第42話 玉藻の独断専行と俺の中の呪い



俺たちはダンジョンコアのある部屋に入った。部屋自体はそんなに広くない。先程までのボス部屋のほうが広いくらいだ。


ボス部屋はホワイトがドラゴンに変身してもいいように、かなりの大きさがあった。それと比べるのはおかしな話か。


ダンジョンコアのある部屋は全て石を敷き詰めて作られており、その中央には宝石のように輝くダンジョンコアが浮かんでいた。


ダンジョンコアは白く光り輝く。このダンジョンのイメージカラーは白なのか。


「……それはたぶん私の影響だな」


俺に背負われているホワイトが、背後でそう呟く。


「ご主人様。一度ダンジョンコアを破壊してください。

 そのあと私がダンジョンコアを取り込みます」


玉藻はニコニコ顔で、楽しそうだ。


「そういえば、このダンジョンコアを玉藻が取り込んだらどうなるんだ?」


「私が強化されます。……そういうことではなく、他のダンジョンへの影響という意味ですね。

 それは問題ありません。今回はダンジョンコアは取り込みますが、ダンジョン自体は残します。ですので周りへの影響はほとんどありません。

 変わるのはダンジョンボスがボス部屋を守っていたドラゴンになることと、全体の難易度が低くなることくらいでしょう」


玉藻は笑顔で話しているが、何か裏がありそうに感じる。


「それが貴様の目的か、狐め。貴様がやっていることは難易度の調整ができない7大ダンジョンを、『ゲームマスターが』難易度を調整できるようにしているだけではないのか?

 言えっ!貴様、ゲームマスターに何をもらった!?」


俺の背中から降ろされたホワイトは、座り込みながらも玉藻を睨みつけている。


「何をもらったのかですか?

 『お金』です。私はゲーム世界のお金を、こちらの世界のお金に換金してもらいました。

 何をするにしても『お金』は必要です。私の『職業』である『犯罪者』をうまく使えば、調達することも可能でしたが、やはり元手がないと不便です。

 私は『ご主人様のために』一刻も早く女性の体を手に入れたいのです。

 そのためなら、絶対神(ゲームマスター)と取引くらいしますよ」


玉藻は本心からそういっているのが、俺たちにはわかった。俺は玉藻が裏切っているとは思わない。


確かにこちらの世界に戻った時にお金があるのは助かった。俺もその恩恵を受けている。だから玉藻を攻めることはしない。それに玉藻が独断専行を行うのはいつものことだ。普段の行動より、俺の被害が少ない。


うん、全く問題ないな。


「それで玉藻。ゲームマスターの目的は何なんだ?」


俺は俺の心を読んで少し憮然としている玉藻に話しかける。


「信じられないかもしれませんが、この世界の安定化です。

 当初7大ダンジョンの強力な力が無ければ、この世界にダンジョンは根付きませんでした。しかし完全にダンジョンが根付いた今は、逆に害悪になっています。

 7大ダンジョンは力を増すために、いずれ人類を駆逐します。絶対神(ゲームマスター)はそれを防ぐために、私に協力を依頼したのです」


なるほど?今一つ分かり難いな。


「玉藻。3行で分かりやすくいってくれ」


俺は無茶ぶりをする。



「絶対神(ゲームマスター)はこの世界の調整に失敗しました。

 再調整するためには7大ダンジョンが邪魔になります。

 そのため私にお金を渡して、7大ダンジョンのダンジョンコアの駆逐を依頼しました」



玉藻は俺の依頼に応えてくれた。


「……なるほど。7大ダンジョンによってゲームマスターはこの世界への干渉を制限されているということか。7大ダンジョンに干渉できないだろうことは知っていたが、それがこの世界全体にまで及んでいるということか。

 ……確かにダンジョンコアから謎のエネルギーが放出されていた。それがゲームマスターのこの世界への干渉を阻害していたということか。

 しかしそれだけのエネルギーを地球から吸収しているとなると……」


ホワイトは何か難しそうに考え込んでいる。


やがて答えが出たのか、目を見開いて大声で宣言した。



「このままでは地球は滅亡する!!」



「だからそうならないように、私たちがダンジョンコアを破壊し吸収するんですよ」


玉藻があきれた様子でそういった。


何か急に話が壮大になったな……。



******



「そういえば、不正ツールアイテムとかは使えるようにしてもらえないのか?」


俺はふと疑問を口にした。既に一度ダンジョンコアは破壊している。その後再生したダンジョンコアは玉藻の口から吸いこまれていった。


ダンジョンコアはそのまま飲み込むと危険らしく、危険防止のために一度破壊して再生してから飲み込むらしい。よくわからないがそういうものらしい。


「……ああ、そのことですか」


俺たちはダンジョンコアの部屋に丸テーブルを出して、次の打ち合わせをしていた。


席順は俺の右が玉藻でその隣が真琴となる。真琴の隣はホワイトになり、その隣がナツメでナツメの隣が俺になる。


俺の発言は、その打ち合わせの最初になる。


「残念ながら無理ですね。そこまでの干渉能力が絶対神(ゲームマスター)にありません。

 恐らくですが、それができるようになるには7大ダンジョンの制覇が必要ですね……」


玉藻は残念そうに肩を落としている。


俺たちは7大ダンジョンの制覇のために、不正ツールアイテムを必要としている。


それなのに不正ツールアイテムを使えるようになるためには、7大ダンジョンの制覇が必要とは本末転倒である。


「さて気を取り直してはじめましょう。

 今回から新しい仲間が加わりますので、7大ダンジョンの攻略について少し詳しく話していきますよ」


玉藻が笑顔で場を仕切りなおした。


「まず私たちは7大ダンジョンの制覇に向けて、ドラゴン火山を制覇しました。

 これはこのダンジョンのダンジョンコアを吸収することで、私の『火』の力を強化する目的がありました」


初めて聞く話だが、そういうことも含めて玉藻に一任していたため問題ない。


「いや、そういうことはきちんと共有しておけよ」


ホワイトが俺の心の声にツッコミを入れる。


「ええ、新しく仲間になったホワイトの言う通りですね。

 ……そういえば名前はホワイトでよかったのですか?」


確かホワイトは適当に考えた偽名だったような……


「俺の名前は……いや、ホワイトでいい。何か元の名前が思い出せない。

 ホワイト『が』いい。それが俺の名前だ」


ホワイトは何か吹っ切れたようにそういった。


「そうですか。ならあなたの名前はホワイトです。

 私は玉藻。あなたの隣がナツメと真琴になります。

 それからご主人様です」


「ん?名前はないのか?」


ホワイトは疑問を呈する。


「外向けの名前は存在します。しかし私たちは誰も使用していません。

 それを使って呼ぶことが正しくないからです。

 あなたも立場をわきまえて、あなたなりの呼び方をすればいいでしょう」


俺に対することは、玉藻が無茶苦茶を言っているように思う。しかし俺の本来の名前は俺にふさわしくないし、偽名も違う。なら立場で呼ばれているほうが、しっくりと来る。


何故だろう。何故本来の名前がふさわしくないと思えるのだろう?


「……とりあえず私は『マスター』と呼ぶこととしよう」


ホワイトは何か釈然としないものを感じながらも、俺への呼び方を決める。


「……なるほど。そろそろはっきりとしておきましょう。

 何故本来の名前がふさわしくないと感じているのかを」


どうやらその理由は玉藻が知っているようであった。



******



「結論から申し上げますと、元の名前を持つ人物の精神はすでに亡くなっています」


玉藻は真面目な顔でそう告げた。


なら今生きている俺は何者なんだ?


「なら今こうしている私は何者なんだ?」


ホワイトは真っすぐに玉藻を睨んで問いかけている。


「『職業』が生み出した元の人物を参考に作られた疑似人格です。

 さすがに300年という時間は普通の人間の精神には耐えられなかったようです。

 もしくは別の要因かもしれませんが、それは分かりません。

 とにかく亡くなってしまった精神の代わりを、肉体が無事のため『職業』が作り上げた。

 それがホワイト。現在のあなたです」


玉藻の目線がホワイトから俺へと向けられた。


「ご主人様の場合も似たような状況です。しかしご主人様は『職業』が呪われています」


呪い?どういうことだ?


「ご主人様は29人から『相続』により『職業』を受け取っています。ご主人様は死んでいったオークたちから、『オークキング』を譲り受けています。

 ご主人様は多くの犠牲の上に立っています。犠牲となった者の無念が『職業』に憑りつき、呪いとなっているのです」


玉藻は俺に説明してくれる。


確かに俺は犠牲の上に立っている。言われてみればその通りだ。『職業』が呪われているというのも、納得がいく。


「でもそれでは困るんですよね」


玉藻がにっこりと笑っている。


「呪われていないホワイトは別として、呪われているご主人様は問題です」


「確かにそうだな」


「……そうですね」


玉藻の声にナツメと真琴が同意していた。どういうことだ?


俺は何か忘れている?


「ご主人様。墓場ヴァンパイアは呪いを吸収します。それで強くなるんです。

 ですのでご主人様には、再び自分と向き合っていただき呪いを克服してください。

 次に向かうダンジョンは墓場ヴァンパイアになります」


そうか。そういえばそうだった。


俺は墓場ヴァンパイアに向かうために、自分の中の呪いと向き合うこととなった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る