングだ。でもオークキングは俺を『仲間』として認めてくれていた。


《ええ、ご主人様と同じです。ご主人様もオークたちのことを『仲間』と思っていますよね》


ああ、そうだ。短い期間だが一緒に生活したオークたち。色々と教えてくれて助けてくれたオークたちは、俺の『仲間』だ。


俺のことを馬鹿にしたり、見下したりした生徒どもとは違う。


彼らこそ俺の『仲間』だ。


《今こそ『仲間』から受け継いだものに目覚めるときです》


そうか。



俺は『オークキング』だ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る