第41話 結果が決まっている戦い



「さて話を戻そうか。

 確かその男と契約しろという話だったな。

 その男は確か、オークだった男か?

 今は人間のようだが……そんな話を受けると思っているのか?」


「思っていますよ」


玉藻がホワイトに対して自信満々で言い切る。


「あなたはここでの生活に飽きてきたのではありませんか?

 多少は外のことを見ることができるようですが、あなたはダンジョンボスだ。

 このボス部屋から基本的には出ることができないのでは?

 出来たとしても周りにいるのは、ドラゴンとワイバーンのみ。

 そこまで知性が高いように、見えませんでした。

 誰かと会話することすら、不自由していたのではありませんか?」


玉藻がつらつらと根拠を述べていく。


「……そんなことは」


「あるでしょう」


感情で否定しようとしたホワイト、玉藻がさらに口撃する。


「ホワイト。あなたはダンジョンボスとして戦う前に、会話を望みました。

 それに久しぶりといっていました。

 それが答えなのではありませんか」


ホワイトは感情が呑み込めず、辛い表情をしている。


やがて感情に折り合いがつけられたのか、大きく息を吐いた。


「……認めよう。その通りだ。

 だが申し入れは受け入れることができない」


「何故です?」


玉藻は心底不思議そうにホワイトに尋ねる。


「私にも『武闘家』としての誇りがある。

 戦うことなく軍門に下ることはできない」


「……つまり奴隷にしたければ、倒してみろということでよろしいですか?」


玉藻が真顔でホワイトの言葉を要約していた。


ホワイトも首を縦に振り、ホワイトと戦うことが決まった。


「……ところで実力は依然と比べて、どのような感じですか?」


「ああ。『統一合衆国大統領』は失ったが、代わりにダンジョンボスになることで『職業』『竜王』を手に入れた。

 それにこのダンジョン内でずっと研鑽を重ねてきた。

 むしろ強くなっているといえるはずだ」


ホワイトは今日一番の笑顔を見せてくれている。


「ではこちらの相手はご主人様……は無理そうですね」


俺は青い顔をして、首を横に全力で振っている。


「ナツメ、降りてきてください」


玉藻は魔動騎士に待機していたナツメに声をかける。


確かにそれが一番いいだろう。近接戦闘なら、ナツメが一番強い。


「ところで一つ聞いてもいいですか?」


「なんだ?」


「ホワイト、あなたの性別は?」


玉藻が突然関係のない質問を行う。


「男だ。それが何かあるのか?」


「いえ、計画の変更の必要があるかの確認です。

 ありがとうございます」


「?何の話だ?」


「今はまだ関係のない話です」


玉藻はナツメと打ち合わせのために席を立つ。


「どういうことかわかるか?」


ホワイトは俺に玉藻の言った意味について、説明を求める。


「いえ、さっぱり」


玉藻の言ったことの意味は、俺にも見当もつかないことであった。



******



「紹介します。ご主人様の最高傑作の人形のナツメです」


玉藻がホワイトにナツメを紹介していた。ナツメもホワイトに対して頭を下げて、挨拶をしている。


「ナツメは自己進化する人形で、戦いの中でどんどん強くなります。

 ご主人様の代わりに、ナツメがあなたと戦います」


ナツメは俺から大剣を受け取ると、それを構える。


「勝負は1対1です。私と真琴とご主人様は障壁を張り、避難しています。

 私たちに攻撃するのは禁止です。

 勝敗はどちらかが負けを認めるまで。

 ……何か質問はありますか」


「…………特にない」


ホワイトは少し考えた後に、無表情で答える。


「そうですか。

 私たちは避難するので、適当に始めてください」


玉藻の取り仕切りで勝負が始まろうとしていた。俺たちは勝負の邪魔にならないように、離れた所へ避難することにした。


俺が障壁を張ることで、準備は万端だ。


気が付くと、二人の姿が消えていた。……いや、戦いが始まっていた。


かなり速いスピードで動き回るために、目で動きを追うことが難しい。慣れるまで少し時間がかかりそうだ。


「……ホワイトは、勝つつもりがありませんね」


玉藻がぽつりとつぶやく。


どういうことだ?俺は疑問の満ちた目で、玉藻を見る。


「主様。ナツメは主様から魔力の供給を受けて、再生して進化します。

 つまり主様に手を出すのを禁止にしたら、普通に考えて勝てません」


玉藻の代わりに真琴が回答を教えてくれる。


「それにホワイトは私が準備した『毒茶』と『毒菓子』に気付きながら、普通に召し上がっておいででした。

 自分の肉体の能力に自信があるのかもしれませんが、負けても死んでもどうでもいいと思っておいでのようです」


……一人でいることはそんなにきつかったのだろうか。


「退屈だったのでしょう。

 最初は自分が生き残るためにダンジョンを支配したのかもしれませんが、ダンジョン内は何も変わり映えせず退屈で仕方がなかったのでしょう。

 今回も勝つことが目的ではなく、鍛錬した自分の力を試すために戦いたかっただけなのかもしれません」


真琴がホワイトの心情を推し量る。


「まぁ、ナツメならそういう相手には、もってこいといえます」


玉藻はにっこりとしている。


「……そういえば、お茶もお菓子も味に違和感を感じなかったが」


俺のものには入っていなかったのか?


「そのことですか」


真琴は嬉しそうに答える。


「お茶もお菓子も完成した味に毒を加えると、味がおかしくなり気付かれやすくなります。

 そこで毒の味を含めて、お茶やお菓子の味を作り上げました。そうすることで味に一体感が生まれて、気付かれ難くなるわけです。

 今回の自慢の一品です」


なるほど。俺にも毒は盛られていたわけか。……耐性で防げたということか。


「ですです。普段から食事に毒を混ぜてますから、ご主人様の耐性はかなり高くなっています」


……そうなんだ。気が付かなかった。


まぁ普段からもっと酷いことをされているため、今さら毒くらいどうでもいいと思える。


少し考え方が毒されてきたかな。毒だけに。


「さて、やはり最初はホワイトのほうが優勢ですね」


読心で俺の心を読んでいるはずの玉藻は、俺のことを無視して戦いへと目を向ける。


戦いはホワイトが優勢で進んでいた。大剣を持つナツメが、ホワイトの速さに翻弄されて一方的に攻撃を受けている。


「しかしそれもいずれひっくり返ります。

 ご主人様は魔力の供給だけは絶やさないように気を付けてください」


確かにナツメから要求される魔力量が、どんどんと大きくなってきている。


それに伴い、ナツメの動きもどんどんと良くなってきている。


ホワイトの速さにも少しずつだが、対応できるようになってきている。


「もうしばらくかかりそうですね」


玉藻の言う通り、決着にはまだまだ時間が必要のようだ。


戦う二人の顔は笑顔で、とても楽しそうに戦っていた。



******



かなりの時間が経過した後に、ようやく決着がついた。


当然ナツメが勝利している。


外部から魔力を供給されて回復し、進化を続ける人形に持久戦で勝てるはずがない。


短期決戦で決めようにも、供給を止めることは禁止されている。後は重要な部分の破壊や跡形がなくなるまで消し去ることだが、それも外部からの回復手段が存在しているため勝利に結びつかない。


はっきり言えば、最初から勝てない勝負をホワイトは行っていた。しかし敗北したホワイトの顔は、非常に晴れやかなものであった。


「負けたなぁ~」


ホワイトは大の字で地面に寝転がっている。勝利したナツメも膝をつき、剣を支えにして何とか体勢を維持していた。


「化け物ですね……」


「これでも『竜王』だからね」


負けたホワイトが非常に明るく元気になっていた。体力的には限界のはずだが。


「ホワイト。勝ち目のない卑怯な戦いでしたが、こちらの勝ちです。

 約束通りご主人様の、従魔で奴隷で召喚獣になってもらいます」


玉藻が上からホワイトをのぞき込みながら、事実を伝える。


「そんなことは分かっていたことだ。

 俺は全力で戦うことができて。全てを出して敗北した。

 なら敗者は勝者に従おう。

 そうい約束だったからな」


「…………あなたまだ何か『隠し玉』があったのではないのですか?」


玉藻はホワイトを見ながら、探りを入れる。


「…………確かに『ドラゴン化』という巨大なドラゴンに変身する能力は持っている。

 しかし時間がかかる上に無防備になるため、ナツメとの戦いでは使用することができなかったよ」


ホワイトは『隠し玉』の存在を認めるも、この戦いには影響がないと断言する。それだけホワイトにとってこの戦いは大事なものであったのだろう。


俺はホワイトを奴隷で従魔で召喚獣にしながら、そんなことを考えていた。


ホワイトが俺の所有物になったことで、ダンジョンコアへ通じる扉が開く。


ただの壁だと思っていたところが、急に光が漏れてきて次の部屋への通路ができた。


「あの奥がダンジョンコアだ。好きにしてくれ」


「……あなたも行くんですよ。

 ご主人様、お手数ですがホワイトをお願いします。

 私がナツメを持っていきます」


玉藻は魔法を使い、ナツメを持ち上げて背負っていく。俺はホワイトを持ち上げて、背負うと次の部屋へと歩いて行った。



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